第3話 傘を持たない男


「もう帰ったのかな……」


 急いで後を追ったものの、米澤先輩の姿が見えない。この速さで会えなかったということは、まだ校内にいるはずだと思い辺りを捜索しても、彼はどこにもいなかった。帰ってしまったとしか考えられない。


「はぁ……」

「どうしたんだい、ため息なんか吐いて」


 校門の前で大きなため息を漏らしたその時だった。見知らぬ男子生徒が私に話しかけてきたのだ。


「えっと、一緒に帰る予定だった人が、先に帰っちゃったみたいで……」

「へー。実は僕も同じ状況でね。連絡もくれないし、どうしようか悩んでいたところなんだ」


 そう言って爽やかな笑顔を向けてくる。好青年といった印象だ。襟元を見るとⅠのマーク。同級生らしい。


「まさか同じ境遇の人に会うなんて思わなかったよ。そうだった、僕は4組の緒川って言うんだ。よろしくね」

「私は1組の柊木って言います」

「それじゃあ柊さん、出会ってすぐにこういうのもおかしいけど、良かったら一緒に帰らない?」

「いいよ」


 彼の誘い方に悪意は感じられなかった。だから誘いに乗った。少し喋っただけでも彼の人と生りが感じられたからだろう。


「それは嬉しいね。ところで、誘ってから言うのも変だけど、家はどっち方面かな?」

「駅の方向よ」

「ああ良かった。僕もそっちなんだ」

「そうなんだ」

「それじゃあ、帰ろうか。雨も降ってくるし」

「え、雨降るの?そんな感じには思えないけど」

「僕にはわかるんだよ。この学園の生徒だからね」

「……もしかして、天気を操る才能なの?」

「そんなとこ。さぁ、行こう。雨が降ってきたら困る」


 そう言って彼は笑顔を向ける。


「僕は傘を持たないんだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天才たちが集う学園で、私の能力は平凡です 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ