誰がなんと言おうと、あなたはあなただ。

「ポール・ワイスの思考実験」
ヒヨコをミキサーにかけてドロドロにして再生したら、元のヒヨコと同じだと言えるのか。
会田誠の『ジューサーミキサー』という作品を連想した。
この小説の透理という少女は、最新医療によって新品に再生された少女だ。

「スワンプマン」と「テセウスの船」も面白い。テセウスの方はつい最近、私も首をひねった思考実験だったのでタイムリーだった。

病室のなか。
新しく再生された透理と、主人公である友人との会話で構成された一話目。
以前はあった傷痕すらなくなった透理に対し、主人公は『私がそう思いたいから、私は透理を透理だと保証する』と断言する。

ちょっぴり甘い百合モノだと思うなかれ。
第二話は、衝撃の展開を見せるのだから……。

たった一人の人間のなかにも、多くの『わたし』が住んでいる。黒白だけではない。無限とも言える灰色のグラデーションと、無限とも言える色を持つ。
わたしの中には既に世界が入っている。

その世界ですら、自分を自分だと認めてくれる存在を求める。
拠り所がなければ自身の存在があやふやとなり、自我が崩壊するのかもしれない。

誰がなんと言おうと、あなたはあなただ。
再生された人間でなくとも、そう言ってほしい時があるだろう。
先に進むための灯明のような言葉がほしい時が。

透理の今後は。そして、主人公の未来は。それは、本編で。