大神官、救われる 後編

「なにを発動させたのかと思えば…やり直しです、基礎がなってませんよ」

な…!?

術式が完全に破壊されていた。

言葉を発そうとした場合、口に出す前の心の中で何を言おうか考えるのを邪魔出来ないのと同様に本来術式を破壊するなんてのは不可能なはずだが………

流石は『絶界』。

常識が通じない。

だてにブラックキギョウの重役を務めているわけでもなさそうだ。


「と、言う訳で大人しく神殿に帰りましょう

向こうでお話は聞きますよ」

音もなくカルナが俺の真横に移動してくる。

「れ、レベルが違うよ…これが『絶界』…」

完全に意気消沈したレベルの店員(?)。

…出来ればお婆さんの姿を辞めて欲しい。

正直、何の策もない状態で出会って…、いや、何かしらの準備があったとしても勝てる見込みは0に近いだろう。

しかし今だけはそうではない。


「あぁ、カルナ…俺の勝ちだ」

カルナが俺の肩に触れた瞬間、限界まで抑えていた俺の両手の光がカルナを照らす。

「こ、これは転職の儀!?大神官様なんとおつもりで!?」

柄にもなく慌てるカルナ。

実際転職の儀については大神官である俺以外の神官は誰も詳しく知らない。

だからこそ、この1回のみ通じる技。


「私を転職させるおつもりで…ッ」

なんとか魔力を込めて抵抗している様子だがこればっかりは『絶界』でもなんとかならないようだ。

「主に代わり大神官こと我、シグルがそなたに神託を下す!」

さらば神殿の日々!!!!!!!

俺は全力で口上を述べあげ、周りは眩い光に包まれ…………。



何も起こらなかった。


「…終わりですか?」

「あ、アレ?失敗かな…?」

普通転職した際はステータスが著しく下がる。

元の職と実力差があればあるほどそれは顕著になる。

カルナクラスならステータスロール無しでも一目瞭然なレベルで下がると思ったがそれが無いということは…。

「…茶番は終わりましょう」

カルナが俺に2本の指を向ける。

「撃ってみろよカルナ

俺の読みが正しけりゃ…」


日本の指先には禍々しい術式、そしてそれが光り始め…


「な、出ないだろ?」


すぐに消え失せてしまった。

それもそのはず、カルナは今賢者から騎士に転職したのだから。

「カルナ自身の基礎ステータスが高すぎて失敗だと錯覚したんだ…

だが魔法適性が低い騎士になったんだ、例え『絶界』でもそう簡単に術式は使えないだろ?」

「ば、ばかな…!」

いつも眉間に皺を寄せていたカルナからは想像もつかない驚きように少し浮つきながら俺は新たな術式を用意する。

「じゃあなカルナ!

魔王倒したら帰ってくるから神殿のみんなによろしく頼む!」

「ちょ…」


ブツン、と音を立てて景色が切り替わる。

空間転移で飛んだのはガラティアよりも少し東部にある農村『ダリア』だ。

さて、取り敢えずはここで荷物を…

「そ、そろそろ下ろしてもらってもいいかな…」

…そういえば、抱えてきたんだっけか







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転職させるのにいい加減飽きたんで神官だけど旅に出てみました @rarly

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