百面花

便利なものだ

百面の相が 目前 壁一面に咲き誇る


会社に行く時はこの顔で

あの子に会うときはこの顔で


相を剥がし被ってきた

今迄も 恐らくこれからも


摩擦熱に身を焦がすのは御免だから

時場合 適合した自らを変えていけば良い


だから相を手に取り馴染ませる

わたくし わたし ぼく おれ じぶん


そうだ今日の私は僕だった


出かける度人に会う度

目の前の壁から相を剥がし付け替える


小さな悲鳴が何処かで聞こえた気がして

空耳だろうとすぐに忘れた



しかしふと気づいてしまった

相を剥がした瞬間に見えてしまった


鏡に映った隙間の 黒 黒 黒


あれ 私の本当の顔はどれだっけ どれだっけ

この顔の前の顔 前の前の顔 最初の顔

思い出せない思い出せない


私はどんな顔をしていたんだっけ

鏡を見ても映るのは


顔を真っ黒に塗りつぶされたぬっぺっふほふ


壁一面に生える相を剥がし剥がし

どれだ どれが本当の顔だ


相はもう馴染まない 馴染めない

悲鳴を上げて 只落ちてゆくのみ


地面に咲き乱れる百面相

真っ赤っかに染まって百花繚乱


顔を覆い尽くす黒一面が

瘡蓋だってこと 気づくのには遅過ぎた



わたし わたし? わたしはだあれ

who am I


沢山のわたしに向かって問いかけるも

返事は無し 不便なものだ

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