第50話 スラビア首都星系突入作戦2
TUKUBA、IKOMA、KURAMAの第1艦隊三艦のTUKUBA型巡洋戦艦は、順調にスラビヤ領内での超長距離ジャンプ航行を続けていった。
TUKUBA型は通常弾を使用したとしても、異常なまでの射撃精度のおかげで既存の巡洋戦艦をはるかに凌駕する打撃力を持つが、艦内設備は小型艦なみだ。
艦内にはベッドもなければシャワー設備もない。今回は風呂にも入らず往復十一日間の作戦行動だ。艦内は特殊な区画を除き一気圧、二十度に保たれてはいるが、常時宇宙服を着用することが推奨される。十日程度で特注品の宇宙服内が臭くなることも体が痒くなることも無いだろうが、やはりなにがしかの衛生施設の付いた船を同伴すればよかった。
スラビア首都星系に向け、大きく迂回した航路をとったわが第1艦隊は、ジャンプアウト先で星系防衛艦隊などに遭遇することもなく、進出を続けている。あと二回のジャンプを残すのみでスラビヤの首都星系に突入できるところまで艦隊は進出した。
ここまで戦闘もなく進出できたのも、第3艦隊以下のイルツク星系を舞台とした陽動作戦が功を奏した結果だろう。
あと二回のジャンプは超長距離ジャンプではなく、通常艦でのジャンプ距離、数星系をまたぐ程度のジャンプでスラビヤ首都星系に艦隊は突入する予定だ。
スラビヤ軍では、首都星系を含む中央方面軍から抽出した、イルツク奪還艦隊をすでに中央方面から出撃させている。中央方面にはまだ主力艦は残っているだろうが、最新の情報では、最新鋭艦は奪還艦隊にほとんど編入され出払っているようだ。
次の星系ではジャンプアウト後、ある程度時間をかけて星系防衛艦隊を撃破することにしている。時間をかけるのは、指呼の間に捉えたスラビヤ首都星系を含めた周辺の宇宙戦力をジャンプ先の星系に集中させる時間をスラビヤ軍に与えるためだ。ある程度の戦力が誘引できたところで、こちらはさっさと、スラビヤ首都星系に突入して作戦目的である新演算装置の研究開発施設を破壊する算段である。
『これより、第1艦隊、艦隊同期星系間ジャンプ、秒読み開始します。
170、165、……、60、59、……、3、2、1、ジャンプ』
安定宙域
『星系防衛艦隊とみられる敵艦群を発見。総数6』
『光学観測完了。敵艦群構成各艦の詳細判明。旧式軽巡1、旧式駆逐艦5。事前情報通りのため砲撃諸元修正なし。敵艦各艦は艦首を安定宙域中心方向に向けています』
もちろんこの星系についても、精密探査を完了しているため、宇宙構造物、全惑星、全小惑星の質量、自転、公転データなどは完全にそろっている。
『第1艦隊はこれより既定の戦闘方針により戦闘を開始します』
『目標、後方の敵艦群。使用火器、後部40ミリ実体弾砲』
『目標、敵一番艦』
敵艦には艦隊共通で一番から六番の番号がふられ、攻撃目標が艦隊各艦で重複しないよう調整されている。
艦隊は建前上一切の通信を遮断しているが、ワンセブンは聞いているのだろう。
敵艦隊からの誰何も当然あったはずだし、そういった
40ミリ砲弾であれ、敵艦の心臓部に集中して艦首または艦尾の六門の砲から各砲毎秒十二発、六門合計毎秒七十二発。一秒間も発砲して砲弾をたたき込めば簡単に撃沈できるが、一気に殲滅するわけにもいかないので、着弾点を適当に散らさなくてはならない。最初の砲撃目標は敵艦艦首で、まずは軸線砲を沈黙させ、前面の兵装を順次破壊していく。
『発砲開始。止め!』
『目標変更、敵四番艦』
艦の軸線をずらすことなく40ミリ実体弾砲が砲身可動範囲で捕らえることのできるもう一隻の敵艦に対して砲撃を加えていく。IKOMA、KURAMAも第二目標に砲撃を加え始めた。
敵艦はこちらに対して、発砲可能な砲が次々沈黙してしまい、反撃ができないまま、スクラップにされていく。
『敵艦は救難信号とともにわが方の情報を発しています』
どの程度の情報が送られたのかは、ワンセブンが通信を傍受して解析しているのだろうが、ある程度有力な艦隊であると認識させる必要があるため、ここからは一気に
『これより、敵艦群を殲滅します』
いままで、通信設備等を破壊しないよう攻撃用兵装に絞っていた砲撃が、敵艦の機関部に対して開始された。艦の重要区画は装甲をある程度施していると言っても、中小型艦の装甲。その装甲に対して、鍛造タングステンカーバイドの弾心を持つ超高速の40ミリ砲弾が同一カ所の至近に十発も集中すれば、簡単に装甲は弾け飛び、機関部は破壊される。
敵艦群をものの三十秒もかからず撃滅したわが第1艦隊は、示威行動として星系内の宇宙設備の破壊に取り掛かった。
艦隊は、現在位置に最も近いガス巨星の静止衛星軌道上に建設されたガス採取井戸に対し、射線の通る砲撃可能位置まで移動を始める。
この星系に存在する別の安定宙域近傍で遊弋中の敵艦群はわれわれの動きを阻止しようと移動を開始しているようだが、その動きは非常に緩慢であることが見て取れる。そのため、われわれが攻撃可能点に到達する前に迎撃できる位置まで進出することは無理なようだ。
敵艦群の指揮官からすれば、われわれが小規模ながら旧式中小型群では太刀打ちできない有力な艦隊であることは承知しているため、自艦を含めて無駄な犠牲は出したくないという気持ちは理解できる。
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