不思議な空気

 バスの中で猫の話で盛り上がった私たちだが中央線の三鷹で別れることになる。

私は白石さんの名前を一方的に聞いたが、自分は名乗っていないことに気が付いた。

 バスを降りて電車が来るまでの間に唐突に今更だけど、私は白石さんに唐突に名乗った。

「倉本梢子、派遣社員です。先ほど私、名前を言っていませんでしたよね」

「倉本さん、よかったらだけどあなたの地元でいい。三鷹コラルで軽く食事なんてどうですか? 昼食を取り損ねたんですよ、お腹が減りすぎて。嫌なら断ってください。一人で食事ってもう、飽きちゃって」

「コラル、限定ですか?」私は少し笑った。

「いや、あまり降りないからそこしかしらない。一度本屋さんに行ったことがあって」

「ああ、デザイナーさんでしたっけ」

 私は行く前提で話をしていた。

 食事を一人ですることには私も飽き飽きしていた。

 人肌が恋しい気持ちは伝染するのだろうか。白石さんに見透かされていたのか、自分が物欲しい顔をしていたのかどちらだろうと笑えた。

「おかしいですか? デザイナー」

「いいえ、ごめんなさい。私ったら、変なところで笑いましたね」

 話をしていたらすぐに三鷹に電車は滑り込んでしまった。たくさんの人の流れに乗って吐き出された。どこどこ? 白石さん……。

 人の渦の中で私は彼を見失ってしまった。ほんの少しの不安な気持ち、もう会えないのかな。

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