共有脳によって均質化された社会と、そこから逸脱した者たち

 インプラントされた共有脳によって、体験や知識のすべてを他者と共有し、あるいは自在に技能をインストールできるようになった社会。犯罪は治療可能な病気となり、警察や裁判所はその役割を終え、保健省という組織に統合された。その反面、トロルウィルスと呼ばれる悪意を感染させる体験コンテンツが存在し、次々と犠牲者を感染させていくウイルスに対抗するためのトロル対策局なる組織が必要とされていた。
 主人公バクバは、共有脳を持たない「脳無し」の免疫屋。その彼が、エリート防疫官アルナナと組み、とある悪意感染事件を追うという筋書きです。さほど長くない作品ですが、その中で共有脳という素晴らしい技術と、それに伴って噴出した社会と人の歪みというものが見事に描き出されています。
 共有脳を持つ者と持たない者。あるいは、共有社会の成功者と敗北者。人の心までをも編集してしまう超技術を手に入れても、人間らしい愚かしさ、素晴らしさが変らず残っている。未来社会の一面をスパッと切り取る技が見事でした。

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