第十三話 妖族 

残された晧と聖はお互い無口で横たわり痛めつけた体を休めていた。


暫くすると晧が先に口を開いた。


「お前昨日趙さんに連絡しようとした時、なんであんなに必死になったんだ」


「ああ?!んなもんあいつに知られたら止められるかもだろ」


「そんなに大切なことなのか李墨ちゃんに追いつくのが」


「....ああ、そうだ、俺は絶対あいつには負けねー」


「...そうか、お前まだ僕の事嫌ってるのか」


「....別にお前の事嫌ってるわけじゃねー、俺は曲がった事が嫌いなだけだ」


「...そうか....」


「...お前はなんで仙人になりたいって思ったんだよ」


「村がでかい猪に荒らされた事は前に言ったよな、その時、依頼を受けた術師に憧れてな」


晧は実は術師の収入に憧れたことは伏せた、聖の性格上そんな事を言えば又反発されると思ったのだ。


「そうか....俺は別に仙人修行する気はなかったんだが李墨のやつにこのまま勝ち逃げされちゃ困るからよ、それにうちのおやじも俺が仙人修行できるかもって言ったら珍しく喜んでよ、そんなに漁師の家系に終止符を打ちたかったのかね」


聖は一人でに語りだし、晧は黙って彼の話を聞いた、こいつは不器用なのかもしれない、共通の話題を模索した結果がこれで、不器用なりに仲よくなろうとしているのかもとそのような考えを心に聖の話をさいごまで聞いた。


「だから俺はい一刻も正式に弟子入りして李墨をぬいこしてやる、おやじにもいい知らせを送れるしな」


「....僕はまだお父さんに認めてもらってない」


「どういうことだよ」


「村のお金を無断で盗んで勝手に出てきたんだ、そのお金を返すために商売してたんだ、だからお金がたまるまでは父さんに連絡できない」


「...そう言う事だったんだな...なんでそう言うこと先に言わねーんだよ」


「言ったところで理解してくれないだろ、それに他人に言うことでもないしさ」


「それもそうだな、でもおやじさんに手紙ぐらい出してやれよ、きっと心配してるぜ」


「.....そうだな、近々手紙でもだすよ」


「なあ、俺たち毎晩この方法で霊力を上げてたら一年以内に試練受かるかな」


「はは、毎晩出来たらね、僕はこんなに体中が痛いのは初めてでね、毎晩この方法で霊力あげには正直自信ないな」


「一晩目で弱音はいてんじゃねーよ、術師に憧れたんだろ、なら死ぬ気で頑張って一日でも早く正式に弟子入りしねーと、おやじさんにも認めてもらえるようによ」


聖の言葉に内心鼓舞される晧。


「...ああ、お前に取り残されないように頑張るよ、聖」


自分の名前で呼ばれたことに内心少し驚いたものの悪い感じはしない聖。

聖は体を横にして、


「言っとくけど、俺は誰にも負ける気はねーよ、李墨にも、大牛や多米にも、もちろんお前にもな、晧」


暗闇の中、晧は口元に笑みを浮かばせ呟いた。


「ああ、僕だって負ける気はないさ」


少年達はその夜お互いに鼾をかきながら朝までぐっすり眠った。


翌日、大牛と多米が部屋から出ると、晧と聖は既に起きていた、二人とも意気揚々と朝食の準備をしていた。


「おお、おはよう、起きたか」


聖が二人に気づいてあいさつした。


「あ、うんおはよう、二人とも早いね」と大牛。


「おはよう、大牛、多米」と晧。


「体の方は大丈夫なのか」と多米。


「ああ、まだ全身筋肉痛的な痛みは残ってるけど、僕も聖もそれ以外何の異常もないよ」


「大牛、今夜も頼むぜ、俺も晧も早くお前ら二人に追いつきたいからな」


二人がお互いの名前を言い合う事に大牛と多米が眉に皺を寄せて怪訝な顔で目線を交換した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


一年後。


柳の試練に挑戦する二人の少年の姿が有った。

聖と晧はこの一年で毎日の様に全身に走る痛みを耐え抜いて自分たちの霊力を高めていった、そして今日、二人は趙さんの見ている中で柳の試験を挑戦しようとしていた。


晧がまず芭蕉扇を手に柳目掛けて扇いだ、「さー」と気持ちいい音を立てて柳の葉が揺れた。

これを見て趙さんの目が見開いた。

晧は得意そうな顔で芭蕉扇を聖に渡した。

聖も力一杯扇いだ、「バサバサッ」っと晧が建てたよりもっと激しく柳の葉が揺れた。

趙さんはもはや今は両目を大きく見開き、寝ていた体を起こしていた。


「どうですか、趙さん? これで僕も聖も合格ですよね」


趙さんは無言で険しい顔つきをして二人に近づいた。


「お前ら、この一年間で何をした?!」


この一年で見たことも無いほどの険しい口調でそう問い出す趙さんに二人は驚いた。


「な、何って、霊力上げの修行をしてたに決まってんだろ」と聖。


「どうやって?!」


「趙さんに教わった四形で...」


「嘘をつけ!四形でこんな短時間に霊力を此処までの底上げができるわけがない」


趙さんが晧が喋り終わる前に怒鳴りつけた。


聖と晧は無言でお互いを見た。


趙さんはさらに声を荒げながら問い出す。


「さあ、お前たち正直に答えろ、どうやってこんな短時間にそこまで霊力を付けた?お前ら妖族と何かつながりがあるのか?!」


妖族とはなにか詳細は分からなかったが、名前からしてそれほどいい物ではないことは容易に想像できた。


晧がこれ以上の誤解を招かないように口を開いた。


「趙さん、僕達この一年間大牛に手伝ってもらったんです」


「大牛に?」


「はい、実は...」


晧はこの一年の経緯を趙さんに説明した。


経緯を聞いた趙さん険しい表情が怒りと驚きの混ざり合った顔つきになった。


趙さんは深いため息をつき、


「なるほど、お前たちは大牛に霊力を体内に送り込ませて無理やり霊力量を上げたわけか」


「はい、ですから決して妖族とは関係ありません」


「そのことは信じよう。それでもお前ら、直接霊力を貰うってのはどれ程危険な事か分かってたのか?」


「い、いえ、そこまでは考えてなかったです、僕と聖はただ一日でも早く柳の試練を突破したい思いで霊力上げをしていました」


趙さんははぁ~と又深いため息をつき、


「いいか、霊気をためることは体を再構築させる役割もあるんだ、だんだんと霊力が上がっていくにつれ、体もじょじょに頑丈に作り直されるんだ、その高めた霊力を肉体に保てれるようにな、肉体がまだ未熟のまま外から大きな霊力を流してみろ、体がその霊力に耐えれなくなり破裂して死ぬぞ」


二人はこの一年耐えてきた痛みを思い出し、ぞっとした。もし大牛が霊力量を調整できず、初めから大量な霊力を流して来たら二人とも死んでいたかもしれない。


「いいか、お前らが使った方法は双方が霊力を扱える術師ならまだしも、一般人同様なお前ら二人が大きな霊力を第三者から取り込むのは非常に危険な行為なんだ、四形でその大きな霊力を緩和していたからよかったものの、もし四形を怠っていたら、確実に死んでいただろう」


二人は自分達が犯してきた危険に恐怖を抱き、同時に四形を続けて良かったと心の底から思った。


「まあ、これからはそんな危険な事をせず、本堂でもっと効率がいい方法で霊力を高めればいい」


「え?」


「じゃあ、僕たち合格なんですね?」


「ああ、おめでとう、これで君らも本堂で正式に弟子入り決定だ」


よしっと言わんばかりに拳を握りしめた聖、これでやっと李墨と張り合う資格を手に掴んだのだ。


「ありがとうございます」と晧。


「じゃあ、明日から本堂に行けるのか?」と聖。


「いや、本堂に行くのは又新人たちが来てからな、今年も合格者が出るかもしれないから、その時はお前たち一緒に連れて行く」


今年の弟子入りの日も目前となっていた。聖は一刻も早く本堂に行きたかったが、趙さんの有無を言わせない態度に圧倒され、その事を口にするを控えた。


「じゃあ竹の里に帰るか」


三人は竹の里に向かって歩き出した、晧は道中趙さんに妖族について質問した。


「趙さん、さっき話した妖族とは何ですか?」


「んん?うーん妖族は一言で言うと俺ら仙人修行をしている者の悪い奴らって事かな」


「悪い奴らですか?」


「ああ、根本的な所は一緒だけどな、奴らも霊気を取り組んで霊力を使うんだがその方法が少し...なんと言うかそうだな、人道を外れてるとでも言おうか」


「人道を外れてる...」


「ああ、この世界の生き物は皆盤古様の霊気を生まれつき体内に宿っている事は知っているよな」


「はい、それは説明されました」


「そしてその霊気を集めるのが仙人修行だが、この方法、お前たちも体験したように、長い時間が必要とされるんだ。だからその長い時間をかける修行方法以外にもっと早く霊気を取り込めないかと考える者が出てきた、その者達が編み出した方法は他者から霊力直接奪う事だった」


「え?」


「そう、お前たちが思いついた様な方法だが、妖族の者達はもっと原始的で残酷な方法を用いて霊力を高め始めたんだ」


「その原子的な方法とはまさか...」


「色々方法が有るが、その全部が他者の命を奪う事に関連する方法だ、例えば、直接血を吸ったり、肉を食べたりなどな」


「まるで動物だな」と話を聞いていた聖が呟いた。


「その通り、だから我々は奴らの事を妖族と呼んでいるんだ、動物の様な原始的で残酷な方法を用いて選出修行をしている者たちをな」


「それじゃあ、僕の村に出てきた大きな猪も妖族ですか?」


「ああ、まあそうだな、たまに動物でも霊気を取り込めだんだんと進化していくものが出てくる、その大きな猪もそれらの一種だな。ただな動物は本能で他の動物を食べり攻撃したりするだろ、それに対して妖族と呼ばれるものは選んでその行動に出ているから、そこが違うな」


「そうか、じゃあ妖族と会ったら退治すればいいんだな」と聖。


「退治できればな、妖族との因縁いんねんは深い物で、話すと長くなるから、又本堂に行って師匠らに聞いてこい」


晧はまだ聞きたいことが有ったが趙さんのめんどくさがりが出てきたので話はそこで終了した、そして竹の里にたどり着いたとき大牛と多米が待っていた。


二人を見るなり聖は親指を立てた、二人はそれで晧たちが試練を突破したのを悟った。


趙さんは彼ら四人を目にして「ふっ」と小さく声を漏らし、


「ほいじゃあ、お前ら本堂に向けて準備しとけよ、それとくれぐれも無茶はするなよ」


と言って去っていた。





















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九州仙戦 龍閣 @Larryli

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