自殺したことをきっかけに主人公が地獄へと落とされたところから物語が動き出す異色のファンタジー。序盤は主人公である伊織が地獄にて罰される過酷なシーンが続きますが、とある出来事によって彼女は異世界へと迷い込み、自らの起こした過ち、そして魂の在り方について見つめ直します。
主人公である伊織は序盤では被害妄想が強めで自滅的とも思える立ち振舞いをすることが少なくありません。読んでいて共感出来る部分があまりないというところが非常に斬新で、むしろ第三者として読み進められたので新鮮でした。しかし全く好感を抱けないという訳ではなく、現代に生まれたが故に思い悩む場面も多く、だからこそ行命との旅で心身共に成長していく伊織は応援したくなります。
キャラクターの精神描写だけではなく、作り込まれた世界観や細やかに、そして時には良い意味で容赦のない筆致もこの物語を彩る色彩のひとつだと思います。伊織の歩んだ道のり、そして軌跡が彼女に何をもたらすのか。一度死んだからこそ意味がある伊織の生きざまを、その旅の終わりまで見守りたくなる作品です。
若さゆえ、取り返しのつかない過ちを犯してしまった主人公。
過ちは取り戻せないからこそ過ちと書くもので、本来ならそこで全てが終わってしまうはずだった。
しかしこの物語では、彼女に“続き”が与えられる。
その“続き”が救済なのか罰なのかは分からないけれど、彼女に一つの機会が与えられたことは事実。
その機会で、彼女は過ちを過ちと知る。
そんな彼女は何を思い、そうして何を選ぶのか。
それを見届けられる機会が、私たち読者にもまた、与えらえた。
人の感情を奥深くまで書き切ろうとする繊細な心理描写、細部までこだわって作り上げられた和風ファンタジーの世界観、そうして至るところに散りばめられた伏線。
読めば読むほど作品の面白みに気づくことができる作品です。
そして、よくいる主人公の典型から外れた主人公からも目が離せません。
ぜひ一緒に、彼女の旅路を見届けませんか?