鳥料理はお好き?

 私たちは小腹がすいたという共通の意見で鳥料理の店に入ることにした。

 白石さんはすぐに見えた店を指差した。忙しくて、時間の経過に気が付かないというか、考え事をしていると時間はすぐに過ぎてしまうと言い訳ばかりしている。


 店内に入ると、おしぼりで手を拭いて、すぐに去ろうとする店員さんに、注文する真剣な顔に少し笑えた。このままなら飢え死にしそうな感じだった。

「とりあえず、つくねを二本ずつと、だし巻き卵と枝豆とビールの中ジョッキ」と言い放つと我に返って謝った。

 ごめんなさい、前後不覚で。勝手に注文してしまってとか、赤い顔をして頭を掻いていた。

「良いんですよ。白石さんの食事に私がご一緒しているだけ、だから」

「ビールとか、飲めます?」

「少しだけなら、でも、私もメニュー見ていると、ご飯ものが欲しくなりました」

 私たちは向かい合わせに座りながら、ずっと前からの知り合いのように笑い合っていた。変な気分だ。私は知らない人と食事などしないのに。


 

「もとは武蔵野のあたりってなにもなくて、鳥追いなどをする場所で雉やウサギなどを狩りしていたとか。知っていました?」私のうんちくはここまで。

「ええ? これから食べるのに、そんな話するかな」

 白石さんは笑って言った。

 ああ、そこまで幻滅されなかったようだ。私は人と冗談のポイントがずれているのかもしれない。でも……。と言おうとしたら、つくねとビールが運ばれてきた。


 これから食事をするには確かに品がないのかもしれない。女の子らしい、リアル二六歳の女子なら何を言えばいいだろうか。背伸びして既婚者と付き合ったりして少し普通の女の子の気持ちを忘れていたようだ。

 敦と付き合っていた頃は何でも、彼任せで自分がなかったような気がする。敦に気に入られようとか、好かれようとするあまりに本当の自分ではなかったのかも。好きになった人が結婚していただけという言い訳など、通らない。


「あ、ごめんなさい。僕、言い方きつかったかな、自分で誘っておいて」

「いいえ、デリカシーがない女だと思ったでしょ」

「女の子とは付き合ったことがないもので」

 私は白石さんの冗談だと思って、笑いながら言った。まさかね……。

「とりあえず、次は、ねぎま二本ずつと焼きおにぎりなんてどうですか」

「じゃあ、僕も同じもので。好きだな、焼きおにぎり」

 とりあえず乾杯したがこれはなんの乾杯で? と思った私はまた笑った。

「なんだか私たち、不思議な感じですね。何、つながりでしょうか」

「う~ん。なんだろう? あ、変な心配しないでね。僕は同居している男性がいるから」

 スマホの画像には仲良く映りこんでいる、また素敵なイケメン男性と先ほどの猫が、ここにいたのか。私はまたハズレくじを引いたようだ。いや、でもただの同居人、シェアハウスかもしれない。必ずしもゲイだと言った訳じゃない。あれれ、私は白石さんに惹かれているのかと驚いた、というか少しばかりうろたえた。

 私の狩猟本能が目を覚ます。

 絶対白石さんを落としてみせると思いながら、また今度あの公園に誘うつもりで、つくねにかじりついた。次があればいいなと彼の横顔を見て妄想した。とりあえず同居人ってなんだ? 私はつくねのおいしさを味わいながら、ビールに口をつけた。実はアルコールは得意ではない。


「あの、おいしいですよね。焼きおにぎり」

「ウン、ごめんごめん。スミマセン、食べてばかりで。猫を見にこないですか?」

 急に誘うじゃないかと私は思う。初めて会った人の、それも男性の部屋にのこのこ行くほど軽い女じゃないと少し気取って返事をした。

「だって、今日出会ったばかりじゃないですか」

「あ、そうですよね。じゃあ、また、ここで浩志も一緒に三人で食事しませんか?」

「同居している、ひと?」

「はい、家賃が高いからルームシェアしているんです。給料が安くて、不動産やさんで知り合ったんです」

 私は安堵した、ゲイじゃないみたいだ。浩志さんもステキな男性だったしなんだかうれしい気持ちになった。

「だから、男同士で一緒に……」

「そうです、とても真面目で気が合うので。あなたにも合わせたいな」

 う~ん。

 これってどっち? 

 私はまた泥沼にはまって行くのだろうか。

 この人がイケメンでなければ、こんなに引っかからないのになあ。逃すのはとても残念だし。会計を済ませる前にスマホでお互いの番号を登録して、LINE登録をした。

 私のこれからに幸あらんことを。

 

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