第2話 生徒会長からのお呼び出し。デートですか?


「生徒会室に呼びつけるんなんて、珍しいですね」


 米澤が帰ろうとした矢先に、メールで『生徒会室に来て』との連絡を受けた。差出人は生徒会長。どうして彼女が米澤の連絡先を知っているのか、という疑問が浮かぶ訳だが、流出原因に思い当たる節はある。だから問い質そうという気にはならなかった。


「デートの誘いですか?」

「そんなわけないだろう」


 生徒会長はノートパソコンのキーボードをカタカタと鳴らして、視線を合わせず、ぶっきら棒に答えた。


「おひとりですか?」

「見ての通りよ。あなたが愛しの副会長も帰ったわ」

「それはとても残念です。一緒に帰ろうって言われたのになー」

「私が断わりを入れておいたから安心しなさい」

「それでもオレが怒られるの、分かって言ってますよね」

「ま、そうね。どんな事情であれ、米澤は怒られる。……でも、怒られるのはご褒美かしら?」

「美人に怒られりゃ、男にとっちゃご褒美ですよ」

「男ってのは、変態ね」


 そこで生徒会長はタイピングを止めると、パソコンを閉じて席から立ちあがった。


「もしかして、オレに怒ってくれるんですか?」

「私に怒られる要件があれば、とっくに怒ってるわよ」

「遠回しにあなたは美人ですって言ったんだけどなぁー」

「ふざけたこと言ってないで、とりあえず付いて来なさい」

「わかりましたよ、生徒会長さん」


 生徒会室を出ると、部屋の鍵も閉めずにスタスタと早足で廊下を進んでいく。


「トイレでも行きたいような速さですね」

「ぶっ飛ばすわよ!」

「ご勘弁下さい。ってことは、誰かと会う約束ですか。待ち合わせの時間に遅れそうなんですね」

「そうよ。分かってるなら、最初からそう言いなさいよ」

「そう言えないのがオレの悪い癖でしてね」

「面倒な男ね。あの子に嫌われるわよ」

「あり得ませんよ。嫌われるはずないです」


 米澤は、間を開けず自信満々にそう答えた。


「相当な自信ね。勿論、理由はあるのよね?」

「たぶん、オレなんかより、あいつの方がオレのこと好きなんすよ」


 どうせ「特にありません」とか、テキトーな答えだろうと思い、冗談交じりの質問だった。当の米澤は、真剣な眼差しで答えるものだから、質問したこ生徒会長が恥ずかしくなっていしまった。


「…………あっそ」

「ちょっと、なんで会長が照れてんすか!?」

「照れてないし!」


 そんな会話をしていると、目的地にたどり着いた。


「そういえば、ここって何の部屋なんですか?」


 普段、生徒たちが教室で勉強する学部棟の1階。職員室を通り過ぎた突き当り。そこには、生徒が立ち入れない鍵の掛かった部屋が存在する。扉に倉庫と掲示されてはいるものの、教員が出入りしたという目撃情報は存在しない。教員に尋ねても何の部屋かわからず、扉の鍵もどこにあるのか分からないらしい。ただの空き部屋ではないかという見解もある謎の部屋だ。


「ここは学園長と生徒会長、それと今から会ってもらう三人目だけが入室の許された、特別な部屋」

「なんだそりゃ。オレにそんなこと言っていいんすか?」

「学園長に許可は取ってあるわよ。あなたの力が必要だから、特別な許可が下りたのよ」

「それは光栄ですね。伯爵位でも貰った気分ですよ」

「この部屋の秘密を漏らしたら、退学だけじゃ済まないから気を付けてね」

「怖いなー」


 会長は何処からか取り出した金色の鍵を鍵穴に差して回し込んだ。すると、カチャリと鍵の外れる音がして扉が開いた。


 部屋の中は四畳半ほどの小さな空間だった。窓が付いていないので、扉が閉まれば真っ暗だ。何も置いておらず、部屋の照明すら存在しない不思議な空間だ


「何も無いですけど……」

「とりあえず奥に進みなさい」

「わかりました」


 言われた通りに奥へ進むと、突然ガシャンという物騒な音がして、部屋が真っ暗になってしまった。


 呆気に取られていると、今度は部屋が揺れたと思うと、ゆっくりと下に落ちていくような感覚に襲われる。


「まさか、この部屋はエレベーターなのか!?」

「正解。地下にある【地下図書館】に繋がっているの」

「なるほど。【地下図書館】こそ、【リスト】の全貌というわけですね」

「そういうことよ」


 暗くて顔は見えないが、満面の笑みで答えているに違いない。


 何となくだが、生徒会長に呼び出された理由が分かってきた。確実に言えることは、かなりの面倒事に巻き込まれるということだ。


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