夕暮れまでとは誰がいったの?

 少し時間が過ぎて風が気持ちいいと私は思った。

 頬を撫でるように、髪を遊ばせる……。

 どこからこの風は吹いているのだろう、視線の向こうに木立があるが木々は葉を揺らしている。私が頭を冷やす時間を過ごすには十分な雰囲気に満足していた。


 猫は相変わらず私から離れないのでどうしたものかと少し悩んで猫を見た。

 たまたま、偶然こちらを見た猫と目が合う。これがとても素敵な私好みのすっとした色の白い顔色の男性ならいいのにと思った。黒い大きな目を持つ猫、で、しかない。

 考えていたことが分かったのか、そこは知らない。名前のない猫はポーンと走り去って木の茂る先に行ってしまい姿が見えなくなってしまった。

 なんだ、そういうこと。私は探すこともしない。猫にまで去られてしまった。

 ここまでの道行きに相手がいてよかったとでも思えば良いのだろうか。心が冷たい。私にはもう何もない、空っぽになってしまった。熱くなるのは簡単だが火消しはなぜこんなにも時間がかかるのだろう。こんな思いをするのならば、もう、遅いか。


「もうすぐ、閉園ですよ」

 低音だが張りのある声が、私の肩口にかかる。ふっと振り返ると、黒髪にゆるくウエーブのかかった細身で長身の男性が立っていた。

「ええ、存じております。そういうあなたは?」

「急がないとですね。バス停までだいぶあります。あ、ここの職員とかそう言うんじゃないですけど。お節介でしたね。でも急に真っ暗になると、ねえ。危ないでしょう。女性一人では……」

 口幅ったい感じで、ゆっくりと言うと、眼鏡を外してかけ直した。

 キャンバス地のトートバッグを肩の上にかけなおすと、速足で歩きだした。私はついていく理由などないのに、広々とした公園の真ん中をその男性の後をついていった。先ほどの猫がまた私の後ろを歩いてきたことなど知る由もない。

 ランニングをする人の姿もなければ、遊ぶ子供の姿もない。平日の夕方、私は一人思い出に浸るつもりが、一匹と一人に出会った。

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