第3話 冒険心はTPOを気にしない



「よーし!行くぞっ!我ら三人の旅が今始まったァァ」


 「お前一人だけテンションおかしいんだよ…」


 先程まで、無口少年と二人きりだったため無言の気まずい空気が漂っていたが

 今こうしてうるさい奴が加わると、どうも落ち着かない。

 特に俺は友達が今までいなかったが故に人との接し方がいまいち分かっていないせいでもあるのだが…


 ここで、今まで黙って俺達の前を相変わらずの無言で歩いていた雅火が振り向かずに口を開いた。


 「三人じゃねェ…俺はただの案内人だから、役目を遂げたら仕事に戻る。

 お前達がこれから向かう場所は俺の仕事場とは離れているからな。これからはもう会うことも少ないだろう。」


 「えっ!そうなのか!?

 拙者たち三人、バディじゃなかったのか!」


 "バディ" と…古臭いのか外来語を話す現代的宇宙人なのかよく分からないが、龍はあからさまに寂しそうな顔をしている。


 「つか、思ってたんだけどよ、雅火も俺達と一緒ぐらいの年齢じゃん。

 働かねェといけない理由でもあんの?」


 俺が質問すると、何か反応したのか。雅火は少し足取りを遅めながら答える。


 「俺たち天徒は、人間のように生きるための目的ではなく魂の巡回を行うため産まれてきた"天界の使い" だからな。

 ここでは、15歳を過ぎた奴らは、皆どこかの事務所に就き働いている。

 働く事を生き甲斐として生きる高校生のリーマンみたいなもんだろ。」


 「え、高校生なんだお前」


 「年齢的にはな。今年で18だから。」


 一個上なだけだったのか…と思いつつ

俺には天徒あまと達の境遇がこいつらにとって楽しいのか、もっと羽目を外したいと思っているのか分からないが、少し考え込んでしまう。


 (こいつというか、こいつらは俺に似てるんだよな…

 何の生き甲斐もなく目の前の与えられた任務にすがって生きることしか出来ねェ。

 まあ、心配しなくても俺よりは楽しんでるか。)


 「何が辛いんだ?」


 しみじみとしている俺とは逆に、能天気な声で龍が呟く。


 その声に、今まで無言で歩いていた雅火も後ろを振り返っている。


 「働くことは生きていることと同意義で、働かずしては生きては行けないだろ?

 それが、働くために産まれてきた命だとしてもそれは"生きていくために生まれた" のと同じなんじゃないか?

 生きる理由や、産まれてきた命に価値はつかない。

 "生きていること"その証拠が、自分のここに存在している価値に繋がるのではないだろうか。

 働くために産まれてきた事の何が辛いんだ?」


 俺は唖然とした。雅火も同じく目を丸くしている。


 龍の話している内容ではなく、"こいつこんなに真面目な顔出来んのか" ということに。


 しかし、雅火にとっては感慨深い物があったのだろう。


 先程までの鉄仮面のような顔とは違い、何かの荷がおりたような表情を浮かべている。


 「そんな風に言われたのは初めてだ。

俺は働くために生きているただの使いであって、自分のために生きていい存在だとは思ってなかった…

 "ここにいること"自体が、俺の価値であり生きる理由か…そんな考え方もあるんだな。」


 「そうだ!何が何だか知らんが、産まれて来た以上は、その事実を噛みしめながら生きていくべきだと拙者は思う!

 まあ死んだんだがな!ははっ」


 いや、怖い怖い。と思いながら、高笑いする侍宇宙人と鉄仮面の底で静かに微笑みを浮かべる二人を、交互に見つめる俺は少々感嘆を吐く。


 「なんか仲良くなっちゃった系?

ちょっと置いてかないでくんない… 主人公が全然主人公してないんだよ、まだ。」


 「別に、嬉しいとか思ってないが、俺は任務が終われば先程言った通り仕事へ戻る。俺はお前達の案内人。それだけの関係だ。

 別に嬉しいとか思って無いが。」


 「二回言っちゃってるよ。もう、嬉しいって思ってんのバレバレなんだけど」


 俺には心を開かなかった雅火が、謎の生命体である侍宇宙人には恩師であるかのような敬意の眼差しを浮かべている状況に多少疎外感を感じつつ「早く行こうぜ」と歩き始める。



――――――――――――――――――――



 「と言っても、今からどこに向かっているんだ?」


 「ああ、今は…」


 「守魂護しゅごもりという、天徒あまとの中で唯一の"武力組織"ぶりょくそしきである事務所へ向かう。

 龍の妹の居場所の鍵になる命時計の在処とも繋がっているだろう。」


 俺の言葉に被せ、前のめりで話す雅火は"命時計めいどけいを見つける"という俺の目標より、龍の妹探しに着目し話を進めている。


 「え、え…俺の時計探しが本命じゃねェの?つか、さらっと龍呼びしてるし…」


 「恋敵に負けためんどくさい女みたいな事言うな。」


 「俺に当たり強くね!?」



 そんな、周りから見れば俺がかなり薄いポジションにいる雰囲気のまま俺たちは足取りを進めていく。



――――――――――――――――――


 

 歩く事約1時間―――


 急に辺りの雰囲気が洋風的になり、雅火は細い通路やどっかの家の屋根を当たり前といった顔でどんどん進んでいく。


 「おお、冒険みたくなってきたなァ!」


 ここでもやはりテンション高めの侍宇宙人。


 「いや、それより歩いてるとこほぼ猫の通路じゃねェか。

 こんなとこ歩いて急におふさげモードかよ?雅火」


 「あ"?ここが正式ルートだか。」

 

 「当たり強えんだよ…」



誰しも一度は、思うであろう"屋根の上を歩きたい" という思いを俺が叶えたところで、目の前に


 レンガ造りの建物が現れる。


 「ここが、守魂護活動課しゅごもりかつどうかの事務所 [灯護千生庁]ひごちおちょうだ。」


 「大層な名前だな、おい。」


 「おお!勇ましい名前だァ!」


 二人の性格は真反対なので、意見の不一致は見逃してもらいたい。

 決して俺がひねくれてるとかそういう訳ではなく。


 「思ったより小せェんだな」


 「馬鹿か。この世で"灯護千生庁"ひごちおちょうつったら、誰しも一度は入りたいと夢見る守魂護活動課しゅごもりかつどうかだぞ。

 そんな、天徒の夢を壊さないで頂きたい。」


 「いや、知らねェよ…」


 「おいっ、早く入るぞ!もう、わくわくが止まらないなァ!」



 ここでもやはり、テンション高めの龍が率先して事務所の中へ入っていく…

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