自然消滅してたカップルがいい感じになる話
甘木 銭
第1話
彼女からメッセージが来た。
半年ぶりに。
「おぉう!?」
なんで今更……。
時刻は二十時、風呂上がりに部屋に戻って来たところで通知に気がついた。
あ、アイコン変わったんだ。全く見てなかったな。
なんの用だろう?
メッセージを開こうとして、思わず手が止まる。
多分女友達と撮った写真。
その横にはこう書いてあった。
「今日大学の先輩に告白されたんだけど」
……え?
待て待て待て待て!!!
とりあえず返事するか?
トーク画面を開こうとするが……指が止まる。
これだけで終わりか?
続けてメッセージが来るんじゃないのか?
でもなんて?
大学の先輩に告白されたけど、何?
そりゃ付き合ってたし、別れるって話をした訳では無い。
そっちと付き合うから別れよう?
改めて?
いや、でも正直そんなこと聞かなきゃいけない関係か?
半年間会ってもいないし、連絡を取ってもいない。
これは世間一般から見ると自然消滅というやつではないだろうか。
それとも彼女の中ではまだ付き合っている判定だったのか?
なら何故連絡してこないのだ。
気分屋な彼女だった。
明るくて、素直だった。
そういう所が好きだった。
でもそのせいで、こちらの言うことに露骨に嫌そうな顔をしたり、試す様なことをしてきたり。
そういう所が段々面倒になってきて、高校を卒業して大学が別々になったのをきっかけに、こちらから連絡をすることは無くなった。
わざわざ連絡を入れてきたということは、返事を求めているということなのだろう。
とすれば、このまま放置という訳にもいかない。
気は進まないが、返信することにしてトーク画面を開く。
さて、何と返そうか。
僕はまた試されているのだろうか。
思わずベッドに顔を埋める。
面倒なはずなのに少しモヤモヤと、そしてソワソワとしながら文字を打ち始めた。
--------------------
元彼にメッセージを送った。
半年ぶりに。
時刻は二十時。
もう十五分も返事を待って、部屋でそわそわと、携帯を開いたり閉じたりしている。
何故今更そんな連絡を入れているのか、自分でも不思議だ。
ただ、先輩に告白された時に彼のことを思い出して、そのまま連絡せずにいられなかっただけと言うか。
そもそもどうして連絡を取らなくなってしまったんだっけ?
喧嘩をした覚えはない。
ただお互いに別の大学へ進んだせいで、忙しくて会う暇もなくて。
会わない恋人より日常的に会う友人を優先させるようになって。
連絡を取っても、どんどん知らない他人と話してるような気がしてきて。
連絡を入れることが無くなった頃には、向こうからの連絡も無くなった。
そもそも向こうはどう思ってるんだろう。
もう別れたって感覚でいいのかな。
私は……どうだろう。
ただなんとなく連絡したくなってしまった。
返事を待ってモヤモヤとする時間は、あっさりと通知音によって終わらされた。
慌てて画面を開く。
『何て返事したの?』
これは。
私のことを気にしていると言うことだろうか。
無視や素っ気ない感じでなくて良かったけれど、一応聞いてみただけ、という気もする。
何て返そうかとしばらく考えて、さり気なさを装った文言を打ち込む。
「断ったよ、安心して」
安心も何も、かもしれないけれど。
こうやって何事も無かったように返してくれる。
久しぶりなせいで誤認識しているだけかもしれないけれど。
色々と許してくれる、懐の深いところが好きだった。
嫉妬も何もしてくれないから、張り合いがなかったんだけれど。
そのせいで試すようなこともいくつもしてしまった。
会話の中でも期待した返答が返って来ずに、何度も落胆した。
だと言うのに、私はまた期待してしまっている。
ベッドの上に仰向けに寝転んで、足をバタつかせる。
彼はどう返してくるだろう。
どう思っているだろう。
久しぶりにそんなことを考えて、ソワソワとしてしまった。
自然消滅してたカップルがいい感じになる話 甘木 銭 @chicken_rabbit
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