んだよわけわかんねーじゃねーか

結局、俺は何も変わらなかった。




 あの自殺未遂の後もバイトだけで食いつなぐ生活を送っていた。


 でもあの3時間を不思議な夢と解釈したわけじゃない。ちゃんと五感がある夢なんておかしいだろ?記憶もはっきりしているし。




 その証拠かどうかは分からないが薬はやめた。いや、それは関係ないかもな。金が底をついてしまったんだ。そして俺は借金する勇気がなかった。子供の頃から親に絶対に人から金は借りるなと洗脳教育並みに教え込まれていた。




 それが正しいかどうかは疑問だがとにかく俺が薬をやめる手助けをしたのは確かだ。お礼を言いに行くのは変だが近いうちに顔でも見せてやろうと思う。




 話をあの3時間に戻そう。あれから色々考えた。誰が俺の何を表していたかを。




 まず初めにジャスティスは俺の子供の頃の正義感だと自分で明言していた。そしてカオルは俺が思い描く理想像だったな。確かに俺は中坊辺りの頃はダークヒーローに憧れていた気がする。今は普段は気の優しい人物だがいざという時本領を発揮するヒーローに憧れているらしい。自分で言うのも恥ずかしいが。


 んでもってソードは自分で選択する能力だと解釈している。




 こっからは俺の想像。


 トータルさんは良心を表していたと思う。常に他人をおもんばかる思想。




 次はアルティメット。こいつはよくわからない。わからないが危険な思想であることは確かだった。常識では理解できない未知の価値観。そういうのも俺の中にあったということだ。




 サベツの森の連中はそのままだ。自分と違う価値観の人を排除したいという気持ち。それにしてもネーミングが安直すぎねえか?




 死の計約はアルと一緒でよくわからない。アルと意気投合していたようだったし、彼らも今だ計り知れない未来のものなんだろう。




 ドラゴンは一番最初にしっくりくる答えがみつかった。あれはお金や法を表していた。ひとくくりに言うと社会だ。これが理性となって、混沌の世界の秩序をある程度保っていたのだろう。そしてドラゴンがなぜ死んでいたかというとそれは俺が違法な薬をやって、法や財産の意識が薄れてしまったのが原因と考えた。


 ちなみにセントウは社会に反抗してみたいという欲求の表れだと思う。


 しかしながらセントウによるとドラゴンはまた復活するらしい。人は一生社会の奴隷だということを顕著に示してくれているよ。




 最後に俺を10年間支配していた神だが…


 あれはまさしく俺自身だった。大して中身のない自分を守るために他人に流されることしかできないマヌケな心。それが俺に牙をむいてきたということだな。思えば当然の報いだろうよ。


 でも彼はきっとまだ俺の中に存在し続けている。彼もまた俺を人間らしくしている要因の一つだと思うからさ。




 おそらく大切なのは向き合うことだったんだ。






「240円のお返しでーす」




 そして俺は今何をしているかというとコンビニで買い物中だ。エナジードリンクをストックを合わせて数本買った。自分で言うのもなんだが低所得者の一人暮らしにしては意外と規則正しく睡眠をとっているため、お気に入りの深夜アニメをリアルタイムで観るにはカフェインが必須なのだ。




 俺はコンビニを出て家路につく。






 それにしても全く見当がつかないのはあの世界で最初に出会ったヒーナとじいさんだ。あいつらは確かに俺に親切に接してくれたが、どうにもジャスティスたちのような一様な存在感を感じなかった。


 まるで本物の……






「うぅ…ひぐぅ……」




 その時、すぐわきにあった路地裏の暗がりから女性がすすり泣く声がした。




 俺は近づいて様子を見てみる。その女性は黒いマント?のようなものを羽織ってうずくまっていた。




「あの…どうしましたか…?」




 ただの痴話げんかとかだったらどうしようかと一瞬思ったが、ここまで来たら彼女もこちらに気づいているだろう。引き下がるわけにはいかない。




「…え、えっとぉ…こ、ここはどこですかぁ?」




 彼女が涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげる。






 その顔は暗がりにあったが、はっきりと思い出すことが出来た。




「ま、まさか……ヒーナ…?」




 何度も目を疑ったがそうとしか見えなかった。




「……!?あなたはあの時の!?それに、な、なんですかここは一体……灰色の建物に灰色の地面、みんなわたしを奇妙な目で見てくるし…道を尋ねても何故か謝られてどっか行っちゃうし……」




 そりゃ、全身黒マントで覆った女が道端で話しかけてきたら誰でも恐怖するだろう。




 そんなことを思っているうちにジャスティスのある言葉を思い出した。






『もしかしたら異次元世界の人物の世界とも接触しているかもしれませんよ』








 ま、まさか…ヒーナは……






 思わずビニール袋が手のひらから滑り落ちる。




「…あなたはここがどこか分かりますか?…て、ちょっと聞いてるんですか!ねえ!」






 俺は例の3時間の後、あの世界を自己解釈して結論を出した気になっていた。






「ねえってば!」






 思い違いをしていた。自分の世界ってのは想像以上に広くって……






「……ちょっとー……なんなの……」








 わけわかんねーものが詰め込まれているんだ












 おしまい










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3時間で世界を救え!~神様の手違いで滅亡寸前の異世界に召喚されました~ 焼鯵くろみ @kuromi111

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