第51話 スラビア首都星系突入作戦3。突入!


 第1艦隊はスラビア首都星系手前の星系でガス巨星の衛星軌道上に建設されたガス採取井戸に対して砲撃をおこなったのち、内惑星エリアに接近していった。


 この星系でも星系外周部と内惑星エリアの間には小惑星帯が広がっており、今回も小惑星帯を挟んで接近してきた敵宇宙艦群を撃破した結果、星系内に戦闘力を有した艦船はこの時点でいなくなった。ワンセブンの計算では、あと五時間は自由あばれる時間が取れるということだった。



 星系内のただ一つの有人惑星に建設された軌道エレベーターや衛星群、惑星と主星が作るラグランジュ点に浮かぶ各種の人工惑星に向けて第1艦隊三艦が超遠距離砲撃を加えていく。砲弾は小惑星帯の間隙かんげきを縫うように抜けていき、目標の未来位置に向けて突き進んでいく。軍事用の防衛衛星や防衛惑星がこの星系には配備されていない事は分かっているので、本格的な迎撃を受けることはない。そういった防衛施設が配備されていたとしても、多数の小口径弾を爆風などの発生しない宇宙空間で破壊することは容易ではない。


 今の艦の位置からだと、発砲から着弾まで五時間ほどかかるため、戦果確認はできないのだが、おそらく目標は全て破壊できるだろう。


 据えものの敵の宇宙施設に向けて砲をぶっ放すのは、それなりに楽しいと感じる俺がいる。遊撃艦隊に乗り込んでいる連中もこの楽しさを味わっていたのだろうと想像してしまった。こういった破壊に喜びを見つける俺と真面目な軍人を一緒にしてはいけないな。



 有人惑星を巡る大型人工衛星と目ぼしい宇宙建造物についてあらかた破壊できるものと思う。ラグランジュ点に浮かんでいた人口惑星については、惑星自身のような遮蔽物などなかったため、超遠距離からの射撃はすでに終了している。


 そういった破壊活動を三時間弱続けたところで、ようやく敵艦隊が安定宙域にジャンプアウトしてきた。


 すぐに他の艦隊も、この星系に複数ある安定宙域内にジャンプアウトしてくるだろう。交戦距離という点ではまだまだ余裕があるので、第1艦隊は、最初にジャンプアウトした艦隊に対して艦首を向けた。艦そのものは自由落下状態で敵艦隊と距離は今のところ開きつつある。



 敵艦隊の未来位置に向け数度発砲して交戦意思のあることを示したはずだが、何分なにぶん距離があるため着弾まで数十分かかる。こちらのポーズに気づいてくれたかどうかは分からない。


 そうこうしているうちに、複数ある安定宙域のそれぞれに敵艦隊がジャンプアウトしてきた。見た目は包囲された形だ。天頂方向なり、その逆方向に加速して脱出すれば包囲など成り立たないのだが、そうすると敵艦に対して軸線砲を向けることができなくなるので、誘導弾を持たない我々は反撃不能になる。


 敵艦の射撃精度から言って、敵艦が発砲するにはまだ数時間の時間的余裕があるが、敵艦隊を十分誘因できたようなので、そろそろわが方は敵首都星系への突入ジャンプのころあいだ。


 今回のジャンプで艦隊は直接内惑星エリアに突入し、そのまま首都惑星に対して砲撃を加えることになっている。こちらのジャンプ能力が少なからず露呈することになるが、今回の作戦で蓋然性演算装置の研究開発施設を失うスラビアが我々と同等のジャンプ能力を得ることは当面ないだろうという判断だ。



 作戦目標のスラビア首都星系の内惑星エリアには多数の防衛惑星や防衛衛星が浮かんでいるが、突入済みのわれわれの発砲を止めることはできないし、砲弾を100パーセント迎撃することは不可能だ。



 蓋然性演算装置の研究開発施設の破壊という戦略目的を度外視した場合、敵国首都への小艦隊による直接打撃は軍事的にはあまり意味はないが、政治的意味合いは非常に大きい。スラビアに敵対する勢力はこれにより、スラビア与し易しとの昨近の考えを改めて強める。


 今回の主目的は、蓋然性演算装置の研究開発施設の破壊だが、その企図を悟らせぬよう、惑星周辺の宇施設破壊の流れ弾を装って施設破壊を目論んでいる。


 以前、旧皇都惑星出雲で防御衛星を政治犯収容所に墜落させてこれを破壊したが、今回はそこまでの精密射撃を可能とするデータを送り込んだ特殊探査艦で取得できなかったため、こういった形をとっている。



『これより、第1艦隊、スラビア首都星系に向け艦隊同期星系間ジャンプを実施します。秒読み開始。


 180、175、……、60、59、……、3、2、1、ジャンプ』




『近傍の光学観測完了。艦隊を阻止可能位置に敵艦影無し。人工衛星、人工惑星、事前情報通りの位置、速度で公転中。砲撃諸元修正なし』


『第1艦隊はこれより作戦目的達成のため砲撃を開始します』


『目標、スラビア首都惑星上空の人工衛星群。全艦、火器使用自由』


『1番、通常砲弾装填、照準良し』


『第1射、1番発射』


『目標、敵大型人工衛星4番』


『2番、通常砲弾装填、照準良し』


『第2射、2番発射』


『目標、敵大型人工衛星7番』


『第3射、3番発射』


『目標、敵大型人工衛星10番、および惑星上の作戦目標施設』


『1番、2番、通常砲弾装填、照準良し』


『第4射、1番、2番発射』


 ……。


『射撃終了。第4射、2番着弾まで30、29、……、10、9、8、……、3、2、1』


『……。命中。戦果光学観測開始』


『作戦目標、敵研究施設、完全破壊確認しました』


『これより艦隊は当星系を離脱します。

 艦隊同期星系間ジャンプ秒読み開始。

 180、175、……、60、59、……、3、2、1、ジャンプ』



 今回も作戦目的を達成することができた。思った以上に作戦はうまく進捗してくれたが、もしも、スラビアの開発中の蓋然性演算装置がワンセブン並みの能力を持ちそれがワンセブンと同じころ完成していたとすると、この宇宙の現状は相当違ったものになっていただろうし、ワンセブンの予測自体これほどの精度では無かったのだろう。


 皇国がその他の列強に先駆け蓋然性演算装置ワンセブンを生んだことは奇跡かもしれないが、事実ではある。今回の作戦成功でワンセブンの言う3年の猶予モラトリアムが生れた。その間に皇国の国力を万全のものにするのが俺の次の仕事だ。


(完)


 あっ! すっかり忘れていたけれど、帰ったら涼子のことがあったんだ。まあ、先に風呂に入ってからだな。



(完)



[あとがき]

これにて完結です。第一部完結といった感じなので、そのうち続編を書くかもしれませんが未定です。

ブックマーク、☆、感想ありがとうございました。

2021年4月20日

途中、かなり中だるみがありましたが、何とか完結させることができました。

いつものように何も考えず勢いに任せて書き始めた結果、読者の皆様にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。

よろしければ、筆者のその他の作品もお願いします。

2021年9月26日

全面見直ししました。

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銀河をこの手に!-試製事象蓋然性演算装置X-PC17- 山口遊子 @wahaha7

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