10.

『ほぇ!?』アルマカンの声がすっぽ抜けた。『お主、ガイアに思考があると!?』

「何を今さら」中村は涼しい顔で、「人間の〈第二の脳〉、つまり体内生態系だって思考や感情に大きく影響しているんです。ガイアに影響しないって方が不自然でしょう?」

『とは言えそなた、』アルマカンはなだめるように、『ガイアのほとんどは無機物であろう?』

「人間だってほとんど無機物ですよ」中村は笑って、「水分なんてその代表格じゃないですか」

『だからと言って、』アルマカンの表情は渋い。『ガイアに生命や思考がある証拠にはなるまい?』

「それだけ取ってみれば、」中村は鷹揚に頷いて、「確かに証拠にはなりませんね」

『ということは、』アルマカンがジト眼を向ける。『何ぞ別に証拠があるということかの?』

「そうです」中村は大きく頷いて、「さっき申し上げたフラクタル、生命の基本パターンとして使えるってお話ししましたよね?」

『う、うむ、』アルマカンは警戒半分、『それがどう発展するのじゃ?』

「このフラクタル、」中村はそこでアルマカンの眼を覗き込み、「無機物にも当てはまるじゃないですか」


『あ――!!』アルマカンが声を上げた。『もしかして!?』

「その〈もしかして〉ですよ」中村はアルマカンへ笑みかけつつ、「海岸線や岩肌、雪を始めとした結晶パターンなどなど、フラクタルは有機物の専売特許じゃないんです」

『ちょっ、あの、ええぇ!?』アルマカンは表情を忙しく入れ替え、『つまり、それは……!?』

「ね、」中村は小首を傾げて、「揃ってますでしょ、証拠?」

『そなた、もしかして……』アルマカンは小刻みに呼吸を挟みながら、『……無機物が……その……』

「生きてるんですよ」あっさり中村。「フラクタルみたいなパターンがですよ、生物でもないものに自然発生するって、そっちの方がむしろ奇妙じゃありません?」


『呼吸もしないのに?!』

「生物だって、」中村はさも当然とばかり、「原子単位じゃ呼吸してませんよ?」


『成長は!?』

「条件さえ揃えば、」中村は小首を傾げて、「〈成長〉しますよね、結晶」


『繁殖は!?』

「この銀河系に」両腕を広げて中村。「惑星や恒星がどれほど存在しているか、ご存知でしょう?」


『そもそも、生命とは……?』アルマカンの問いが勢いを失う。

「そもそもフラクタルって、」中村は指で大小の輪を描いて、「〈大宇宙〉の中に無数の〈小宇宙〉が存在する構造じゃないですか」

『う、うむ……』頷くアルマカン。

「フラクタルがあまねく存在して、ヒトの抱える生態系ような〈小宇宙〉が確かに存在するなら、」中村は大きく輪を描き、「〈大宇宙〉だって存在するわけです。つまり〈宇宙生態系〉、もっと申し上げるなら〈宇宙生命〉が――ね」


『ああぁ……』アルマカンの口が塞がらない。

「神様だってそうでしょう?」ふと中村。

『は?!』不意を衝かれてアルマカン。

「コンテストというからには、他にも神様がいらっしゃるはずです」再び中村は輪を描き、「神様には神様の〈多様性〉がありますし、そこにはフラクタルか、それに代わる〈多様性原理〉があるでしょうね」

『ということは何かの?』アルマカンは頭を抱えて、『ワシも宇宙の一部に過ぎんのかえ?』

「と、つまり、」中村は胸をひとつ張って、「宇宙は丸ごと生命体――という、これが私の考察です。ですから高等生物云々は心配ご無用というわけで」


『はぇ~』アルマカンは狐にでも摘ままれたような顔で、『そなた、本当に何者じゃ?』

「非商業作家ですよ、考察好きの」中村が笑む。「というわけで、今回は宇宙と生命の神秘に関する考察でした。さて現実の世界はいかに出ますやらお楽しみ」

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