第2話 主人公より輝くべからず


―――――――――――――――――――



 「で…この世界のことは大体分かったんですけど、俺はこれからどうすれば…」


 「"守魂護"しゅごもりの所へ行け。」


 突然今まで話していた優男とは別の方向から声が聞こえ、驚きつつそちらへ目を向ける。


 「先程情報屋から各地で命時計めいどけいを盗難された という情報が入りました。おそらく、死狩しきがりの犯行だと思われます。」


 仕事になるとペラペラ真剣に話す雅火に耳を傾け、こちらも真面目に告げる。


 「そっか、つまり守魂護しゅごもりのところで行動を共にしていたらいつか命時計めいどけいにも辿り着くってわけか… よし!

 雅火、ばく君を守魂護しゅごもりの事務所まで連れてってあげな。」


 

 メイ時計?冥土系?

 業界ならではの会話なのか、全く話が見えてこないが

 "それ"が1番気になった俺は、満足気に笑っている優男に問う。


 「いや、にひっじゃないすよ。"ばく君"ってなんすか…」


 「本名教えちゃいけないって言ったでしょ?

 君、考えるのめんどくさいとか言いそうなタイプだから本名文字って、"ばく"ってどうかな?

 地味目だからこれくらい、覚えやすい方がいい感じだよ。」


 サラッと内面と外見をディスられた気もするが、不本意ながら気に入ってしまった俺は素直に頷く。


 しかし、ここに不本意なことを命じられたと不満を感じる男がもう1人。


 「なんで俺がこいつを…」


 「だって俺はももを本部に連れていく任務があるからなあ。雅火しか手空いてないよな?」


 と、今の雅火にとっては不気味に感じられる笑みを浮かべながら、命令する優男に言葉を遮られ、真に迫った言葉を告げられた雅火は、反論の余地がなくなり渋々俺を連れていくことを許可したようだ


 「おい、行くぞ。」


 こうして、現世に残る本体へと戻るために、命時計めいどけいを探す俺の旅が始まった…




――――――――――――――――――


 

 かれこれ、30分。

 無言のまま俺は、キレ気味の雅火の後ろにつき"あの世" を歩いている。


 辺りを見渡すと、古風な雰囲気の街並みに小さめのビルや家が立っている。

 "本当にあの世にいるのか" と疑ってしまうほどの、地球と変わらない世界観。


 変わるものと言えば、人間が空を飛んでいるくらいだ。"人間" の姿をしていると言えど、おそらく先程優男が言っていた"天徒" という種族なのだろう。


 天徒には、"羽"など"天使の輪" などもなく、人間と見た目こそあまり変わらない容姿をしている     


 が、"天界に使えている" といった時点で人間とは全く違う生き物なのだが。


 「何考え事してんだ。死人に口なしと言うだろ。この世でお前の思考などに意味はない。

 お前は、守魂護しゅごもりと接触した後 命時計めいどけいを見つけ本体へ戻る。

 ただそれだけ考えろ。深追いすると戻れなくなるぞ。」


 「あ、いや、ここには俺の他に人間ているのかなって。」


 「……寿命を残したままこちらの世界へ来た人間は、その命が尽きるまで各自"ここで働いたり"、"学校に行ったり"などして生活している。

 俺たちの他にも、そういうやつらの生活をサポートしている天徒もいる。」


 そう言って、歩いている人間に指を指すが周りにいる天徒との区別がつかず、何人もの人間がいるのかはよく分からない。


 死後の世界では、こんな生活が待っていたのか。


 「ん…」


 俺はあることに気付く。


 「あの!!」


 「なんだ」


 「1週間前、ここに #能場__のば__##紫月__しずき__#っていう過労死で亡くなった女の人は来ませんでしたか!!」


 俺は前を歩く雅火の歩行を妨げるように前に立つ。


 「俺は任務上、寿命を終えた魂しか扱わん。まだ寿命が残ったまま生を終えた魂ならどこかで生活してるんじゃないのか。」


 なんだ、母さんここにいるんだ…

そうか。良かった… 本当に良かった。


 母がまだこの世にいることを、安堵すると共に俺はそれなら現世に戻る必要は無いのではないかと考えた。


 元々、やり残したことなど何も無い。

 俺の死を嘆く者など、祖母と祖父くらい。そんな祖母と祖父もいずれはこちらへ来る身だ。


 考え事をしながら歩いていると、突然何者かとぶつかったような衝撃を受ける。


 「わっ、申し訳ない。拙者は龍之進りゅうのしん辰臣たつおみという者だ。急で悪いのだが、拙者の妹を見てはいないか。」


 「せ、拙者…!? お前、主人公の俺より目立とうとするなよ!」


 突然ぶつかったことなど、どうでも良く武士の様な服に身をまとい腰には剣を収めている主人公である俺よりキャラが濃い謎の男に多少の苛立ちを覚え、突っかかってしまう。


 「"目立つな" と言われても生まれてこの方慣れているので、今更変えることは難しい…」


 「てか、なんでお前着流し着てんの?」


「拙者の星の先祖が、地球と争ってた時代があるんだが… その時自世界に人質として連れ帰ってきたのが侍により、拙者の星は文明が発達したのたがそのままそこで止まっているんだ。」


「うわ、まさかの宇宙人!!!……ちなみにどこの星から…?」


 「来灯星らいとうせいだ。」


 「ら、らい、らい、ら、来灯星!?」


 聞いたこともない星の名前が飛び出し、俺の驚きはMAXになる。


 「地球から6万kmしか離れていないが?」


 「そんな星知らねェよ。未星人かよ…

まぁいいや。お前この世界では、本名言わない方がいいらしいぞ。」


 「そうなのか!では、"龍"と呼んでくれ!」


 「呼ばねェよ。俺はこれから色々やらないといけない事があるんだ。お前に構ってる暇はねェ。」


 実際、たった今 命時計を探さなくてもいいんじゃね?となった俺だが

 そう言って、そそ草と立ち去った。


 無言で俺たちの会話を聞いていた… (いや、目を瞑っていたので聞いていたのかは分からないが) 雅火に尋ねる。


 「なあ、宇宙人の魂もこの世界に集まんの?」


 「お前、ここが地球の空の上にあるとでも思ってんのか。」


 俺は完全にそうだと思っており、言葉につまる。


 「俺たちがいるこの世界を外から見た者がいないから、知らないが全 星と繋がる場所にあるのは明らかだ。

 それ故に、さっきのような宇宙人も大勢いる。」


 「じゃあ、あいつも俺と同じ瀕死の魂?」


 「いや、あいつは死んでいる。」


 そうなのか。と顔で返事をし、そのまま進もうとした直後だった――


 「おーーーーい、待てェェェェ!」


 先程の侍宇宙人が、全速力で追いかけてきたのだ。


 「うわっ…」


 逃げる準備をした時にはもう遅く

次の瞬間――侍宇宙人は、俺の目の前に立っていた。


 「拙者の妹を見ていないかっ!!」


 「どんな妹だよ。」


 良く考えれば最初それを聞いてきてたなと思いつつ、俺は少々ダルそうに答える。


 「ピンクの着流しを来たお下げの12歳くらいの女子おなごだ!」


 その姿を聞いた俺は、1時間前のこの世界に来たばかりの場面を思い出す。

 

 そう言えば…


 「それなら多分見たぞ。時計みたいなのを持って俺の前を急いで走ってったよ。

どっかの話に出てくるうさぎみたいで印象的だったから間違えてないと思うけど。」


 俺の発言に最初に反応したのは、侍宇宙人ではなく雅火だった。


 「その時計、、透明だったか?」


 「え、そうだけど。透明の文字盤に白い針がついてるみたいな。

俺目だけはいいから、遠目でもはっきり見えたつもりだけど。」


 「お前…それだぞ。命時計めいどけい


 「はぁ!?じゃあ、その女の子が盗んだってことか?」


 まさか自分がふらっと目で追っていたものが 俺のものだとは思わず、俺は雅火に目を丸くしながら言う。


 「いや、それは分からないが。何故それを持って逃げていたのかは、気になるところだな。」


 深刻な話をしている俺たちとは真逆に、目を輝かせる侍宇宙人。


 「拙者の妹の居場所を知っているのか!」


 「たった今、俺のものがお前の探してるものと一致しちまったよ。」


 「…?」


 俺が言ったことの意味が分からないと表情で語る侍宇宙人を見て、詳しく続ける。


 「でも、俺はもういい。元々"現世に還る理由" なんか無かったが、さらに探す意味が無くなった。」


 俺の発言を否定するかのように、2人の男が声を発する。


 「このまま死んでもいいって言うのか!そんなのダメだ!生きていくのに理由なんていらない。

 その命が、まだ尽きていないなら生きたくても生き続けることが出来なかった人の分まで生きないとダメだ!」


 と、主人公の俺より主人公らしいことを言う侍宇宙人。


 侍宇宙人の後に、若干キレ気味に雅火が続ける。


 「瀕死の魂に死なれたら天徒俺らの仕事が増えるだろ。

本体は生きてるんだから、勝手に魂だけ死のうとするな。」


 発言の糸は違えど2人に生かされているかのように感じた。

 まず、他人に「死ぬな」などと言われたことが初めてで俺はそれだけで生きていていいのではないか、と思えた。


 それに、生き続けることが俺を育てるために必死に働いてくれた母への唯一の恩返しだと、俺は命時計めいどけいを見つけ出し現世に戻ることを決意した。



 「分かったよ。じゃあ、よろしくな。龍。

お前の妹、俺も探してやらァ。そんで、絶対生きて現世に戻ってやる。」


 「拙者は気に入ったぞ!えっと、貴公の名は何だ?」


 「"ばく"でいい。」


 「お、そうか!これからよろしく頼むぞ!ばく!」


 「荷物が増えた…」




 まさか死後の世界で、宇宙人と行動を共にするとは思っておらずむしろ笑うしかない男が1人。


 急に話が進み、訳の分からないまま仲間が出来たことに喜ぶ男が1人。


 厄介者が1人から2人になったと、頭を抱える男が1人。





 そんなこんなで俺達は共に、あの世での冒険の幕を開けた。

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