2ページ目 ドワーフとエルフの夫婦
「キョウ、ちょいと仕入れに行くから店番頼むよ。」
「わかりました、ヴァネッサさん。」
いつものオーバーオール姿に店の名前が入ったエプロン姿のヴァネッサさんが店から出て行きました。
「さてと、掃除でもしようかな。」
「キョウ、ヴァネッサはどこだ。」
掃除を始めようとすると、店に併設されている工房から身長は150センチ程ですが肩幅は広くガッチリとした筋骨隆々の男性が出てきました。
この人はジンテツさん、ヴァネッサさんの夫で店で扱っている武器、防具、装飾品の製作をされている方です。
「ヴァネッサさんなら仕入れに行きましたよ。」
「そうか、注文されてる魔法剣、後は魔法を仕込むだけだから頼もうと思ったんだがな。工房に戻るからヴァネッサが帰ってきたら工房に来るよう言ってくれ。」
「分かりました。」
基本的にドルーフ商店で扱っている商品の殆どはヴァネッサさんとジンテツさんが作っています。
ヴァネッサさんはエルフで、種族的特徴は長命、容姿端麗、魔法への高い適正が挙げられ、主な居住地域が森のため、狩りや薬草を使った薬学に精通した方が多いと言われています。
ジンテツさんはドワーフ。種族的特徴は筋肉が付きやすいが低身長、酒に強く、手先が器用で金属の扱いに長けている方が多く、ドワーフが作ったと武具というだけでブランド扱いされるほどです。
この世界では異種族同士の結婚は珍しく無く、種族が違うことを理由に結婚を反対されることはあまりないそうですが、この二人はなかなかの大恋愛だったそうです。
二人はそれぞれ、ヴァネッサさんは魔法の、ジンテツさんは鍛冶の修行のためにハジュムに来たそうです。そこで偶然出会った二人は恋愛関係となり、結婚の約束を交わしたのです。
そんなある日、ヴァネッサさんは故郷から届いた手紙に書かれていた内容に泣き崩れたそうです。手紙には父親が勝手に結婚相手を決めて、式の段取りは終わっているので直ぐに帰ってくるようにと書かれていたのです。
エルフの世界では両親に逆らうことは許され無いことらしく、仕方なくヴァネッサさんは故郷に帰りました。
ですが、そんな理由で結婚相手を奪われたジンテツさんも黙っていませんでした。ヴァネッサさんの故郷にある結婚式場に自分で作った鎧を着て剣を携えて殴り込んだのです。
ただ、ここから先の話がヴァネッサさんとジンテツさんの間で食い違っています。
ヴァネッサさんの証言
「あん時のうちの旦那のカッコ良さったらもう、御伽話に出てくる白馬の騎士様みたいだったよ。ヴァネッサは私と結婚の約束していたんだ!こんな本人が望ま無い式など取りやめろ!って言ったのにはもう一度惚れ直しちまったよ。その啖呵に親も結婚相手も負けて、式は取りやめになって私らの結婚も許されたのさ。」
ジンテツさんの証言
「式場に乗り込んだまでは良かったんだがあっさり警備に捕まってしまってな。事情を知ったヴァネッサの父親がブチ切れてアイツにやれ男を見る目がないだの子供は親の言う事を聞いておけばいいだの言い出した。それが引き金になって今までヴァネッサの中で溜まってたもんが火山の噴火の如く噴き出してな、父親をぶん殴ったんだ。それを見た結婚相手はビビっちまって結婚を無かったことにして、父親はヴァネッサを勘当して二度と帰ってくるなと自分で呼び戻しておいて家から追い出した。まあそのおかげで俺たちは結婚できたんだが。」
どちらが正しいかと問われると、多分ジンテツさんの方が正しいと思います。そんなこんなでハジュムの街に戻ってきて結婚した二人は、このドルーフ商店を開いたそうです。
ちなみに名前の由来はドワーフとエルフの店だから種族名を合わせてドルーフなんだそうです。
「おーい、帰ったよ。キョウ、表に荷馬車で運んでもらった荷物があるから倉庫に運ぶの手伝って。アンター、工房にいるんだろ、手伝いな!」
工房から面倒そうにジンテツさんが出てきました。
「全く、昔は箱入りのお嬢様で言葉遣いもあんなじゃなかったのに、親父さんを殴ったあたりからこうなっちまったんだよなあ。」
「なんか言ったかい。」
「何も言っとらんよ。さて、運ぶかな。」
そう言いながらかなりの重量のある木箱を軽々と倉庫へ運んでいきました。その背中には結婚生活の苦労が偲ばれる哀愁が漂っていました。
異世界に迷い込んだ小説家志望のネタ帳 武海 進 @shin_takeumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界に迷い込んだ小説家志望のネタ帳の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます