美少女ロボットは俺のプロデュース作戦を考えているようだ
ジュウジュウジャカジャカ。
セレナが台所で料理をしている。なんだか落ち着かない。それは彼女がとても可愛らしい姿をしているのと意味わからない状況にあることが原因だった。
セレナは長い金髪で碧眼の美少女(ロボットだが)だった。今は「ルンルンルーン♪」と鼻歌を歌いながら陽気にお料理をしていた。
こんな状況おちついていられる方がおかしいだろ。そう思わんかね。
俺は机に座って大学の課題をしようと思っていたのだが、彼女のことが気になって碌に進んでいなかった。
俺がセレナをちらと見ると
「どうしたのですか、春斗。料理ならもうすぐできますから待っててください。それとも私に見とれているのですか?」
「うぐ・・・」
あっさり見抜かれてしまった。さすがに何度も見すぎた。
「まったくダメですね春斗は。まずは女の子が近くにいることに慣れてください」
「べ、別に見とれてなんかいねぇよ」
俺はなんとか抗議をしたが、そんな抗議の言葉もセレナに
「ウフフ。まったくしょうがないですね」
と笑われてしまった。見れば彼女は口元に手を当てておしとやかに笑っていた。そんな様子も可愛らしく、思わず目をそらしてしまった。こいつ、本当にロボットなのかよ・・・。何でこんなにリアルな動きができるんだ?
俺がやきもきしていると机に料理が置かれた。正面を見ればそこにはセレナがいた。
「さぁ、できましたよ。片付けてください」
そう言って彼女はにこっと微笑んだ。うう・・・。
「お、おう。分かってる」
俺は平静を装いながら返事をした。確かにこんな何気ないやりとりでドギマギしているようじゃ彼女なんかできんわな・・・。
我ながら情けない。分かってはいたが。
俺が机をきれいに片付けると、そこに料理が並べられた。二人分ある。
ん?
「な、なぁ。お前って飯食うのか?」
「はい。リアルな人間っぽさを出すために食事は行います。そしてちゃんとエネルギーの補給もします」
「は、はぁ。そうなのか」
まぁ確かにかの猫型ロボットも食事してたっけ。それと同じだと思えばいいわけか。
それにしてもいい匂いがする。料理の方を見るとカレーが湯気を立てていた。
「フフ。春斗、カレーが好きなんですね。子供っぽいですね。可愛くていいですけど」
「う、うるさい!」
別にいいだろカレーが好きでも!何歳になっても好きなもんは好きなんだよ!
っていうか何で俺の好きなものが分かったんだ!?恥ずかしい・・・
「あ、何で私が春斗の好物を知っているかですか?それはあなたの頭の中をのぞいたからですよ」
「ええ・・・」
こっわ。頭の中のぞかれたんかよ。まぁ、ロボットらしいけど。
「でもご心配なく。必要な情報しか読み取りませんから。春斗が知られたくない記憶や情報は即座に消去されるようになっていますので」
「よくできてんな・・・」
まぁありがたいけど。
「さ、食べましょ!冷めてしまいますから」
それもそうだな。せっかく作ってもらったんだから一番おいしい時に食べないと失礼だ。
「「いただきます」」
俺とセレナは声をそろえて唱和した。そしてその後すぐに俺はスプーンで一口頂いた。
「う、うっま!」
俺は思わず口に出していた。一口食べただけでうまみが口いっぱいに広がった。肉は柔らかくて噛みやすく、じゃがいもは噛んだ瞬間ほろほろと崩れていく。これはただひたすらにうまい。
ふとセレナの方を見ると、彼女はにこにこしながらこっちを見ていた。見ればまだ一口もつけていなかった。
「おいしいですか。それはよかったです」
どうやら俺が食べている様子をじっくり見ていたようですね。なんか恥ずかしい・・・。
「お、お前も食べろよ」
俺がそう言うと彼女は
「顔が赤いですよ?どうしたのですか?」
と言って首を傾げた。お前、絶対分かってるだろ・・・顔にやにやしてるし
だが俺は
「これはカレーがちょっと辛かっただけだ。気にすんな」
と言ってとぼけた。するとセレナは「そうですか。まぁそういうことにしときます」と言ってカレーをもぐもぐ食べ始めた。本当に食べるんだな。あと食べる姿もなんか可愛いんだよな・・・
###
夕食が終わり、片付けも済ませて一息ついたころ。
「さて春斗。あなたの彼女作りのために必要な情報を教えてください」
俺とセレナは机の前に座り、セレナがそう切り出してきた。
「お、おう。まぁいいけど。っていうか俺の頭ん中のぞけるんじゃなかったの?」
「はい、もちろんできますが・・・やってほしいですか?」
セレナは首を少し傾げながらそう問うてきた。その言葉には「もしかしたら気を悪くするかもしれないけれどやってもいいのか」というニュアンスがあった。
まぁ確かにな。たとえ俺に都合の悪い情報は消去されるとはいえ頭の中をのぞかれるのは俺にとって気持ちいものじゃない。
って、結構優しいんだな・・・
「いや、俺が自分から話すわ。それで俺は何から話せばいい?」
「うーん、そうですね・・・」
セレナはしばらく考えた後、また口を開いた。
「ではまず春斗はどんな女の子がタイプですか?」
「あ、お、ああ、えっとだな・・・」
お前みたいな・・・
じゃなくって!
確かにこいつもきれいだが俺の好みとは違う。ほんとだからな?
「長い黒髪の、チャラついていない、俺を支えてくれる、けれどちゃんと自分の意思もはっきり言える子・・・かな」
「注文が多いですね・・・」
「お、お前が聞いたんだろ!」
何で俺が文句言われなきゃなんねぇんだ!それに俺の好みにケチ付けられる筋合いはない。
「ウフフ、冗談です。女の子に向かってそんなに激しく怒っちゃいけませんよ」
そう言ってセレナはまた口元に手を当てて笑った。何だよ、冗談かよ。くそっ、いちいち可愛い・・・。
「まぁとにかく分かりました。まずは春斗のタイプの女の子を探していきましょう。明日から私も大学やバイト先にお邪魔しますね」
まぁ、そうなるわな。まずは彼女候補を探さんとな・・・
って、
「お前も来るのか!?」
「はい、もちろんですよ。だって春斗の彼女作りを手伝うと約束したんですから」
「い、いやそうだが・・・」
いろいろと問題はあるだろ。確かに大学構内は大半は知らん奴ばっかだからこいつ一人紛れ込んでもバレないかもしれんが。ただ、こいつは見た目が美人過ぎる。こんなやつが俺の隣を歩いていたら目立つし、俺が変な目で見られるかもしれん。
「あ、心配いらないですよ。春斗以外の人は私のことが見えませんから。私の声も聞こえません。まぁ、私が自分から姿を見せることもできますけど」
俺の不安を感じ取ったのか、セレナが俺を安心させるようにそう言った。
何だよ、最初からそれを言えよ・・・
にしても便利な機能備えていやがるな。こんな万能ロボット、一体誰が作ったんだ?
「やっぱり気になりますか?うーん、そうですね・・・」
「お、お前また・・・」
またもや俺の思考を読んだらしい。
「じゃあ、春斗に彼女ができて、私の役目が終わったらすべてをお話ししましょう」
「・・・いいのか?」
俺はセレナのことを全くと言っていいほど何も知らない。だがそれは何か事情があるはずだ。人には言えない何かが。彼女はそれを俺に教えてくれるというのだろうか。
「いいですよ。ただし、すべてが終わってから、です」
「そうか」
彼女がいいのなら、まぁ教えてもらうとしよう。その時が来たら。
パン、とセレナが手をたたいた。
「さて、それはともかくとして今度は春斗のプロデュース作戦を考えましょう!」
「何なんだそれ・・・」
昔のドラマじゃねぇんだからよ。
「春斗には女の子の私から見て直すべき点がいくつかあります。それがすべて直ればきっとモテるようになります」
「ほんとかよ・・・」
俺の性格はなかなかきついぞ。この年になってまでコミュ力低いし、友達少ないし。
「けれど、春斗は優しいです。だって私のような見ず知らずの誰が作ったかもわからない人型ロボットの言うことを信じて、家においてくれるんですから。そこは、いいと思いますよ」
そう言って、セレナはにこっと優しく微笑んだ。
「お、おう。何だいきなり。・・・まぁ、ありがとよ」
俺は頭を掻きながら、横目でセレナをちらちら見ながらそう言った。いきなり褒めるなよ。お前みたいにきれいなやつから褒められると舞い上がっちゃうだろ!
「そうですよね~私、可愛いしきれいですよね~」
「お前、また!」
からかわれた。くそ・・・いらんときに思考を読むな!
「でも女の子から褒められても、見つめられても緊張せず堂々とできるようにならないといけませんね。そこは私で特訓していきましょう」
「あ、ああ分かった」
まぁそこは何とかしないとな。こんなんではたとえ好きな子ができたとしても俺の感情が相手にまるわかりになってしまう。それは嫌だ。
だが問題はまだある。
「俺、話し上手じゃねぇんだよな・・・」
過去のことで友達でも完全に信じられなくなったし、恋愛にも臆病になっちゃたからな。
「確かに女の子は話が面白い人の方が好きらしいです。調べましたから」
まぁロボットだからな。何かしらの手段で調査したんだろう。
「けれど私はそこまで話し上手にはなる必要はないと思っています。日常会話を気負わず話せるようになれば。まぁ、話題の振り方とかは私がおいおいお教えしましょう」
そう言ってセレナは私に任せろと言う感じで右手を胸に当てた。
頼もしいな。
「ああ、頼む」
ふと時計を見ると、もう夜の11時だった。
「もうそろそろ寝るか。俺、風呂入ってくるわ」
「私も入りましょうか?」
「な、何言ってんだ!」
「冗談に決まってるじゃないですか~」
「全く、お前は・・・」
セレナは俺の方を見ていたずら好きの子供のような笑みを見せていた。油断も隙も無い奴だ。
俺が風呂の方に向かって歩き出すと背中の方から声がかけられた。
「今日は一緒に寝ましょうね~」
どうせまた冗談だろ。今度は動じないからな。
俺は無言でリビングを後にした。
こうしてセレナによる俺のプロデュース作戦が始まったのだった。
ある日、俺が出会ったのは美少女・・・のロボットだった。 蒼井青葉 @aoikaze1210
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