悪い紙【なずみのホラー便 第63弾】

なずみ智子

悪い紙

 残業中のOL・トモミは、たまっていた受注書の束を机の上にバサバサッと置いた。早く仕事を終えて帰りたい苛立ちも手伝ってか、彼女はかなり乱雑に目の前の紙の束を取り扱っている。


「……痛っ!!!」

「どうしたの?」

 トモミの向かいの席で、同じく残業中であった同僚のリサが驚いて声をかける。


「紙で手ェ、切っちゃった。血も滲み始めちゃってるよ……」

「あーあ、紙で手を切っちゃったのって、地味に痛いよねえ。私、絆創膏持ってるけど、貼っとく?」

「ありがと。あーもう、ただでさえイライラしているのに最悪。この”悪い紙”!!」


 リサから絆創膏を受け取ったトモミは、自身の不注意によって負った怪我を紙に責任転嫁し、バシッと指で弾いた。



 すると、束の一番上に置かれていた紙がふわりと風もないのに浮き上がった。

 宙に水平に浮かび続けている紙――常識ではあり得ない光景――に、トモミとリサは固まってしまった。


 驚愕であったのか、それとも恐怖であったのか?

 彼女たち自身も整理がつかないうちに、その紙はトモミの喉元をシュッと横切ったのだ。


 横一文字にスパッと切り裂かれたトモミの喉元より、血がピューッと噴き出し始めた。



――fin――

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