第147話 エピローグ

ヴァール様へ


 北ウルスラ王都で調査を始めてから三か月も経ってしまいました。

 皆のやりたいことがびっくりするぐらい多くていくら調べても終わりません。

 その上、久しぶりに魔法大学の研究室に戻ってきたものでたくさん提出物がたまっていて、先生からみっちり叱られました。いくらか見逃していただける代わりにしばらく授業をやらねばならなくなって、もう目が回るような忙しさです。


 ハインツさんからいただいた手紙でブラスちゃんの撮像を見ました。とっても愛らしいお子さんですね。もう二歳になるそうで驚きです。

 ハインツさんはブラスちゃんを聖騎士団員にする気満々ですが、アンジェラさんはあまり賛成ではないようです。ハインツさんはよく怪我をしていましたから仕方ないですよね。まだ早いですがブラスちゃんの気持ち次第だと思います。


 ヴァール様と会えなくて寂しすぎるせいか、最近はヴァール様にそっくりな生徒が魔法大学にいるのを見てしまいました。最初は幻かと思いましたが、ジリオラさんによるとリヴィールという名前で実在しているのだそうです。ジリオラさんと同じクラスに転入してきたのだとか。

 大学の記録を調べたら、リヴィールさんの転入試験は全科目満点で史上最高でした。

 私もそのクラスの授業をすることになりましたから、大変優秀な生徒に会えるのが楽しみです。

 ジリオラさんとしては留学費を出してくれたリヴィールさんにどう接したらよいか困っているそうですよ。うっかり陛下と読んでしまいそうだとか。

 そういえばリヴィールさんの話をサース六世枢機卿に申し上げたら、枢機卿も同じクラスに入ってくることになってしまいました。是非とも机を並べて勉強したいのだそうです。

 枢機卿を相手にどう教えればよいのかあたしもちょっと悩んでいます。困らせる人ばかりですね。

 それにしてもサース五世はどちらに行ってしまわれたのでしょうか。あの強い方のことですからお元気とは思うのですが。


 レイライン王に拝謁しました。

 どうやら本気でヴァール様への王位継承をお考えのようでした。あたしは大賛成ですが、そうなれば東ウルスラや西ウルスラは黙ってはいないと予測します。


 東ウルスラは東海龍王国と争っていましたから、龍王国と同盟している魔王様が北ウルスラの王も兼ねるとなれば脅威を感じるでしょう。挟み撃ちで攻撃されると受け取るかもしれません。こちらのほうが有利なだけに、先制攻撃、もしくは暗殺などの強硬手段に訴えてくるのではないかと心配です。

 対策にゴッドワルドとボーボーノを潜入させておきました。彼らはあれで結構優秀なんですよ。いろんな情報をもたらしてくれています。なぜかあたしをすごく怖がっている節があるのは気になるんですけど。姐御と呼ぶのは止めてほしいです。


 西ウルスラは自分たちこそが伝説のウルスラ始祖王の正統な後継だと信じていて、いずれは統一王国を復活させて盟主になるとの野望を持っています。

 魔王様が北ウルスラ王位継承の動きを見せれば、彼らからは統一の競争相手と見られるでしょう。

 彼らにとっては面子の問題なので、武力では解決しないと思われます。

 いっそ魔王様から出向かれて、伝説の後継にふさわしいのは誰かを西ウルスラの民に教えてあげるのがいいかもしれません。あたしの自慢の魔王様に西ウルスラの王がかないっこないですから。

 

 南ウルスラに関しては孤立主義を進めるようです。魔法の普及を嫌う保守的な国柄で、近年の発達した魔法技術も拒絶していて半ば鎖国に近い状況です。ヴァール様が北ウルスラも治めるようになれば国交断絶に及ぶ可能性は高いと見ています。

 魔法抜きではやはり魔物を抑えきれなくて民への被害が出ているため、対魔物をもってするアトポシス聖騎士団だけは受け入れるようです。そちらのルートを太くしていくことが重要です。

 上手く運べば相互不可侵条約にまで持っていけるのではないでしょうか。

 より多くの騎士派遣を枢機卿やハインツさんに相談したいと考えています。ヴァール様のご意見をお聞かせくださいね。


 問題は、レイライン王がこうした状況を分かった上で始末をヴァール様に押し付けようとしていることですね。王国の再統一を一番狙っているのって実はレイライン王ではないでしょうか。ヴァール様が養女になったのをこれ幸いと利用しつくすつもりですよ。


 伸るか反るかのばくちですが、あたしとしては伸ったほうが良い結果になると計算しました。いずれにせよヴァリアの影響力は増していって、このままの諸国とのバランスは維持できなくなります。だったらバランスをとる立場に着いてしまったほうが無駄な苦労をせずに済むのではないでしょうか。


 ああ、窓の外にリヴィールさんが来ているじゃないですか。直接話をするのでは手紙が台無しなのに。分かりました、今から窓を開けますから、そんなに寂しそうな顔をしないでください。

 せっかくだから手紙をまず読んでくださいね。あたしの愛しの魔王様。


あなたのエイダより

かしこ






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後書き


 私が書いてきた中では最長の物語も遂に完結となりました。


 なにせ魔王様ですからだいたい魔法でなんでもできてしまいます。それでもピンチにするためには相手を徹底的に強くせねばならなくて、どうやって魔王様はこれをクリアしていくのだろうと頭をひねる毎日でした。


 国を成り立たせていくために多くのキャラを動かしていくのは良い勉強になりました。それぞれのキャラが背負ってきたものに一通り決着をつけられたことには満足しています。

 ただ一人不幸な最期を遂げたキャラを除けば、皆が幸せになったのではないでしょうか。


 特に知らなくてもいい裏話として、この話は私が別に書いた話の後日談になっています。とはいっても千年単位で遥かに時代が離れていますから世界の様相はすっかり変わっていますし、直接の関連はありません。同じ星での歴史の一ページとして、本作では高度に進化した技術が魔法そのものになった未来を描いています。

 エイダは前作に出てきた天才的クグツ作成者の遠い子孫です。ジュラもまた別のキャラの子孫でした。


 私にとってはヴァールたちは娘のようなものです。

 娘たちとここまでお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。時に思い出していただければ幸いです。


 次回作では同じ世界を舞台に全く異なる話を考えています。よろしければお付き合いくださいませ。

 それでは、また!

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