第二話 廊下
美術室を出てすぐ隣は、八角形をちょうど半分にした形の展望室になっていて、縦長の大きなガラス窓が一片ずつ
一階の廊下にはもうほとんど人はおらず、外からかすかに聞こえてくる部活に励む生徒達の歓声や、時折鳴り響くホイッスルの音が、
それがいつ、どんなきっかけで訪れるかは分からなかった。寂しさや虚しさに近いが、悲壮感はなく、かといって幸福や充足とも異なる、浮遊感にも似たこの感覚を特別なものとして大切にしていた。しかし、これが長く続くと、胸の内側に真っ黒くて、砂粒程に小さい球のようなものを感じはじめ、それがどんどんと質量だけを増して重くなり、胸の内側に開いた重力の
自販機は購買部の一角にぽつんと設置されていた。缶やペットボトルではなく、紙コップ式で、氷の有無、カップのサイズなどを好みに応じて指定できるボタンがいつくも並んていた。
両手がふさがっていた
「こぼしたでしょ」
「ごめん。でもちょっとだけだから」
汗で少し湿った頬に横髪を張りつかせたまま、リズミカルに、静脈の透ける真っ直ぐな喉元を上下させる
「ごちそうさま」
「来週から夏休みだね。どっか行きたいとこない?」
「ちょっと遠いけど、香香神社ってとこで夜に篝火を焚きながらやる能舞台があるらしくて、ちょっとそれ観に行ってみたいんだよね。
「お能? なんでまたお能なの? 守、そんな趣味あったっけ?」
守の見当外れな答えに、葉子は少し不満そうに眉をひそめてみせた。
「最近、能がテーマになったロボット系の古いアニメを観てさ。 それが面白くて、本物もちょっと観てみたいなって」
「何それ。 守、ほんと影響されやすいよね」
葉子は眉間の皺を緩めて、呆れたように小さく笑った。
花と鏡 アイヴィさん @ivymaven
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