平凡な日々へ

「し、神官長、ご報告が……」

「なんだ、聖女様がお戻りになられたか?」

「いえ、ち、違います。それがその……、教会騎士団が――」

「町を壊す話ならもうついているぞ。聖女を捕縛する裏組織がいるのだからな。徹底的に壊す必要があるだろう? 今更その程度のことを言ってくるな」

「い、いえ、そ、そうじゃなくて――」

「なんだ? 早く言ってみろ」

「は、はい。それがその……、信じられないことですが、教会騎士団が壊滅いたしました」

「……はぁ?」



 突然言われたものだから、頭が理解できない。

 神官長は思わず聞き返してしまう。



「も、もう一度聞いてもいいか?」

「はい、その、信じられないことですが、教会騎士団が壊滅しました。その……一人の少女によって――」

「そ、そんなことあるはずないだろ! ドラゴンの大群が現れたのならまだしもたった一人の少女にだと!?」

「わ、私も人伝いに聞いただけですので――」

「ぐっ……、どういうことだ。一体なにが起きておる……」

「あと、神官長にお客が来ております。なんでも国王様の使いとか」

「ぐぬぬっ、こんなときに……。構わない、待たせておけ!」

「そうはいくまい。無用な争いを起こしたあげくに騎士団を全滅させたとあっては儂が生こかざるを得ないだろう?」



 神官長の前に現れたのは高そうな服に身を包んだ老人だった。



「こ、国王様!? ど、どうしてここに!?」

「そなたの暴走を聞いてな。いくら何でも見過ごすことができないから儂自ら来たわけだ」

「し、しかし、教会は国とは違う統治を――」

「それは教会騎士団がいたからであろう? 教会騎士団が壊滅した今、力なきそなた達は何の力もないわけだ」

「ぐっ……」

「そういうことだ。だから今ここに宣言する。教会は解体し、町を滅ぼそうとしたそなた達はその罪を問わせてもらう」

「く、くそ……」



 神官長たちは国王が連れてきた塀によって捕らえられた。




◇◇◇




 まさかの教会騎士団を壊滅させてしまった後、俺たちはギルドへと戻ってきた。



「本当に主は一体どんな体をしているんだ?」

「やめてくださいよー。くすぐったいですー」



 イレーヌがティナの体を不思議そうに触っていた。

 すると、ティナはくすぐったそうに笑みを浮かべていた。



「皆さん、楽しそうですね」

「あぁ、妾の悩みがティナのおかげで解決したのでな。こうしてお礼を言っているのじゃ」

「脇をくすぐるのはお礼じゃないですよー」

「ほれっ、ここがいいのか? それともそっちがいいのか?」

「もう、やめてくださいー」

「……ぐほっ」



 くすぐりに耐えられなくなったティナが軽くイレーヌを払いのける。

 もちろんティナの軽くなので、とんでもない威力を発揮してイレーヌが壁にたたき付けられていた。



「だ、大丈夫ですか?」



 慌ててティナが駆け寄る。

 すると、イレーヌは血を流しながらも笑みを浮かべる。



「だ、大丈夫じゃ。このくらい我の回復魔法で……」



 イレーヌは自分に回復魔法を掛けて治していた。



「もう普通に回復魔法を使えるようになったんだな」

「当然であろう。教会騎士団が壊滅したのじゃ。もう教会は存続できまい。妾が聖女である理由もなくなったのじゃ。妾は自由じゃ」



 イレーヌが自由……ということはもうこのギルドに残る理由もなくなってしまうのか……。



 少し寂しく思うところもあるが、こればっかりは仕方ない。

 ギルドは入るのも出ていくのも自由なところだ。


 またここに戻りたいと思ったときに戻ってきてくれると嬉しいな。



「それじゃあ、イレーヌ。ここを出て行った後も元気で過ごしてくれよ」

「んっ? 何で妾が出て行くのじゃ? 妾はこれからもここにいるぞ?」

「えっ、だって今自由だって――。もう聖女でないのならギルドに在籍する理由もないだろう?」

「そうじゃな。だからこそ、妾は妾の意思でここに残るのじゃ。もちろん構わないよな?」



 イレーヌがニヤリと微笑む。


 もちろん俺としては断る理由もない。



「あぁ、もちろんだろう」



 むしろイレーヌが普通に回復魔法を使ってくれるようになるのだから、これ以上ありがたいことはない。

 これで三人。

 まだまだ少ない人数だが、一歩ずつ先へ進んでこの調子で誰からも最高のギルドだと言われるように頑張っていこう。

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弱小ギルドの下克上~来る者拒まずで仲間を大切にしていたら、爪弾きされた実力者たちが集まってきました~ 空野進 @ikadamo

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