廃墟の向こう側で手を振った
言葉の犬
鉄道と舟
電車が揺れるガタゴトと 唸り声をあげる様に
窓の向こうは未だ仄か暗く 私の瞼もぼんやりと重い
さらば 友よ我が故里よ そんな茶化し言葉を飲み込んで鈍色の空をねめあげる
これで最後 これが最後
そう思ってしまえば やるせなくなるのだ
次に訪れる時にはもう 生まれ育ったあのまちではないのだから
膝の上ズシリと詰まったボストンバッグの重みは増していく
車輪が滑るカラコロと 細やかにわらう様に
徒にキャリーケースを手で弄び 窓の外へ視線を転がす
目の端へと走り去る 見覚えがある景色が途切れに途切れてしまう
景色は途切れ横坑の闇 瞳に映るは何時しか微睡みの闇
揺れに沿って船を漕ぐのだ 記憶の大海原へと
漕ぐのを辞めてこのまま沈んでしまおうか
それもまた一つの終着点なのだろう
ならば私は漕ぎ続けよう 故里が故里である為に
揺れは一層大きくなった
勢いに目は見開かれ私の身体は船から投げ出されてゆく
だが然し その瞳の先に在ったのは未だ見ぬ景色
電車の揺れはもう止まっていた
ボストンバッグを抱えると腰を上げて窓を見上げた
茜色の陽が穏やかに差し込んでいる 彼は誰時はもう去っていた
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