第19話「異世界転生勇者と巻き込まれ聖女」

「カイ君……」


「コマレ……」


 聖女[まきコマレ]と勇者[伊勢いせカイ]は駆けより、美しくも感動的な再開を果たし…



「勇者様ダメですの!!」



 台無しである、女神[溺愛神できあいしんかほこ]が勇者にタックルをかましたのだ。


 [アシステッド大聖教会]巨石の街で更なる重厚さと威厳を誇るドーム屋根の重厚建築、女神自らこの街と共に鳴り物入りで作った自己中ナルシスト巨大聖堂であり、礼拝堂の奥には黄金色にサンゼンと輝く腰に手を当て高らかに天を指差す仁王立ちの知的美人スーパーモデル女神像のお姿があった。



「なにするんですか!かほこさん!!」



 勇者は彼女と黄金神像の前でその黄金神像とは似ても似つかぬモデルのストーカー女神をひっぺがそうと必死だ。


「嫌ですの!離しませんの!!」


「コマレ違うんだ、コレには深い事情が!」


 勇者は彼女に対しまるで浮気の現場押さえられましたって感じのリアクションを披露する羽目になった。



「またですかカイ君……」



 またですか?作者はこの文を書きつつイヤな予感しかしなかった。


「相変わらず回りに女の子ばかり……家でも学校でも、神社でも、道場でも、何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も!」



「男の子の夢なんですか?ソレ!」



 彼女の冷たく辛辣しんらつなお言葉が勇者の心をエグリ、そして元の世界でも勇者がやらかしていたのが今この瞬間読者様にバレる。



 ハーレム系主人公って何かの呪い?



「イヤ、コマレ僕も大変だったんだよ、いきなり異世界に飛ばされたり、ゴブリン倒したり、ワイバーン倒したり/救ったり、魔女に合ったり、クラーケン倒したり、竜を倒したり、バーベキューしたりプリン食べたり紅茶とクッキーいただいたりスルメとココアが意外と合ったり水着回でクラーケン焼そば焼いたり、とんでもない大冒険だったんだよ」

 勇者は女神をくっつけたまま旅の苦難を語る。


「後半食べてばっかだな、魔法使い」

 今日は火竜[カリューン・アシステッド・オレコ]が突っ込み役だ、何せ勇者は言い訳に忙しい。


「そうなのじゃ、カイ様はかほことイチャイチャしたり妾等を脱がしたり大変だったのじゃ!」

 水竜[スイリューン・アシステッド・ワラワスキー]は水竜なのに火に油を注ぐ構えだ。


「コマレ、彼氏ってクズ野郎っすね」

 天使[タスケエル]が彼女を焚き付ける。


「君ら少し黙って居ようか?」

 勇者は思う、話をこれ以上こじらせないでくれ。



***



「で、カイ君は私のメール読んだんだよね」

 勇者様は祭壇前に正座し6人の女性に囲まれつつ自らの頭の上の無言の空中戦の修羅場の中にあって生きた心地がしなかった。


「コマレも相変わらずのご様子で……」

 勇者は恐る恐る答える。


「本当だよ、実家の農業の知識やご近所の漢方医のお婆ちゃん[苦井にがいクスリ]さんと万能薬エリクサーを求め大陸の旅に巻き込まれた経験や、中学の時の友達[御料おりょうリコ]と共に料理皇帝との料理対決に巻き込まれた経験がなければどうなっていた事か」

 少し落ち着いた彼女は病気の蔓延を押さえ込んだ知識、勇者も知らなかった巻き込まれエピソードを語ってくれた。



「聖女様!」



 見習い神官が彼女に駆け寄り耳打ちする。


「えっ?神民のみんなが?」

 彼女が[聖女様]って言われているのはスルーするとして、見習い神官はただならぬ

慌てっぷりだった。


「カイ君ゴメン!私行かなきゃ!」

 そう言うと彼女は深呼吸をひとつして、背を伸ばし教会の外へと向かった。



***


「前神官長をだせーーー!!!」


「責任をとらせろーーー!!」


「辞めて逃げれるとおもうなよーー!!」


「失敗を認めろーーー!!」


「出てきて説明責任を果たせーーー!!」


 教会の前には多くの神民が集まり過労の為辞任した前神官長を吊るし上げようと怒号をあげていた。


「コマレ危ないよここは僕が……」

 危ないと真剣に思い彼女の肩を引く、勇者には彼等が話を聞く様には思えなかったからだ。


「大丈夫よ、今の私は……」

 そう言った彼女は震えていたがそれでも勇者より一歩前へと進み群衆に話かける。


「聖女様」


「聖女様だ」


「聖女」


「聖女様」


「聖女様ーーー!!」


 彼女が群衆の前に現れた瞬間、彼等の怒号は聖女への信頼の顔つきへと変った。



「皆さんの中には重大なあの病に苦しんだ方もいらっしゃるでしょう……ですが前神官長を責めるのは違います、誰もが答えの無い中闘ったのです、犠牲者の少ない都市多い都市があります、ですが誰もが世界を良くしようと闘ったのです、もし彼女を責めるならば私も責められなければなりません、何故ならば私を神官長代理に選ばれたのも前神官長だからです、確かに私は多くの人を救いました、ではそれが出来たのは誰のおかげでしょう?彼女から成果を奪い責任だけを追及するのが正しいとは思いません、一生懸命に働いた人を悪く言っては駄目です」



 群衆は静まり返り、静かに人々の手を取る神官や見習い神官の誘導と共に家へと帰って行った。


 現場で幾人もの命を救って来た彼女達の顔を憶えていた人も多く、彼女達に悪意を向ける者などいなかった。



 聖女は倒れそうになった肩を勇者に預け、勇者はそれを支えた。














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過保護な女神と異世界転生して勇者に成ったらとっても楽だが楽しく無い冒険の幕が上がった。 山岡咲美 @sakumi

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