とても良質なドラマを読ませていただきました。
真っ先に浮ぶのはそんな感想でしょうか。
主人公はもともと天涯孤独の上に、突然職を失ってしまった『陽人(はると)』君。
偶然に彼と出会い、一宿一飯の恩義をかけたのがぶっきらぼうな感じの大工『滝川』さん。
といっても滝川さんもかなり若く、二人は兄弟みたいな感じでしょうか。
この滝川さん、口数も少なく、ちょっととっつきにくいところもあるけれど、きちんと人のことを見て、人の心を思いやれる優しい人。
そんな滝川さんとの生活の中で、陽人君にもようやく心に余裕が生まれ、平穏な日々が訪れます。
序盤のこの二人の心の交流がなんとも穏やかでいいエピソードが連なります。
そして中盤から滝川さんに関わるキャラクター達が次々に登場し、二人の世界をさらに彩っていきます。
同時に滝川さんにまつわる悲しい過去が明らかにされていきます。
助けたはずの陽人君がまたいい人なんです。
つらい過去にも関わらず真面目で、人の気持ちをちゃんと考えられる優しい青年です。
滝川さんは助けたはずの陽人君にやがて助けられていきます。
タイトルにも書いた傷ついた魂の再生。
これがこの物語の大事なテーマだと思うのですが、その表現やエピソードが見事でした。
さらに滝川さんが大工の腕前でいろんな古いモノ、壊れたものを直していくのですが、それがこのテーマと重なり合い、深みのあるストーリーになっているところも素晴らしい。
描かれていくのは淡々とした日常の光景。
それでもそんな光景がだんだんと太陽に照らされて輝いてゆく。
止まっていた時が流れ出し、音や光景がはっきりと照らし出されてゆく。
読みながらそんな感覚が心に浮かびました。
文章も読みやすく、多彩なキャラクターがとにかく魅力的です。
とにかく心が温まるような素晴らしい作品です。
是非読んでみて下さい!
働いていた場所が倒産し、寮を追い出されてしまった主人公、牧瀬陽人。
路頭に迷った彼が倒れ込んでいると、降ってくる一つの声が。
目を開け、飛び込んできたのは、鍛え上げられた筋肉と、鋭い目つき。
え、ヤクザかな。俺死ぬかも、などと頭の中で失礼なことを並べていたのだが、話してみると……
男性との出会いが陽人の人生を変えていく。
彼の手を取り、歩き出した先に広がる景色は、どんな色をしているだろう。
読んでいると、胸の中にポカポカした感情が流れ込みます。作者様が丁寧に物語を綴り、登場人物たちが心を通わせながら歩いているからでしょう。
大人になるにつれて、どこかに置き忘れてしまった何かを、そっと差し出してくれる。そんな優しく温かい物語です。
ぜひ、みなさんもご一読を。