File 2 寒川賢太郎 プロローグ
自宅から大学、大学からアルバイト先のコンビニ、コンビニから自宅へと行き来し、週末は家でゲームをして過ごす賢太郎の生活を大きく変えるきっかけはネットで見かけたアウトドアの動画だった。
これまでの人生でアウトドアの経験と言えば、小学生の頃に行った林間教室や大学の友人に誘われて手ぶらで参加したバーベキュー位なのだが、そのアウトドア動画を食い入るように見入っていた。
無骨な手斧で大きな薪を豪快に割ると、年季の入ったナイフを取り出した。
「いやいや、ナイフじゃ薪なんて割れないだろう」と画面越しに呟くと、動画の男は左手に持ったナイフの刃を薪に押し当て、右手で別の薪を掴みナイフの背を叩き始めた。
カンッカンッと乾いた音と共に薪が割れる。続けて次の薪を手に取ると同じ様にナイフの刃を薪に当て、右手で掴んだ薪でナイフの背を叩いて細い薪を量産していく。
一際細く割れた薪を見繕うと、ナイフを右手に持ち替えて鉛筆を削る様に薪を削り始めた。鉛筆削りと違うのは削りカスを落とすことなく残している点だった。
「なんだ、箸でも作ってんのか?」
賢太郎の呟きに答える様に動画の男は、フェザースティックが完成したとキメ顔をした。
続いて動画の男は麻紐を取り出して適当な長さに切るとそれを解し、わたの様な状態にした。そして、黒い棒状の物を取り出し、ナイフの背を強く擦り付けた。
パッと火花が飛ぶと麻紐で作ったわたから煙が上がったのだった。
「おぉぉ、なんかよくわからないけどカッコいい。火打ち石ってやつかな」
賢太郎は動画に夢中になっていた。
コの字型をした焚き火台にあっという間に熾された小さな焚火、動画の男はその火を使い調理を始めた。小さい鉄板で焼かれたステーキでビールを飲むその姿が余りにも印象的だった為、賢太郎は動画を見終わるとインターネットでキャンプについて色々と調べたのだった。
その日以来、大学の授業の合間やアルバイトの休憩時間になると動画サイトでアウトドア関連の動画を観て過ごし、休日になるとホームセンターやアウトドア商品の取り扱いがあるスポーツ用品店に足を運びキャンプ用品のコーナーで時間を潰す様になっていた。
自分がキャンプに行くならどんなアイテムを揃えようかと空想を膨らませるが、いざアイテムを揃えようと動画サイトやSNSで見かけるアイテムを調べてみるとどれも高額で学生の賢太郎は購入を躊躇ってしまう。
「うーん、バイト入る日数を増やそうかな。いや、遊ばなくなったゲームをまとめて売るのもありかもしれない。スマホゲーの課金額を減らすかな、いや来月のコラボイベントは激アツだからなぁ。あぁぁ、5兆円欲しい」
悩める賢太郎は無事にキャンプへ行けるのだろうか。
ひとりキャンパー図鑑 海苔缶 @norican
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ひとりキャンパー図鑑の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます