5メートルあった

緋那真意

表題はまだない

 僕はドアを叩いた。


 ドンドンドンドン


 誰の返事もなかった。


 もう一度叩く。


 ドンドンドンドン


 やはり返事は返ってこない。


 僕は首を傾げつつドアノブを回して押した。

 ドアは何の抵抗もなくするりと開いた。


 僕は静かに中に入り靴を脱ぐと家の中に上がった。


 廊下は、しん、と静まり返っていた。


 僕はそろりそろりと静かに廊下を歩く。

 誰にも気付かれることなく、また誰にも気付かれないように。


 1m、2m……ゆっくりと目的の場所に近付いていく。


 きっちり5m歩いたところで目的の部屋にたどり着く。


 そこでは一人の男がパソコンの前で居眠りをしていた。


 僕は、その男にゆっくりと近付いて……。



 そこで男のかたわらにあった電話が勢い良く鳴り響いた!




 ーーーーーーーーーーーーーーー


 傍らにあった電話が鳴った音で、男は目を覚ました。

 時計を見ると朝の五時半。

 物語を書いている途中で、力尽きて眠ってしまったらしい。

 電話に出ると、後輩のYからだった。


「うぃ~す。こんな朝早くから何だよ? ……え、今日親戚に不幸があってバイトを休まなくちゃならなくなったから代わってほしい? そりゃ急だなぁ……しゃあない、変わってやるよ……え、気にすんな、身内の不幸なんぞ自分じゃ防げねえだろ……俺か? 夜中じゅう小説を書いていたんだけどよ……」


 男は電話で話を続けている。


 男の前にあるパソコンにはこんな文章が書きかけの状態で残されていた。


『僕はドアを叩いた……』

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5メートルあった 緋那真意 @firry

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