第49話 スラビア首都星系突入作戦1


 スラビアのいわゆる決戦艦隊は司令部のある旧大華連邦首都星系に一隻もたどり着くことはなかった。食料などは工夫すれば何とかなるだろうが、実質漂流中で無重力状態の軍艦内での長期の生活はかなり厳しいものになるだろう。


 運が悪かったと思ってくれたまえ。



 スラビア第二方面軍を基幹とした大華連邦人民解放軍本体も燃料・推進剤不足で星間戦闘能力をほぼ喪失しており、司令部を置く旧大華連邦首都星系に逼塞している。何度か第二方面軍の管轄するスラビア側から救援用の輸送艦隊が送り出されたが、輸送艦隊が目的星系である旧大華連邦首都星系にたどり着く前にわが方の遊撃艦隊の襲撃に遭い、輸送艦隊は護衛艦不足もあいまって簡単に輸送作戦を放棄して撤退している。


 この件に関して、なぜかスラビア中央方面からは小規模の増援ですら行われていない。どうせ、スラビアに隣接する反スラビア系の各国の宇宙軍の動静について、あることないことをワンセブンがスラビア内で流布でもさせているのだろう。


 大華連邦人民解放軍は燃料・推進剤を自前で調達すべく、星系内に存在するガス惑星軌道上にガス採集用井戸の建設を手掛けたようだが、俺でも予測できるような動きであるため、ワンセブンが見逃すはずもなく、着工後ある程度形ができてきたところを、遊撃艦隊が奇襲攻撃して完全破壊している。なお、井戸の建設用資材は、数隻の宇宙艦を解体して工面したようである。



 ワンセブンの掴んだ情報によると、大華連邦人民解放軍では司令長官以下数名の高級将官が拘束されて、簡易軍事裁判を受けたそうだ。裁判の結果についてはワンセブンに敢えて聞いてはいないが、司令長官以下の指導の元、事実上スラビア第二方面軍が壊滅したわけで、推して知るべしの内容だろう。責任は誰かがとる必要があるのは理解できるが、更迭で済まさないのがあの国の特徴でもある。人口は有り余るほどではあるようだが、人材も掃いて捨てるほどいるのだろう。所詮よその国のことだ。



 特殊探査艦もすでに数隻就役しており、順次次期作戦に必要なスラビア内の精密星系探査を行っている。


 そして、攻撃型母艦を基幹とする機動艦隊、第3艦隊が、陸戦隊の強襲艦2隻を伴い出撃した。


皇国第3艦隊

 巡洋戦艦×2

 攻撃機母艦×4

 重巡洋艦×4

 軽巡洋艦×6

 駆逐艦×36

 +各種補給艦など


皇国陸戦隊

 強襲揚陸艦×2


 この艦隊を押しとどめることができる戦力など、戦力の枯渇したスラビア第二方面軍にはないため、艦隊はわずかな抵抗を排除しつつイルツク星系まで短期間で侵出を果たし、中心惑星に対する低高度軌道爆撃により主要な軍事施設を破壊後、陸戦隊はほとんど被害らしい被害もなく降下を成功させ、惑星を一時占拠した。


 降下した陸戦隊は主要惑星施設を破壊後、最小限の被害で撤収している。強襲艦は人員を収容後若干の護衛艦とともに皇国に撤収したが、第3艦隊主力は指示があるまで星系に居座ることになっており、現在は星系封鎖を継続中だ。第3艦隊と陸戦隊にとって今次大戦では初めてと言っていい本格作戦だったので気合も入ったことだろう。



 そういった状況の中、長駆スラビア首都星系を奇襲攻撃すべく、第1艦隊に所属するTUKUBA を始めとした巡洋戦艦三隻の改修を行っていたが、兵装などには手を加えていない簡単な改修だったため工事は順調に進捗し、なにごともなく完了した。


 改修工事完了後、最終確認のため竜宮星系内で艦隊運動を行ったところ、質量の増えた分操艦が多少もったりした感じになったが、ワンセブンによる補正があるため気になるほどではなかった。作戦を開始して往路五日もあれば慣れるだろう。


 今回の作戦にはさすがに涼子は連れていけないので、その代りは、ワンセブンが務めることになっている。



 それでは、作戦開始だ。


 ワンセブンの操縦で人工惑星URASIMAの専用桟橋に着岸したTUKUBAに俺はこれから乗り込む。


 今回の作戦では涼子がいないのでTUKUBAの乗員は、艦長兼艦隊司令長官の俺一人だ。気兼ねがないと言えばその通りだが、少し寂しい気もする。


「村田中将、行ってらっしゃい」


 見送りに来たのは涼子だけだったが、そもそも涼子にしか今回の作戦を知らせていないのだから当たり前だ。


「無事に帰って来てね」


 なんだか、これでは、どこかの映像コンテンツじゃないか。


「まあ、ワンセブンもついていることだし、心配ないだろう」


「お兄ちゃんが無事に帰ってきたら私から伝えたいことがあるから、本当に無事に帰って来てよ」


「わかった。何を涼子が俺に伝えたいのか分からないが、任せておけ」


 なんとなく伝えたいことはわかるのだが、それを言う訳にはいかないものな。


 さっと涼子に敬礼して、俺はTUKUBAのハッチに向かった。



 出撃前にこういった会話は厳禁とされる風潮が昔はあったそうだが、今はもちろんそんなことはない。


 涼子のためにも作戦を成功させて無事に帰って来てやろうじゃないか。



 今回の作戦に先立ち、スラビア領内に進出した特殊探査艦による予定進撃路沿いの精密星系探査は予定通り進捗しており、第1艦隊は一般航路から大きく外れた進撃路から、スラビア首都星系を直撃することになる。



 今回の作戦は、敵艦の撃滅が目的ではないし、敵領域内での作戦のため、戦闘では対消滅弾は使用しない予定だ。


 作戦目標の研究開発施設の位置は掴んでいるので、地上からでは当方の砲弾を迎撃できない近距離から研究開発施設を通り魔的に砲撃して撤収する。もちろん、星系内の主要宇宙施設は出来る限り破壊する。




「これより作戦を開始する。係留索解放」


『係留索解放しました』


「係留索解放確認。TUKUBA、後退微速」


『後退微速』


 TUKUBAはゆっくり後退し、URASIMAから遠ざかっていく。


「TUKUBA、停止」


『TUKUBA、停止しました』


「TUKUBA、取り舵、前進微速」


『取り舵、前進微速』


「舵中央。TUKUBA、前進半速」


『舵中央。前進半速』



 TUKUBAは所定の操艦により、僚艦であるIKOMA、KURAMAと合流後、スラビア方面に向けてジャンプを行った。

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