第90話 危険な化学反応

 アシスタントロボが充電状態に入ったのを見届け、瑛斗えいとたちは食卓を離れた。

 聞くところによると、電池が好きなこのロボには、充電池が内蔵されていて、壁際にある充電スポットに乗れば数時間で満タンに回復するらしい。

 充電池も白銀しろかね家の特製らしく、満タンから空っぽまでを6000回繰り返してもまだ使えることが確認されているんだとか。

 普通の充電池なら可能な限り多く見積っても4000回、これだけのロボを動かせる大きさならせいぜい数百回が限界だろう。

 これだけの技術力を持っているとは、さすがはこの国のトップレベルの事業規模を誇るグループのトップだ。

 瑛斗はそんなことを思いつつ、窓の近くにあるソファーに寝転んだ。

 食べてすぐに寝ると豚だか牛だかになるとはよく言うが、それでも膨れた腹を抱えながらグータラする快感には抗えない。

 せっかく海の近くの別荘に遊びに来たのだから、もちろん夏休みらしさを満喫したいという気持ちはある。

 しかし、満腹で体を動かすのは色々と危険だ。自然というのは時に牙を剥くから。

 消化活動が落ち着くまでは家の中でゴロゴロして、それから外の風に辺りに行くのでもきっと遅くはない。

 彼の意見としてはそれで固まっていたのだが、どうやら他の三人は違ったようだ。


「さあ、夏を満喫しに行くわよ!」

「いざゆかん、です!」

「私もお供致します」


 閉じかけていた目を開いて上半身を起こすと、バッチリ水着に着替えた三人がこちらへ向けて決めポーズらしきものを取っていた。

 中央の紅葉くれはは、腰に両手を当てながら胸を張っている。身に纏っているのは、少しフリルがついた可愛らしい赤の水着。

 普段はツインテールの髪も、今は後ろで一つにまとめている。なんだか少し大人っぽく見えるのは気のせいだろうか。


「……何か言いなさいよ」

「いや、似合ってる。うん、すごく似合ってる」

「っ……あ、当たり前じゃない」


 口ではそう言っているが、口元に滲み出ている嬉しさが彼女の本心を教えてくれる。

 そんな紅葉の隣にいる麗子れいこはと言うと、イメージ通り清楚な白い水着だ。

 しかし、こちらは紅葉の可愛らしいものとは違って、がっつりオトナなビキニタイプ。

 彼女のスタイルの良さが前面に出ていて、少し目のやりどころに困りそうである。


「どうでしょう、瑛斗さん」

「綺麗だね」

「えへへ、ありがとうございます♪」


 麗子が嬉しそうに小さく跳ねる度に揺れる部分からそっと目を背けると、そんな彼女を見つめていたもう一人の女性と目が合った。

 102トウフさんは相変わらずメイドとしての意識が高いようで、メイド服モチーフな白黒の水着を身につけている。

 なんだかコスプレ感があるが、さすがの整った容姿がそれすら彼女の色に染めていた。


「私も一応聞いておきましょうか」

「良いと思います。なんというか、良いです」

「褒め言葉なのでしょうか」

「うわ、瑛斗がいやらしい目で見てるわ」

「もしかしめ、瑛斗さんはこういう水着の方が好みだったのですか?」

「別にそういうわけじゃないけど……」


 二人の水着だってすごく魅力的だし、綺麗で可愛いと自信を持って断言出来る。

 けれど、今の102トウフさんの姿は、男の子なら誰だって視線を吸い寄せられてしまうだろう。

 言葉では言い表し難い魅力があるのだ。メイド服……もとい、コスプレチックな格好には。


「お嬢様、水着を交換致しましょうか?」

「いいアイデアですね! それなら瑛斗さんの視線を独り占め出来るかもしれません」

「ずるいわ! 私だって……独り占めしたいのに」

「残念ながら、東條とうじょうさんではサイズが合わないでしょうから」

「なっ?! そ、そうかもしれないけど……」

「こんなこともあろうかと、紅葉様サイズのものも用意してあります」

「と、102トウフさん……!」


 三人でお揃いの水着を着よう。そんな雰囲気になりつつある彼女たちを、瑛斗が「まあまあ、落ち着いて」と止めたことは言うまでもない。

 メイド服だけで破壊力があると言うのに、友人がメイド服を着ている状況になったら、効果抜群どころか急所に当たる。

 二人いるから即死攻撃もいいところだ。決して良からぬ目で見ている訳では無い。訳では無くとも、思うところがあるのは否定できないから。


「今のままが一番だと思うなぁ」


 そんな言葉で何とか阻止することに成功したが、少しばかり悔やまれる気もする瑛斗であった。

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学園認定S級の美少女たちは僕を落とすゲームをしているらしい プル・メープル @PURUMEPURU

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