第4話 "女は25歳からが本番だ"

(アラサーの仮説)



 事務所に、足を踏み入れた俺達三人。


 入るや否や、家政婦さんのような人に案内される。


 事務所の中は、黒を基調としたオフィスのような構造になっており、あちらこちらに観葉植物がこれでもかと置かれている。


 二階もあるようだが、関係者以外立ち入り禁止となっているみたいだ。



 「速水さんは?」


 「はい。いらっしゃられますよ、奥の資料管理室に。」


 「ありがとうございます。ではこまでで大丈夫です。」


 仕事モードの雅火は、お手伝いさんにお礼を告げ別れると慣れた足取りで奥の部屋に向かう。



 先程聞こえてきた"資料管理室"につくと、ノックもせずにそのままズカズカと入っていく。


 「あらァ、久しぶりね!雅君」


 中から、久しぶりに会った親戚に話しかけるような声が聞こえる。


 声の主は、大人の色気を漂わせる綺麗な容姿をした女性だが、どこか仕事終わり1人でビールを片手につまみを食べるOLのよう雰囲気も持ち合わせている。


 「沖刀ちゅうとでいいです…」


 俺達の方へは目もくれず話し始めた、何やら親密度が高そうな二人を見つめ、無言で椅子に座る。


 「今日は、仕事で… ごほんっ

 "各地で命時計めいどけいが一斉盗難された事件" についてお聞きしに来ました。」


 咳払いで声を仕事モードに戻しながら、真面目な顔になる雅火。


 話を聞いている女性は、先程と変わらないテンションで答える。


 「あら、知ってたの。

 それがねェ、ただの窃盗事件じゃなくて、女の子の人質が取られてるのが厄介なのよね。」


 「それは着流しを来た若子か!」


 ここで、もう"女の子"と聞けば、全てを妹に当てはめる脳になっているとでもいうかのように女性の言葉に反応した龍は、突然話に入る。


 当然俺はただ一人、蚊帳の外である。


 「そちらさん、最近こっちにきたばかりの"残灯"ざんとうさんよね?一般の"来魂者"らいこんしゃに情報もらしちゃダメでしょ、みーくん。」


 「み…みーくんって呼ぶな!!

年齢バラすぞ!アラサーばばあ!」


 鉄仮面の頬を少し赤らめて、反抗期の少年のように声を荒らげる雅火を冷静に諭す。


 「なんですって?もう1回言ってみなさい。次は窓から投げ飛ばすから。」


 仲がいいのか悪いのか、良く分からないがこの二人からはどこか似ている分部が伺える。


 の前に…専門用語が出てきすぎて何が何だか良く分からない。


 「あの、話してる内容が全く分からないんすけど…」


 俺は、静かに椅子から立ち上がり3人の間に入ろうとするが、またもや無視をされる。


 「そ、その少女。こいつの妹だ。

 だから別に関係してないわけではないだろ。こっちの冴えない男も、盗難のせいで命時計めいどけいがなく、現世に帰れないわけだから。」


 「そう…じゃあ、一応説明しといた方がいいわね。」

 

 またも俺の悪口が挟まれたところで、女性が何処から出してきたのか、ホワイトボードに

 ~天徒専門用語あまとせんもんようごを覚えよう~

 と、書きながら突然教師のように"授業"を始める。


 「"残灯"ざんとうは、寿命を残したままこの世へ来た魂のことで

 "来魂者"らいこんしゃは、この世、まあ実名は無後世なごよって言うんだけど。

 無後世なごよに来た新しい魂のことを指す。

 後に、生活を始めて住居登録を済ました魂は"遂幽民"すいゆうみんって言い換える。

 ちなみに、地味目君みたいな本体が瀕死状態でまだ生きてる内に魂だけこちらに来たものを"挟間"はさかどと呼んでいる。

 分かった?」


 と、慣れた口ぶりで女性が説明を終えたのだが、いまいち分からずここは、適当に流す。

 

 隣を見ると、妹のことが気に病むのか

龍がソワソワした様子で下を向いている。


 すると、その様子を察した女性の方から龍に話を振り始めた。


 「で、その妹さんを助けに行くって?」


 "妹"というワードを聞き、瞳孔を開かせ分かりやすい反応を浮かべる龍は

 「そうだっ!」と元気に返答する。


 が、返ってきたのは辛辣な答えだった。


 「やめときなさい。死ぬわよ。

正しくは、もう死んでるんだけど。

 死狩に魂を狩られるともうそこにある存在が全て消え去ってしまう。

 素人がどうこうして叶う相手じゃないわ。

 妹さんは私達が責任を持って助けるから、あなたは…」


 「ダメなんだ!拙者が行かねば意味が無い。」


 ここで、女性が言い終わる前に初めて真面目な声色を発する龍。

 その表情、声色からは何か深い信念を感じる。

 よっぽど深刻な問題があるのだろうか…


 「幼き頃、捨て子の身を拾われ、後に妹になる"お浰胡"おりうと家族になった。

 拙者がここに来る前も…」



 と、ここで龍の回想シーンへと移る。




 ******************



 我が家は、代々来灯星の偉人の血を受けづく家系であり、我が家の家血を盗みに家を襲来群しゅうらいぐんが攻めてくるのは日常茶飯事であった。

 

 とある夜、家族が寝静まり帰った後、いつもの如く襲来群が家に攻めてきた。

 その時も今のように必架が人質になり、家の金は巻き上げられ、母も父も襲来群に囚われの身となってしまった。

 

 必死に助けを呼ぶ必架を拙者は… 助けることが出来ず、目が覚めた時にはこの地に来ていた。

 

 辺りを見渡し、自分のいた星とは全く別の世へ来たことに気付いた拙者は、必架もあの後、こちらへ来る終末となったのでは、と考え妹であるお浰胡おりうを探し始め、今に至る。



 *****************




 「故に、今度こそ拙者がお浰胡おりうを助け出さなければならない!!

 どうか、お力添え願いたい…」


 まさかそんな深刻な過去があったとは…驚きを隠せなかった。

 こんな信念があり必死に妹を探していた龍が今までなぜあんなにテンションが高かったのか、ということに。


 「そこまで言われて、動かないわけにはいかないわよね。

 これからあなた達は、死狩しきがりから自分の身を守れるくらいには守魂護しゅごもり同等の力をつける必要がある。

 私たちも生半可な訓練で、守魂護しゅごもりになった訳ではない。

 数日ここで修行の日々を送ることになるけど、いいのかしら。

 そして、真剣に命を掛ける覚悟はある?」


「ある!!手段は選ばない。

我が身、妹のためなら命などおしくは無い!」


 勢い良く言い放つ、隣の圧に負け、"あなた達って俺も含まれてんのか" という不満を内に隠しつつ、俺も申し訳程度な誠意を込め龍の後に告げる。


 「え、あ、まぁ。俺も別に命は惜しくないです。」


 「そう…あなた達の覚悟は伝わった。

 あなたの妹を救うという熱意に免じてこの私が力添えしてあげるわ。」


 あれ、これまた俺除け者?

 俺の現世に戻るっていう目標もあるんですけど… と、またも不満を抱きながら

 眉間にシワを寄せ、雅火を見つめる。

特に意味はないが。


 「ああ、この人の紹介がまだだったな。

 この人は、俺の叔母に当たる人で

 "速水はやみ御代"みしろ、25歳。自分で紹介させると、21と4歳もサバを読むので要注意だ。」


 いや、違ェよ。

 誰もこの人の紹介しろつってる訳じゃねェんだよ… まあ、もういいか…


 「おい?みーくん?

女性の年齢をそんなダイレクトに言うもんじゃありませんよ?

 やっぱりあん時窓から投げといた方が良かったな、畜生。」


 最初感じたOLキャラがだんだんとサバ読みメスゴリラ的なキャラに変わっていってるのだが…

 俺よりキャラが立っているため、あまり納得は行かない。


 「では!今日から拙者達の訓練よろしくお願い致すっ!」


 そう。それよりも遥かに納得の行かないことはこれからである。




――――――――――――――――――


 この時は、思ってもいなかった。


後に、訪れる最悪の任務。


 命をかけるどころか、自殺行為をしにいくはめになるとは…

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SoulどRetLife 《ソールどリトライフ》 夜鷹キズイ @921__Gz

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