第4話

アズサと図書室で話始めてからだいぶ時間が過ぎた。私用もあるためそろそろ席を外さなければとシンは思い至る。


「そろそろ帰るな。だいぶ暇も潰れただろ」


「あら、こんな広い空間にこんな可憐な女性を再び1人ぼっちにさせようというのかしら。男の風上にも置けない人間ね」


「可憐とか自分で言うのかよ。俺にも用事があるんだよ」


「用事?急ぎの用なの?」


「うーん、微妙だな」


「何の用事なの?」


「依頼所に行くだけだよ。それでよさそうな依頼があればそれを受ける」


「依頼所って、あなた魔道士なのにお金がないの」


貴族ほどではないが魔道士も基本的には魔法を使えない一般人よりは地位が高い。例えば魔法を使える者と使えない者が全く同じ時間、同じ労働をしてもその対価として受け取る給料は魔法を使える者の方が多い。


「言ってなかったが、俺はアーラムっていう小さな村からこのオウトの街に来た。だから、もともとこの街にいるやつと違って金に蓄えがあるわけでもない。だから、ちょくちょくこの街の依頼所に行って金を稼いでる。どこかの店で働くよりよっぽど気が楽だし、短時間で効率的に稼げるからな」


「あら、そうだったの」


アズサはそう言って、指に顎を乗せ考える仕草をした。


「あら、そうだったんですよ。それじゃな」


少し雑な切り返しをしてシンは席を立った。本当に純粋にその場を去ろうとしていたシンにとって、その後のアズサの言葉は青天の霹靂のようにシンに襲いかかった。


「待ちなさい。その依頼所、私も一緒に行くわ」


彼女の突拍子もないその言葉にシンは一瞬言葉を失った。


「はぁ!何言ってんだよお前依頼所だぞ!行ってどうするんだよ!!」


「あなたが受ける依頼を一緒にこなすのよ。それ以外に何があるというの」


「あのな、依頼所にくる基本的な依頼っていうのは街の周辺に出現するモンスターの討伐が基本だ。それをわかってて本気で言ってんのか!」


「当然じゃない。そもそもモンスター討伐依頼を出しているのは私達貴族側の人間なのよ。それを依頼所が仲介してあなた達のような人に斡旋しているの。知らないはずがないわ」


「だったらなおさらなんで行くとか言い出してるんだよ。一歩間違えれば命を落とすことにもなるんだぞ」


「私にかぎってそれは無いわ」


そう端的に言ってのけるアズサにシンは多少苛立ちを覚えながらも、先程の戦闘での彼女の実力を鑑みればただの虚勢ではないとも思えてしまう自分がいた。


「少しばかり戦いが上手いからって調子に乗るなよ。訓練と実戦じゃ全然違う。お前実戦での戦闘経験あんのかよ」


「私は貴族のなかの貴族よ。命がけの戦闘? そんなものあるわけないじゃない」


「あのなー!!!」


随分とふざけた回答を聞いたシンはさすがにツッコミを入れた。


「でも、だからこそ行かなければならないのよ。強くなるためには」


それまでの会話口調から一転し、アズサのその言葉には強い意志がこもっていた。シンにはその言葉の一字一句から彼女の覚悟を感じた。


「お前、なんでそんなに強くなろうとしてるんだよ」


「言ったでしょう。野心があると。叶えたい願いがあるの。それを叶えるには強くならなければならない」


アズサはのその言葉はとても力強かったが、と同時になぜかどことなく全く逆の|脆弱(ぜいじゃく)さも兼ね備えているようにシンには感じられた。それでも彼女の目は本気の眼差しでシンを捕らえて止まなかった。


「、、、お前が負けず嫌いな理由、何となくだけどわかった気がする」


「急に何かしら。話を逸らさないでくれる」


「俺の中では一緒に行こうって言ったつもりだったんだけど」


「、、、わけがわかないわ。話の文脈が全く通っていないわよ」


「悪かったよ」


シンがそう言うと彼らは一緒に図書室を出て依頼所に向かった。

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