第3話

 初めてのsexは21の時だった。出会い系を使って初めて会った人と名前も知らないままヤッた。

 彼氏と別れた翌日のことだ。

 別になんでもなかった。子孫を残すために沸く欲求に世間体を合わせて、孕ませないようにやる、ただの欲だった。

 つまらない、そう感じた。感動も悲しみも沸くどころか、行為をする前よりも感情は平坦になっていた。

 だからなんだろう。何が変わるわけでもない。処女に価値を感じる人間は何を考えているんだ。

 ただ、暇潰しのような、快感のための行為。甘いチョコレートと同じ。

 帰り道、ショーウィンドウに飾ってあったスカイブルーのワンピースは売れてしまったようで、赤い花柄のシャツが代わりに置いてあった。

 そのまま家に帰り、ベッドに横になって、私はぼんやりと天井のシミを見ていた。

 例えば、今、彼が突然目の前に現れて、どうか、また付き合ってくれないかと言う妄想をした。

 想像の中で私は断る。

『もう時間が経ちすぎたわ、あなたも私も随分変わってしまって、道を違えてもう戻れない。あなたの幸せを願ってる。』

(誰よりも。)

 もはや祈りだった。

 現実に彼と会うことは万が一にもないだろう。ロマンスは小説とドラマにだけある。

 ただ純粋に彼の幸せを願った。

 きっと何よりも彼が私にとっての脳内麻薬だ。あれから2年も経っているのに、ふと脳内に現れてはちくりちくりと思い出を刺す。

 そしてそれから逃れるために、新たな麻薬へと手を出すのだ。

 私はまたチョコレートに手を伸ばす。いつか、この麻薬がいらなくなった時は、また別の何かが必要になるのだろうか。

 やるせない。やるせないのに、チョコレートの甘味は心地よく舌を刺激する。

 人生は麻薬だ。やめたくてもやめられない。脳内麻薬だ。ああちくしょう。くそやろう。

 多くの主人公が苦痛を乗り越えて、幸せを手に入れる。だから苦痛が快楽になる。

 チョコレートで幸せが広がり、なんてことない気になっていく。それでももう脳みそは次の麻薬を欲しがっていた。

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脳内麻薬 鮭B @syakeB

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