赤い本

七星 ナツキ

赤い本

 ──これは、日本人の二人に一人は降り掛かるであろう災いの話。




 いつから語り継がれているのか分からないが、ある『呪われた本』の噂があった。

その『呪われた本』は戦後しばらくの後、編集、発行されたらしい。

その本はある決まった時期に売り出され、ある決まった年齢の青年ばかりが本を手に入れ、呪いに囚われてしまうという。


 その呪われし奇怪な本を手にした者は、何かに取り憑かれたように狂乱に陥ってしまう。

その様はまさに『呪いの本の中毒者』らしい。

ある者は今まで趣味だった事を全て止めてしまい、またある者は寝不足になり目の下に大きな隈をつくりながらも、また別の者は体調不良になりながらも、呪いの本に夢中になったという。

それだけならば、まだ良いほうだろう。

ついには発狂し、事件を引き起こしてしまう者も出てきたという。


 その様な数々の青年たちの怨念などにより、呪いの本は赤い血の色に染まっていったのだ。

奇しくもその年は東京オリンピックが開催された年らしく、オリンピックの晴れやかさから、呪いの暗鬱と絶望への激しい落差が血の色に染まったことと関係していたという噂も存在する。


 その後呪いの本を手にし、呪縛にかかってしまう青年が続出していった。

今ではもう二人に一人はその本を手にし、誰もが目にするものとなっている。

そのためか、赤い血の色は昔よりも濃くなっているらしい。

その呪われた赤い本は人々に恐れられ、こう呼ばれるようになった。


          ──────『アカホン』と……

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赤い本 七星 ナツキ @Natsuki_Nanahoshi

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