8月13日

 ずっと、疑問に思っていた。

 私はもう終わった存在。それなのに、あんな幸せな日常を送っていいものかと。

 キラキラした毎日、懐かしいラムネの味、夏に入る気持ちのいい海の感覚。

 そのすべてが眩しくて……楽しくて……嬉しくて……。

 本当は分かってた。私は、蒼太と関わってはいけない存在なのだと。だけど……どうしても我慢できなかった。

 だから、お盆という貴重な期間――私がもう一度あちら側に帰ることが出来るあの日々に、想いを伝えた。

 受け入れてもらえたことが嬉しかった。でも、その感謝の言葉はもう届かない。

 蒼太が与えてくれた幸せの数だけ、私も蒼太に幸せを分けてあげたかった。それが叶わないことは……やっぱり悲しい。

 私はまたこちら側に帰ってきた。白い花が咲き乱れる、純白の空間に。

 また、寂しい日常が始まる。でも、今度の日々はまた違うものになる。だって……あんなにもたくさんの思い出をもらったのだから。

 声が聞こえる。いつか、どこかで聞いたことのある声。


『もう、いいのかい?』


 うん、と頷きかけてやめる。本当はまだ、やりたいことはたくさん残っている。もっと多くの時間を蒼太と過ごしたい。

 けれどもそれは、私が願うことを許されないもの。願うことが罪になるもの。

 気づけば、自然と言葉が口から漏れていた。


「ううん。まだ、蒼太と一緒に過ごしたい」


 いろんな想像が浮かぶ。これから、蒼太とやりたかったことが次々と流れては消えていく。

 誰かに優しく包まれているような感覚。その人は、優しく耳元で語りかけてくれた。


『なら、行きなさい。あなたが会いたい人の元へ。ほら、また季節は巡るわ』


 鳥の声が聞こえてくる。低い排気音が――島に入ってくるフェリーの音が聞こえる。

 空からの光はより一層強くなり、蒸し暑い熱気が肌にまとわりつく。蝉の合唱とさざ波ではしゃぐ子供たちの声がする。

 また、夏がやって来た。蒼太と約束したお盆の四日間が。

 感じる。また、帰ってきてくれた。

 だから、私は立ち上がる。何もない真っ白な花畑を走り出す。


『行きなさい。そして……』

『あの子と……僕たちの宝と一緒の時間を過ごしてあげてほしい……』


 涙が溢れてきた。でも、蒼太が見たいのはきっとこんな顔じゃない。

 腕で強く顔を拭う。真っ白い光は視界を埋め尽くし、私がどこを走っているのかも分からなくする。でも、私は迷うことなく真っ直ぐ走り抜けることが出来る。

 恋人を――蒼太を感じることができるから。

 胸がドキドキしている。心がワクワクしている。

 これからの四日間を……また、二人で過ごすから。だから、光を抜けて私はとびきりの笑顔で言う。大切なあの人に――……


「蒼太、おかえりなさい!」

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お盆休み 黒百合咲夜 @mk1016

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