オッス!オラ、世界三大奇病のひとつにかかっちまったぞ!

ちびまるフォイ

声のクセがすごいんじゃ!

「オッス、オラ朝起きたらとんでもねぇことになってたんだ」


「なるほど」


「オラ普段こんなしゃべり方じゃねぇんだけど

 なぜかこんな風にしかしゃべれなくなって

 オラわくわくすっぞ」


「やはり……野沢雅子症ですね」


「オラわっかんねぇぞ。聞いたこともねぇ」


「世界三大奇病のひとつです。

 今だに治療法は確立されていなくて……」


「オラおっでれぇたぞ! 困っちまったなぁ。

 明日、でぇじなプレゼンがあるんだ!」


「あくまでも話し方のなまりがキツくなるだけで

 話せなくなるわけじゃないですよっ」


「そっかぁ。それなら安心だ」


翌日、スーツでキメた俺は

かねてから準備していた資料を片手に

渋い顔をした重役が取り囲む会議へと参陣した。


「オッス、オラ部長!

 そんじゃ、オラから新商品のてぇあんをすっぞ」


椅子に背を預けていた上司達は一斉に前のめりになった。


「この商品はすっげぇんだ。スめぇとホンとれんでぇさせっと、

 パワーが一気にあがっちまうんだ。10べぇくらいになっぞ。

 そのぶん、ちぃっとばかしべってりぃの消費が高けぇけどよ

 それだけの価値はあっと思うんだ!」


口からこぼれる言葉が聞き馴染みのないなまりで出てくる。

聞いている上司たちも「え?」という顔をしている。


「え、えっと、つまり、ワクワクするような商品なんだぞ!」


「あ、もういいよ。君は退室したまえ。

 君の口調に気を取られてぜんぜん内容が入ってこない」


「待ってくれ! まだオラ伝えてぇこと言えてねぇ!

 みんなの時間をオラにわけてくれ!!」


「いや残りは資料を見るから君は帰っていい」


その後すぐに俺の新商品案はダメになった。


時間をかけてこしらえたプレゼン資料。

これが商品化されればどれだけの人が救えるのか。


思い描いていた自分の理想が崩れ去っていった。



「……なんか、顔色悪くない?」


「そ、そんなことねぇぞ! オラひさしぶりのでぇと、楽しみだ!」


「ちょっと、その話し方どうしたの?」


「ち、ちげぇんだ! これは野沢雅子症つって

 オラの話し方がちぃっとなまりキツなんだ」


「ふざけないで! 普通にしゃべってよ!」


「怒らねぇでくれっ! 本当なんだ!」


「落ち込んでいるから真面目に心配したのに。

 あなたは私をからかうことしか考えられないの!?」


「本当なんだ! 信じてくれ!」


「そんな不誠実な人だと思わなかった!」


女性に頬をひっぱたかれたのは初めてだった。

公園のベンチから転げ落ちて空を見上げる。


「オラ……もうだめかもしんねぇ……」


プレゼンの歴史的失敗で仕事も終われ、

彼女からもフラれてしまい踏んだり蹴ったり。


話し方ひとつちがうだけで、

こんなにもあっさりと環境が変わると思わなかった。


「あの、大丈夫ですか」


「ああ、オラはでぇじょぶだ。おめぇは?」


「失礼なんですけど、実は先ほどの会話を聞かせてもらいました」


「そりゃあ、かっこ悪いとこ見せちまったなぁ」


「いえそれよりもあなたの病気です。

 もしかして、世界三大奇病のひとつ

 野沢雅子症にかかってるんじゃないですか?」


「おっでれぇた! おめぇ、知ってんのか!?」


「はい。実はわたしは前に三大奇病のもうひとつ。

 矢島晶子症というのにかかっていたんだゾ」


「まだ片鱗を感じっぞ。ワクワクするな」


「この症状にはワクチンとして別の症状をぶつけると相殺されて消えるんです」


「ありがとな! オラちぃっと調べてみる!」


親切な緑色の人に教えてもらったことを調べてみる。

治療法としての方法は見つかったものの、

どういった症状がワクチンとして相殺してくれるかはわからない。


「めぇったなぁ。野沢雅子症を相殺してくれる症状がわからねぇぞ」


調べていくうちにひとつの病院へとぶち当たった。

そこでは三大奇病を研究している第一線の場所だった。


「オッス、オラそういうわけでここに来たんだぞ!」


「その話し方、野沢雅子症のようですね」


「じっちゃん。なんとか治す方法を知ってっか?」


「未認可ですがうちでは"堀川療法"があります。

 臨床試験はまだ十分ではないため、どんな副作用があるか……」


「かまわねぇ! オラどんな修行でも耐えるぞ!

 それにこんな珍しい症状はオラくらいだろ。

 オラがやらなきゃ誰がやる!」


「わかりました。ではこちらの部屋へ」


別室に移動しベッドに寝る。

両腕と両足をベルトで動けないようにしばられると

これから始まる地獄を予感させるようで緊張した。


「これから注射しますが、強い拒絶反応が起きます。

 それを理解してください」


「オラびくびくすっぞ……」


注射の針が皮膚を貫く感覚の直後、

ドーーンという衝撃とともに激痛が体を走った。


「うぎゃあ~~~~~っ!!」


「吐き出してください! 自分のなまりを吐き出すんです!」


「ぐおおおお~~~~~っ!!」


ベルトで固定されているはずの腕が痛みでガチャガチャともがく。

何時間、何日も苦痛は続いたように感じた。


やがて潮が引くように痛みが和らいでいく。


「あれ……」


「気が付きましたか。あまりの痛みに気絶していたようです」


「そ、そうですか……野沢雅子症は治ったんでしょうか」


「では私に続いて返答してください。オッス」


「オッス。……これがなんですか?」


「治っています!! おめでとうございます!!

 オッスと言われたあとにオラと続いていない!

 あなたは野沢雅子症を克服したんです!」


「ありがとうございます! いや、本当に良かった!

 副作用があるかと心配していましたが、それもなさそうだ!」


俺は医者に握手をした。

あまりの嬉しさについ笑顔がこぼれる。


「フフフフフフ~~~♪」


それを聞いた医者は一瞬で顔が青くなった。


「ま、まさか……」


「どうかしたのぉ? お医者くん」


「そんな……副作用が……まさか……三大奇病になるなんて……」


「いったいどおしたのぉ?」


「この症状になると、名詞を読むときに声をのばしたくなり

 笑い方が独特となって、一人称がぼくになるんです」


医者はすぐに再度診療してカルテを俺につきつけた。

そこには紛れもなく三大奇病の最後のひとつが記載されていた。


「そんなばかな……きみの勘違いじゃない?」


「そう思うのなら、あなた自身で自分の症状を読み上げてみてください」


俺はカルテの症状名を読み上げた。



「お~お~や~ま~の~ぶ~よ症が出たあ~~!」

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