その磯笛でわたしを呼んで

高橋末期

その磯笛でわたしを呼んで

 あなたかそれとも他の誰か、かもしれない。


 これを見つけて、読んでいるという事は、恐らくわたしはこの世に存在しないか、わたしの記憶をあなたたちによって消されているかもしれない。


 それでもわたしは構わないし、物語という形で誰かにこれを読んでもらえるなら、それはそれで十分なのかも。


 例えこの物語が冗長でつまらないものなら、このまま海女小屋のかまどに放り込んでも構わないし、あなたたちの種族にとって、笑い種として、わたしの鑑別書の横にでも送付しても構わない。


 それでもわたしと彼女と、この記憶の光が夜光虫の光のように、一瞬で儚いものであろうと、この価値はどんなに小さくて、歪な真珠よりも価値があると信じているから。


 ねえ、そうでしょ? 舞亜?



 東京都から南へ遥か九百キロ、亜熱帯の気候のおかげか海水温もあまり低くない嗚濾オロ島の冬の海は好きだった。海中のプランクトン量が減り始め、海の透明度が上がるだけではなく、キアンコウのような珍しい深海魚を見つける機会が多くなるからだ。


 砂地の底でジッと擬態しながら、疑餌状体を釣りのようにフリフリさせ、獲物が寄ってくるを待っているその姿を見つける度に、わたしもこういう生き方のほうが良かったと思っていた。特に、その姿を長く眺めることができないわたしにとっては。


 ヒューヒューという磯笛が聞こえた。海面から顔を出すと、神慈舞亜が、桶樽タンボに寄りかかりながら磯笛を吹いていた。


 磯笛というのは、海女が使う呼吸法の事で、鼻から息を吸って、口をすぼめて口笛のように息を吐くことにより、肺の気管支の内圧を高め、次の潜水時に多くの空気を貯められる呼吸法なのだが、わたしはこれが超絶に下手くそだった。


 チャプンと静かに舞亜は、海に潜ると五分ぐらいは戻ってこない。十メートルの水深で漁をしながら、五分も彼女は海底にいるのである。


 どんな肺活量をしているのだろうか。舞亜は、クラスメイトからの注目の的であり、憧れでもあった。


 憧れか……わたしなんて、一分も息がもたない。


 慌てながらわたしも再度潜り、スカスカのスカリ(わたしのあだ名にもなっている)に、小さなサザエ一つでも放り込みたかったけど、めぼしいものが何一つなく、息がもう続かない。


 岩陰の一つを最後の賭けにしようと……顔を覗かせてみたら、わたしは驚きのあまり、肺に貯めていた残りの空気を一気に吐き出してしまった。


 ソレは岩陰に、エビやカニなどの甲殻類がやけに群がっているものがあるなと、凝視してみたら……そのエビたちは、人の腕のようなものを食べていたのだ。


 海面に慌てて上がろうとするが、息切れしそうだ。酸欠で、目の前の景色が段々と薄くなっていく。


 誰かが、わたしの腕を引っ張った。舞亜がわたしの唇から空気を口移ししながら、その細い腕からは信じられないほどの強い力で、海面へと引っ張っていく。


「夜小辺さん、大丈夫?」


 舞亜がタンボにわたしを乗せると、心配そうにわたしの瞳を、ソラスズメのような蒼い瞳で吸い込もうとしている。


 応急とはいえ、舞亜に突然キスをされたせいなのか、心臓の鼓動も速く脈打っているのを感じた。


「ありがとう……それより、海の底に……腕が」


「腕ですって?」


 わたしはそれ以上、その話をするのをためらった。酸欠状態で幻覚を見たのではないかと思ったからだ。


 キャハハと、少し離れたところから、笑い声が聞こえた。たぶん美香江が、わたしの事をあざ笑っていたのかもしれない。


「放っておきなさい。それよりも、理恵は一度、小屋に戻ってかまどで暖を取っておいて」


「でも……」


「いいから!」


 舞亜は強い語気で、わたしに言い放つ。役立たずの足手まといと思い込んでいたわたしは、半ベソをかきながら、わたしは海女小屋へと戻っていくが、あの腕……あの腕にまとわりついていた甲殻類の赤色が網膜に焼き付いていて、当分忘れられる訳がなかった。



「以上のように、ピースと呼ばれる外套膜の細胞片と、“核”と呼ばれるイシガイ科の二枚貝の核を養殖貝に生体間移植させます」


 先生が黒板横のブラウン管のテレビからVHS映像を再生させる。


 くさびを打ち込んで、口を少しだけ開けた貝殻からメスで切断した内蔵部分、生殖巣にピースと核を挿入している映像が繰り返し流された。


「うげっ……かなりグロい」


 美香江が、率直な感想を言い放つ。


「ええ……人間から見たらかなり、気持ち悪いよね。でも、この挿核手術によって、みんながよく知ってるような、真円のテリがある真珠玉になるのよ。さて……どうして、真珠がこのように丸い玉になるのか……舞亜さん。このメカニズムについてよくご存知ですよね」


 先生が「当然、知ってるでしょ?」的な流れで、舞亜を指名した。


「元々、天然真珠とは外套膜上皮細胞に寄生虫など異物の侵入による刺激により、修復の課程における袋状の組織、真珠袋の肥大化によって真珠が形成されます。これを養殖真珠で再現させるには、人工的に丸く加工した貝の核を先生が先程、ビデオで見せて頂いた通り、母貝の生殖巣に、外套膜の細胞片を付着させた状態で移植させ、外套膜を核におおいつくす形に、真珠袋を形成。分泌された真珠質が、雪だるま式に丸くコーティングされます」


 舞亜が長い髪をたくしあげて、淡々と答えると、クラス中から歓声が上がる。先生が思った通りの予定調和だと思うと、少し腹が立った。次の台詞も大方、予想がつく。


「さすが、真生研に親族を持つ、舞亜さんですね」


 はいはい……真生研、真生研。この島ではしょうがないけど、その名前をこの学校オロジョで聞くのは何千回目だろう。


 真珠生態研究所。嗚濾島での養殖真珠を取り扱う大手宝飾企業。私立嗚濾女子高校のスポンサー企業でもあり、このオロジョにいる限り、そこの重役を務める舞亜の両親の話を聞かされない日は無かった。


 真生研しかり、養殖真珠産業に長い歴史を持つ嗚濾島において、オロジョのカリキュラムの中には、「海女学」や「真珠学」「宝石学」と呼ばれる独自の選択科目があり、ここを卒業した後に、真生研での職を得たり、嗚濾島で海女としての資格を得て漁をしたり、進学したければ、水産、地質学系の大学に進み、ニューヨークのGIA米国宝石学会へ留学に行った猛者もいるらしい。


 そんな中、わたしはというと、ただ単に「宝石や海の色が好きだから」という理由で入学(しかも補欠)したのに過ぎず、そんな中途半端者のわたしを舞亜はバディに選んだ。


 バディというのは、ダイビングにおける二人行動バディシステムの事で、潜水時における相互危機管理における、相棒バディの事である。もう一度、言うけど舞亜は、半端者のわたしをわざわざバディに選んだのだ。



「どうして、わたしをバディに選んだの?」


 曇り止めの為に、ヨモギの葉でゴーグルを磨いているわたしは、舞亜に思わず聞いてみた。


「どうしてですって? 変な事を聞くのね理恵は」


 舞亜は海女小屋のかまどの中に、磨いていたヨモギの葉を放り投げる。心地よいさわやかなヨモギの香りが海女小屋に充満した。


「いい香り」


「神慈さん……」


「だから、舞亜でいいよ。点呼時に言いやすいでしょ」


「ま、舞亜は、わたしなんかじゃなくてさ、もっと実力のある子と組むべきだよ。美香江とかさ」


「へえ……わたしはそう思わないけどなー」


 顔を近づけ、舞亜はわたしの瞳を覗き込む。ミャンマー産サファイアのような、ディープパープリッシュブルーの色。嘘を付けない色だ。


「わたしも、理恵の瞳の色が好きだよ」


「えっ?」と、心を読まれたと思ったわたしは、後ろへとのけぞる。


「理恵、あなたクラス紹介の時、なんて言ったか覚えてる?」


 覚えてるもなにも。さっき言った通りだ。わたしの恥の上塗り歴に、頭からノリの佃煮をぶっかけたようなドロドロの恥。


 他のクラスメイトが、真生研での就職だの、家業を継ぐだの、それなりの動機を話している中、わたしはと言うと、先程も言ったとおり。


「海の色が好きだから……わたしね、そんなあなたが気に入ったのよ」


 そんな、ヒヨドリのような高く透き通った声で言われても……。



「訳が分からない!」


「あんたはいつもトロいからねぇ」


 わたしの母親が、ピッチ越しから気だるそうな声で答える。わたしの実家は、起煉タネ島にある旅館を営んでいて、週に三回ぐらい母親に連絡を取るようにしていた。


「せっかくだから、いいじゃないの。優等生に目を付けられたって事は……」


「進路や就職に便利……でしょ」


「もうすぐ、フナダマササギが近いんだから、しっかりしなさいよ」


 フナダマササギ……元々は、オロ島独自の船霊信仰から派生した祭礼で、わたしたちの学年は、船霊様の前で巫女舞を二人一組デュエットの海女が舞踊る……踊るといっても、シンクロナイズドスイミングに近い水中舞踏で、この国でも民俗文化財に登録されている由緒正しい伝統的な行事だった。その伝統的な行事に、わたしと舞亜が踊る事になるなんて。


「憂鬱だな……」


「まあなににせよ。身体を大事にしなさいよ」


「……甘いものをまた送ってよ母さん」


「はいはい」と、母さんは通話を切る。部屋の中に静寂が訪れると、わたしの意識が段々と遠くなってきた。「イタッ」と、夜に食べたものが悪かったのか、お腹の辺りが痛くなるが、そんな事は、意識が夢の半分に浸かっているわたしには、どうでも良かった。



 翌日、わたしの上履きが無くなっていた。恐らく美香江のグループの仕業だろう。舞亜が美香江じゃなくて、わたしを選んだ事に対する嫉妬に報復……っていうか、イジメかこれは。


 まさか、高校生になって上履きを隠されるとは思わなかったわたしは、ガキっぽい事をされたら、わたしの精神年齢までガキっぽくなる。何もかもバカバカしくなって、学校とは反対側の方向に歩き出した。


 タービダイトが露出した島の南西部にわたしだけが知る秘密の穴場がある。


 級化層理グレーディングの上の方にある若い地層に、わたしにはおあつらえ向きの、平たい舞台のような岩場がある場所があって、何か嫌な事があると、わたしは必ずそこで、ある気分転換をしていた。


 カチッと、見たことのない言語で表記された手のひら大のプレイヤーを再生させると、珊瑚コーラルのような見た目と手触りの材質の穴から聴いたことのないリズムの音楽が大音量で流れ出す。二つの弦の歪みと、打楽器の混成音。テレビやラジオからよく流れるJポップや洋楽とは違う、異種の音楽。逆再生したかのようなボーカルと相まって、別の惑星の歌声のようだ。


 その音楽に合わせ、ステップを踏みながら、走り、跳び、舞いを踊る。学校で教わった踊りを自己流でアレンジさせた創作ダンス……まあ、適当で酔狂なトンチキ踊りだ。


 わたしは、この音楽を聴きながら、がむしゃらに踊るのが大好きだった。あまりにも夢中になり過ぎて、出っ張った岩に足をつまづかせる。


「……はあ、なにやってんだろ。わたし」


「ううん、綺麗な踊りだったよ。今度、フナダマササギの時にそのアレンジ入れてみようか」


 岩場の間から、見慣れた瞳がわたしを覗いていた。


「神慈さ……舞亜! なんでここにいるの?」


「なんでって心外だな。一応、わたしは理恵のバディなんだよ。クラスであなたの姿がいないと、困るのはわたしなんだからね」


 舞亜は岩場をよじ登り、わたしの持つ異国のプレイヤーをまじまじと珍しそうに見つめていた。


「そのプレイヤー、どこで手に入れたの?」


「う、海で拾ったのよ。やけに頑丈そうな箱の中に入っていたから、そのまま再生できたの。電源らしきものが見当たらないから、ソーラー充電式のプレイヤーなのかも」


「へえー」と、舞亜は感心しながら、わたしの秘密の舞台を見渡しながら、わたしがやったような踊りのステップを踏み始めた。


「エレメントを組んで」


 舞亜はわたしとステップの同調を促す。わたしは、プレイヤーを再び再生させた。


「(舞亜、わたしをつけてきたの?)」


 ダイビングの水中手話を応用した指踊りで、わたしは舞亜に尋ねた。


 最初に衝突回避コリジョン・アヴォイダンス、畳み掛ける打楽器に合わせてわたしたちは衝突寸前の所を飛び跳ねる。


「(ええ、わたしのバディである以上、あなたには完璧になって貰わないと困るのよ)」


 次に、整列行動ヴェロシティ・マッチング、高音と低音の弦楽器の歪みを真似するように、うねるような動きとステップを同期させる。


「(買いかぶりすぎ。所詮、わたしは半端者。中身の無い、スカスカのスカスカリ)」


 最後に、接近運動フロック・センタリング、互いに近づきながら、息を合わせるように、手首と手先を同調させるフィンガータット。


「(違う)」「(そうよ)」「(違う)」「(そうよ)」と応酬させるが、いきなり、舞亜はわたしの腕を強く掴む。


「違う!」と、舞亜は自分の声でハッキリとわたしに言った。三分ぐらい踊っていたせいか、わたしの呼吸が荒くなっているにも関わらず、舞亜の呼吸は落ち着いていた。


「そうだよ……わたしはっ!」


「分かってないのよ。理恵、あなたが、どんなに貴重な存在なのかを」


「はっ? それは、どういう意味よ……」


「それは……」


 舞亜が言葉を詰まらせる。その時はでまかせで、適当に言ってるんだと思っていた。


「とにかくわたしは、理恵以外とフナダマササギを舞うつもりはないから」

 


 わたし以外の女生徒が、フナダマササギに熱心なのは、この儀式そのものが、後の将来に大きく響くせいかもしれない。


 優秀な舞を踊る二人組の海女たちには、オロジョや真生研からの推薦で、本土の本社で表彰される事になっていて……とどのつまり、強いコネを得られるのだ。


 わたしのクラスだと、成績も良く、海女の技能的に美香江が、選ばれるのが妥当だろう。優秀な者は優秀な者同士で、舞亜は美香江と組むべきだった。


 ……にも関わらず、何の気まぐれか、舞亜はわたしを選び、お陰様で、わたしは美香江たちにトイレで、汚水をぶっかけられている。


「どんな汚い手を使ったのか知らないけどさ、スカスカリはスカスカリらしく、とっととオロジョから出ていけよ」


 おめおめ、トイレでご飯を食べる余裕だってなかった。足下には、水浸しの弁当と、鞄の中に入っている筈の教科書が、無惨な形で散乱していた。


「スカスカリはスカスカリらしく……ね。わたしって、中身の無い女だからかな」


 服が乾くまで、それこそキアンコウのように、ジッとトイレでうずくまっていたら、午後の授業はとっくに終わり、スピネル色の真っ赤な西日が、わたしを刺すように照らしていた。


「……なにやってんだろ、わたし」


「ほんとよ理恵」


 振り返ると、トイレの出口に舞亜が、わたしを睨みつけていた。


「舞亜……また、ガッカリさせちゃったかな? でもやっぱり、あんたはわたしなんかじゃなくて……」


 舞亜は、自嘲的な笑みを浮かべたわたしの腕を半ば強引に引っ張り、学校の外へと連れ出す。


「ま、舞亜?」


「あなたは、自己評価が低すぎるのよ! どうして? そんなに自信がないの!」


 そう言って、舞亜はわたしをフナダマササギの練習場でもある浅瀬の海へと引きずりこむ。


「踊って理恵! 前みたいに!」


「イヤだよ! わたしはあなたのモノじゃない!」


 わたしが力一杯、舞亜を押し飛ばしたせいで、海へ頭からダイブをする。


「ご、ごめん。舞亜」


 ポカンとした舞亜は、わたしをジロリと睨む。本気で怒られると思いきや……。


「そうよ! あなたは、わたしのモノよ!」


 突然、レスリングのように舞亜はわたしの両足を掴むと、海中へと引きずりこむ。また、制服がびしょ濡れになったことで、さすがのわたしもカチンときた。


「このワガママ女! 自分を何様だと思っているんだよ!」


「おっ! やっと感情的になったわね! スカスカリの癖にして」


「その名前で呼ぶな! わたしの事、なにも知らないくせに!」


「知ってるわよ」


「なにが?」


「あなたの全部!」


 急に真顔で、舞亜はハッキリと答えた。そんな真っ直ぐな瞳でわたしを見ているから、わたしは思わず……。


「舞亜……わたしはあんたなんて大嫌いよ!」


「わたしは理恵の事が好きだよ」


 舞亜が何も迷いもなく即答した。舞亜の視線が、わたしの顔ではなく、お腹の辺りへと向いていた。


「あなたが産み出すものぜんぶ、わたしは大好きだよ」


「……意味わかんない」


 わたしは察していたのかもしれない。舞亜のその顔、その瞳、その仕草……わたしのお腹を見るその得体の知れない感情の正体は明らかにそれは……。



「ナイフで自分の手を切らないように」


 核入れから七ヶ月後の、イカダによって海中に吊され、厳重に養殖管理されたアコヤ貝を浜挙げし、真珠を取り出す実技授業。


 ここでわたしたちが取り出し、磨き、加工された真珠は「海女真珠」というブランド名で、真生研で売り出され、その売り上げが、オロジョの予算に補填されているという。


 真生研の規模の大きさか、海女真珠の売り上げが、本土で売れているのかは知らないけど、いつも新品のような学校設備、朝、昼、晩の和洋折衷を繰り返す豪華な給食や、スパにジム、通話制限はあるものの学校から配給されるかけ放題のPHS、銀座の三つ星ホテルが協賛しているという寮の部屋、離島にも関わらず定期的に行われる医療機関からのサポート、カウンセリング……なんだか、わたしの実家の旅館が、ウサギ小屋に感じられるほどだ。


 なんでわたしがここにいるのだろう、という違和感も強くあって、ストレスフリーなこの環境で、美香江からイジメを受けているのだから、よっぽどわたしは、この学校には場違いな存在なのだろう。


 ナイフでアコヤ貝の殻を開け、貝殻に接している外套膜から切れ込み、中心の生殖巣にかけてナイフをすくい上げると……。


「あら、大きいね」


 舞亜が、わたしが取り出した九ミリぐらいの比較的大粒な真珠玉をまじまじ観察する。


「理恵、バディ同士の伝統は覚えてるわよね」


 そう言って舞亜は、わたしの手元に、同じくらいの大きさの真珠球をこっそりと手渡し、わたしが取り出した真珠球を塩で磨き始め、リューターと細いドリルを使って穴を開け、留め具を固定し、革紐に通す。


「うん、よく似合ってるよ理恵」


 真珠のネックレスをわたしの首に通して、舞亜は嬉しそうにしていた。


 オロジョのバディ同士の伝統というのは、こうして互いに得た養殖真珠球を交換し、常に身につける事によって、互いの海での事故を減らす御守りの事だ。船霊様とは別の玉依姫命を神体とした石神信仰ミシャグジから派生した、嗚濾島の海女だけが持つ古き伝統である。


 古代から海女だけじゃなく、海へ漁に出る者たちは、海そのものへの悪意無き恐怖を一度たりとも忘れる訳もなく、恵比寿や海神ワタツミなど枚挙にいとまがない海の守り神が存在していた。


 現にわたしたちが着ている制服、ウェットスーツ、海水帽など至る所に、魔除けとしての貝紫色の「ドーマン・セーマン」……五茫星の紋章が至る所にプリントされていた。


 魔除けというのは、海の中で海女を襲うというトモカヅキや尻コボシなど、妖怪の類の事であり、こういった存在は未だに海難事故のメタファーとして恐れられ、オロジョで何かしらの事故が起きた場合、これらの妖怪の仕業だと、もっぱらの噂になるのが日常茶飯事だった。



「以前、理恵が海底で見たという人間の腕を探してみたけど、何も無かったよ。もしかしたら、トモカヅキの仕業かもしれないね」


 フナダマササギに向けての練習中。舞亜があまり息が長く続かないわたしの為に、潜水や水上過重負荷が強い足技ではなく、スカーリングとエッグビーターキックを使った、立ち泳ぎ主体のプログラムを組んでくれて、朝から夕暮れまで、わたしたちは練習に明け暮れていた。


「縁起でもない事を言わないでよ舞亜。トモカヅキって、海の中に現れる自分ソックリのドッペルゲンガー的なヤツでしょ。遭遇したら、そのまま海の底に引きずり込まれるという……バカバカしい」


「そうかな……わたしは本当にいると思うけどな」


「なにが?」


「妖怪や、海の亡霊ってやつ」


 どうしたんだろう。舞亜の瞳は、嘘を言っている瞳ではなかった。


「か、からかわないでよ!」


 そう言って、舞亜に海水を浴びせ、わたしは海女小屋で、スポーツドリンクを取りに行くと、あるものが無くなっていた事に気が付いた。


 それは、舞亜と交換した真珠の御守りだった。ネックレスごと無くなっていたのだ。


「やっぱり……」


 何となくこういう事をされる気はしていて、ショックはあまり無かった。美香江の仕業かは知らないけど、またガキっぽい事をしやがって。こんな事で、わたしが傷付くとでも……。


「うん、よく似合ってるよ理恵」


 一瞬、舞亜の笑顔が浮かんだ。あの笑顔を思い出せば、思い出すほど、わたしの中で黒い何かが、ふつふつと湧き出してきて……そして。


「……死ねばいいのに」


 そうポツリと言った瞬間だった。練習場の方から誰かの悲鳴が聞こえた。


 海女小屋から外へ出てみると、舞亜が美香江を背負いながら、こちらへ向かって泳いでくる。


 美香江は必死に腹を抑えながら「痛いっ! 痛いよぉ!」と、普段の勝気でプライドの高そうな彼女からは想像も出来ないくらいに、赤子のように泣き叫びながら、オロジョに駐在している医療スタッフによって運ばれていった。クラゲにでも刺されたのだろうかと思ったが、冬の海でクラゲに刺される話はあまり聞いた事がない。


「変なもんでも食べたのかな?」


 内心、わたしは美香江に対して「ざまあみろ、バチが当たったんだ」といった感じで、舞亜に話しかける。


「……ちょっと、早かったのかな」


「えっ? 何が」


 舞亜は海へと浸かり「何でもない」と言って、練習の続きを再開した。



 その日の晩はフナダマササギの練習疲れか、食欲も消え失せるくらいに、寮へ帰った瞬間、ベッドへとそのまま飛び込んだ。


 ――痛いよぉ!


 記憶に強く残っていたのか、夢の中での美香江の叫びよって目を覚ますと、時計は深夜二時を回っていた。少しだけ喉が渇いたので、飲み物を貰いに食堂へ向かうと、いつも施錠されている裏口の扉が開けっ放しになっていた。


 寮では基本、深夜の外出は禁止されている。というより、深夜に外へ出たところで、島外にはコンビニや居酒屋何一つ無く、よほどの暇人か物好きでもないと、出歩くヤツなんていないだろう。わたしのようなヤツ以外を除いては。


 何となく夜風に当たりたい気分だった。しかも、こんな空気の澄んだ日は満点の星空をじっくりと眺めたい。


 水平線の彼方まで……冬に見れる天の川は、夏のとは違う表情をしていた。今、わたしが見ている天の川は中心の方ではなく、外側の方を向いているのだという。


「外側か……」


 フナダマササギで選ばれれば、わたしもこの島の外へ……東京へ進学したり、就職できる口実が出来る。もしかしたら……もしかしたら、舞亜と一緒に東京へ。こんなわたしでも、何だかやる気がわいてきたような気がした。


「うっー、サムッ!」


 亜熱帯とはいえ、季節は冬だった。全身が震え縮み上がるほどの北風が、寝間着姿のわたしを凍えさせる。こんな時、海女小屋の焚火が恋しくなるなと思い、海女小屋の方へ目を向けると……海女小屋の中から、かすかに揺らめく炎の光が漏れていた。


 こんな時間に、海女小屋に誰かがいる?

 

 結局、わたしの好奇心が勝ってしまった。おそるおそる音を立てずに、扉の間から海女小屋の中を覗いてみたら、わたしは自分の目と耳を疑った。


「あっ……舞亜」


「うんっ……大声を出さないで……誰かに気付かれるかも」 


 ヒューヒューと、二人は呼吸を同調させて磯笛のような鳴き声を発していた。 


 パチパチと、かまどの微かな炎に照らされながら、舞亜と……舞亜と美香江が裸で抱き合っていたのだ。いくら鈍感なわたしでも、二人が何をやっていたのかは、すぐに理解した。


 どうして?


 どうして、この二人なんだろう……。舞亜は美香江じゃなくて、わたしを選んだ。わたしは、どこかその事実に対して、思い上がっていただけなのかもしれない。現実に舞亜は美香江を選んでいた。それに対してわたしは、舞亜や美香江に対して、怒りや悲しみと同時に……強い……何だろう、言葉が出てこない。


「舞亜……その指を……お願いっ、わたしの中にっ! わたしの中でっ!」


 ああ……そうか、これが嫉妬という感情か。


 嘘つき!


 気が付けば、わたしは海女小屋から逃げ出していた。


 嘘つき! 嘘つき! 嘘つき!


「舞亜の嘘つき!」


 わたしは泣きながら叫んだ。少しでも舞亜と一緒に東京へ行けるかもと浮かれていた自分が、恥ずかしくなった。頭上に瞬く天の川に向かって、遥かな暗黒星雲までに響くように、わたしは泣き叫んだ。


 それから急いで寮に戻り、わたしは枕を濡らしていた。舞亜が美香江を抱いている情景を思い出しながら、わたしはある事をどうしても気になっていた。舞亜が美香江のアソコから指を出した瞬間、石のようなものを掴んでいた事と、その石を掴んでいた指先が、イソギンチャクの触覚のようにということに。


 舞亜がわたしを裏切ったショックで、変な幻覚を見たのかと、わたしはその日の夜はそう思い込んでいた……そう、その日の夜は。



「元々、フナダマササギとは巫女の毛髪や陰毛に強い霊力をあると信じられていて、それと一緒にサイコロ二個、銭十二文、男女一対の人形、五穀を船おろしの際、帆柱の下にあるツツと呼ばれる場所に祀り込み、御神体……所謂、船霊フナダマにするの」


「……その船霊を祀った船が、無事に漁から帰ったとき、捕獲した魚を必ず毛髪の持ち主に捧げる風習。船大工ではなく、巫女が船霊を祀った時代の名残、それがフナダマササギでしょ。いま海女であるわたしたちが行おうとしている巫女舞そのものが、海女自身を船と例え、海女漁そのものに対する安全と海の豊穣を船霊様に祈る……学校の先生気取り? そんな事知ってるわよ」


 本番一週間前、少し舞亜に対して言い方がキツいと思ったが、あんな光景を目の当たりにして、同じように舞亜と接する事なんて出来る訳がなかった。


 舞亜の無用な気遣いのせいか、美香江がわたしに対して、以前のようなイジメをする事もパタンと無くなり、それが益々、わたしを惨めな思いにさせ、舞亜に対して怒りが込み上げてくる。


「どうしたの、理恵……」


「なんでもない。とっとと、練習の続きをしましょ」


「ちょっと……理恵!」と、舞亜がわたしの肩を掴む。掴んだ舞亜の手を見た瞬間、わたしはあの、イソギンチャクの触手を連想してしまい……思わずわたしは。


「その手を離してよ!」


 わたしは舞亜の手を思いっきり払いのける。舞亜の瞳孔が開き、わたしを思いっきり睨みつけた。舞亜の瞳孔は異様に大きく、青の面積が一気に黒へと様変わりするその瞳はまるで……。


「……魚みたいな眼」


「ご、ごめんなさい」


 なぜか舞亜はわたしに謝ると、両手で自分の目元を抑える。


「見たのでしょ理恵?」


 目元を抑えながら、次に舞亜が小さな声で言った。


「な、何を?」


「わたしと美香江さんとの行為を」


 わたしは背筋が凍り付いた。舞亜の指の間から、死んだ魚のような瞳を覗かせていたからだ。


「……知っていたの?」


「何度も言うけど、わたしはあなたのバディだからね……ええ……そうよ。わたしは、美香江さんと肉体的なお付き合いをしているの……あくまで、肉体的な……」


 少し、舞亜の瞳が濁ったような気がしたが、わたしは構わず、舞亜の頬をビンタした。


「マジでありえないから!」


 わたしがその場から去ろうとすると、舞亜がわたしの手の中に何かを手渡した。


「これって……」


 それは、金色に輝く真珠玉だった。インドネシアやオーストラリアでしか生息しない、白蝶貝という種からしか採取できない黄金の真珠層を持つ、貴重なパール……なんだけど、変だな……この真珠……少し、独特の劈開クリベージや、真珠では見たことのないエクボが多いような気がした。


 そういえば……この真珠玉に見覚えがあるような気がした。


「これはわたしからのお詫びよ。受け取ってよ、ねえ! 理恵!」


 どうしたんだろう、わたしは、生理的にその真珠玉を受け取るのを拒絶した。


「キモイ」    


 舞亜の手を払いのけて、わたしは練習場を後にした。もう、何もかもどうにでもなれという感じだった。舞亜も、フナダマササギも、わたしの将来でさえも……。



 次の日の朝、予定日よりも早く生理がやってきたのか、腹痛で学校を休んだ。オロジョは、こういう場合のサポートも万全で、わたしにかかりつけの医療スタッフが、その場合に応じて、然るべき薬を処方してくれるので、おめおめ、仮病で学校を休む事すら出来なかった。


「いっそのこと……フナダマササギまで、寝過ごせたらいいのに……」


 酷い腹痛と、薬による睡魔にまどろみながら、わたしの意識が夢の中へと、誘われていった。


 あの海女小屋だ。扉を開けると、かまどの炎に照らされて、舞亜がウェットスーツを着ながら、わたしを待ち兼ねたかのように手招く。


「ファスナーを開けて」


 舞亜に言われるがまま、彼女のスーツのファスナーを下すと、そこには彼女の肉体ではなく、無数のイカやイソギンチャクのような触手がゆっくりと飛び出してきて、わたしを絡め捕る。


「怖がらないで」


 舞亜が優しい声で囁くと、わたしはそのまま、身を委ねる。柔らかく、温かい舞亜の触手が、わたしの頭を、頬を、首元を、乳房を、お腹を、腕を、アソコを……アソコ?


 思わず目を覚ますと、裸の舞亜が寝ているわたしへ馬乗りになり、わたしのアソコを弄っていた。


「ま、舞亜! 一体、なにを!」


「黙っていて……誰か来るから」


 舞亜が、指をわたしのアソコに入れながら、長く細い舌をわたしの耳や首元を舐めまわす。たまらず、わたしは――。


「ああっ……なんでっ! なんで? こんなっ……舞ああっ!」


 形容しがたい快楽が、わたしに襲い掛かり、舞亜を手で押しのけようとするが、舞亜の左腕が、わたしの背中をギュッと、強く掴んで離さなかった。


「ごめん、ごめんね、理恵」


「なぁにぃがっ! ごめんだよぉ! 大嫌い! 大嫌いだよぉ! あんたなんて、舞亜!」


「わたしはっ……理恵の事が大好きだよっ!」


 舞亜がわたしの唇を重ねた。薬がまだ効いているのか、意識が微睡み、これが果たして現実なのか、夢の続きなのかよく分からなくなってきた。ただ一つ、確かなのは、舞亜のヒューヒューという磯笛のような呼吸と、わたしの呼吸が同調して、一種の得体の知れない高揚感が生まれていた。多幸感とも呼ぶべき、高揚感が……。


「お腹が……痛くなくなった?」


「薬が効いたのね。これでまた、明日から練習を再開できそう」


 外の日がもう傾いてきた。わたしの隣には、裸になった舞亜がギュッと血まみれのシーツ越しから、わたしを抱きしめていた。開け放たれた窓から、磯臭い潮風と、キューキューというユリカモメの鳴き声が聞えてくる。いっその事、このままの時間を永遠に舞亜と過ごしたかった。過ごしたかったが、わたしは……。


「美香江にやっていた事をわたしは忘れないし、まだ許してもいないからね」


「いいよ、理恵。わたしは、それでも構わないから」


 舞亜がわたしにキスを続けた。大胆で貪欲に。


「思った以上に、勝手でわがままな女なんだね、舞亜」


「そうよ。わたしは勝手で、わがままで……そして――」


 そして……舞亜はそれ以上、何も言わなかった。



 フナダマササギ当日を迎えた。船霊神社で、みそぎを済ませてから、緋袴と白の舞衣に着替え、波の浸食によって出来た海食洞の中に安置された人の形にも見える奇岩、船霊様の前で水中舞を奉納する。


「あの岩は、ただの奇岩じゃないの。未だに僅かながらだけど、放射能を発している」


 舞亜が儀礼用の巫女装束を脱ぎだし、小さな声でわたしに言った。


「へえー、トリアナイトででも出来てるの?」


 前貼りをしているとはいえ、人前で裸になるのである。アメノウズメじゃあるまいし、そんな冗談を言う、舞亜の神経の図太さに感心した。


「あのフナダマ様はね、武器だったのよ。から見ればね、兵器とも呼ぶべき」


「それは、どういう意味なの?」と、わたしは聞こうとしたが、スピーカーから神楽が流れ出し、わたしと、舞亜は指定の立ち位置で構え、海水に浸かる。


「リラックスして、理恵。練習通りに……」


「言われなくても」


 フナダマササギは何度も言うように、シンクロナイズドスイミングに近い水中舞であるが、シンクロとは違うのは、海女やダイバーがよく使う、水中手話を応用した指踊りに近い動きを、相方となるダンサーと会話をしながら、舞い踊るのが特徴である。その会話をしながら、衝突回避コリジョン・アヴォイダンス整列行動ヴェロシティ・マッチング接近運動フロック・センタリングの三つの基本プログラムを自在に組み合わせながら、同調性、技術性、芸術性を競うのである。


 フナダマ様の前には、神楽面を着用した審査員が座りながら、わたしと舞亜の踊りを黙々と評価していた。


 フィンガーアームシークエンス(指や腕の表現動作)。腕を真上に伸ばし、手首を45度のフラット状態にした後、舞亜が片腕の指をくねらせながら、九字にも似た組み合わせで、もう片方の腕を水面下でフラットスカーリング、立ち泳ぎしながらわたしに近づく。わたしもそれに呼応するように、指で形を作り、その指のサインに答えていく。有名な九字に「臨兵闘者皆陣列在前」や「令百由旬内無諸衰患(百由旬の内に諸の衰患無からしむ)」というサインがあるけれど、元来この指の動きも、水中手話同様、何か意味があるものだろう。


 舞亜が潜ったのを合図に、わたしも潜り潜水しながら、水面から腕と足を交互に出しながら、テクニカルルーティンをこなしていく。ここで、一つでもミスをすれば、かなりの減点対象となる。


 巻き足を強くさせながら、上半身を水面から出して、腕と指を大きく振りながら、拳法の組手のように、舞亜と無言の会話を続けていく。腕を十字に、交互に重ねて、互いの手先で三角を作ると、その三角をひっくり返して、指先で四角を作り、片方の腕をグルグル回して、指先で丸を作り、その四角にその丸を放り込む。


 この独特で風変わりなダンスを踊りながらいつも思っているけれど、この四角、三角、丸の組み合わせは、古代の人々のコミュニケーションツールとして活用されていたと言われている。数多の海を渡りながら、言語が異なる外国で、海人同士が用いる共通言語エスペラントのようなものなのだろう。


 今ではこのダンスの組合わせが、手話の意味が何を意味し、喋っているのか分からないけど、わたしと舞亜によって、ある種の感情を込めて応答していると、その意味が無意識に入り込んでくるようだ。そう……ありきたりな、あの言葉が。


「よしっ!」


 思わずわたしの心の中で歓声が上がる。ここまで、テクニカルルーティンがノーミスだけではなく、自由な振り付けで踊るフリールーティンでさえも、ほぼ練習通りで、ほとんどパーフェクトだからだ。体の軸も、重心も全くブレていない。


 舞亜と片手を合わせながら、勢いよく離れ、最後のフリールーティンの大技に入る。シンクロを学ぶときに聞いた話では、基本となるスカーリングとエッグビーターキックの推進力の原理は、流体力学の応用……つまり、鳥の翼が揚力を得て、飛んでいるのと似ているのだという。最後にわたしと舞亜が行う大技とは、そんな鳥たちが行う行動を模倣したものを水上で行うものだ。


 タッククロス


 サイドキックをしながら、猛スピードで舞亜と至近距離で衝突するくらいの至近距離でクロスさせる。これを成功させれば、わたしは舞亜と一緒に……東京へ。


 わたしの目の前に、舞亜の顔が現れる。


「……えっ?」

  

 急に方向転換が出来る訳もなく、わたしと舞亜は正面衝突をしてしまった。



「ごめんなさい」


 医務室で舞亜がわたしに謝る。


「なんで、謝るのよ……わたしが、ミスをしたのかもしれないのに……」


「……ごめんなさい」


 舞亜の手には、わたしがあげたあの真珠玉のネックレスが握られていた。どうして、そんなに悲しそうなんだろう……どうして。



「どうして?」


「だからその……ごめんなさい」


 美香江が、わたしに謝っている。美香江の掌には、舞亜と交換したあの真珠玉が転がっていた。



 フナダマササギから二週間後、クリスマスに近い冬のシケた港に、東京へ向かう大型のフェリーが停泊していた。結局、フナダマササギでは、わたしと舞亜は選ばれず、美香江を含む数名のペアが東京にある真生研の本社にて表彰される。学校での送別会を済ませた後、まさか、美香江本人から呼びだされた時、選ばれなかったわたしを馬鹿にするのかと思っていて、今生の別れ代わりに、いつでも彼女の顔面をぶん殴る心構えで、いざ対面してみたら意外な一言を言われてしまった。


「……舞—―神慈さんが、わたしじゃなくて、夜小辺さんを選んだことに対して嫉妬していたのは確かだし、イジメていたのも、あなたの事が本当に嫌いだったからよ」


?」


「ええ……でも、あのフナダマササギの時の、あなたと神慈さんの舞を見て確信したのよ。神慈さんが、あなたを選んだ意味がね……最後の大技が成功すれば、わたしじゃなくて、夜小辺さんと、神慈さんが……」


「もういいよ」


「でも……」


「もう終わったことだから」


「……」


 真珠を返して貰った後、美香江を一発ぐらい殴ろうと思ったが、どういう訳かわたしは。


「お守りなんだから、それはあんたが持っておくといいよ。東京を楽しんできて」


 そう言って、一方的に舞亜の真珠を彼女に突き返した。美香江と話している時……いや、美香江と舞亜とが抱いていたあの日の晩以降、美香江のわたしに対する印象が柔らかくなったような気がした。何だか、気持ち悪いぐらいに……人が変わったかのように。


「よく似合ってるよ理恵」


 まただ。また、舞亜のあの顔を思い出してしまう。やっぱり、舞亜の真珠だけは返して貰おうと、美香江が乗ったフェリーにへわたしは引き返した。


 本当は学校で禁止されているけど、少しぐらいだけならいいだろうと、船員の目から隠れるように、わたしはフェリーの中へと潜り込んだ。


「やけに、殺風景だな」


 煌びやかな外観とは打って変わり、フェリーの船内は妙に薄暗く、剥き出しの鉄骨と配管、鉄板にボルトを打ち込んだだけの病院のような雰囲気だった。


「なんだよこれ……まだわたしが、実家から来たフェリーの方がマシって……あれ?」


 どうしたんだろう。わたしはこの殺風景なこのフェリーの光景を見た事があるような気がしたのだ。この薬品臭い、人の血のような生臭さを嗅いでいるだけで、頭がクラクラしてくる。人の血のような……おかしいな。なんでわたし、その臭いを知っているのだろう。


「あれ……」


 船の中央部分に出たのだろうか、だだっ広い空間に出た。そこで複数の奇妙な巨大な魚が捕獲されたサメかアンコウのように吊るされていた。四肢と、長い黒髪を持った小さな頭を持つ、二つの乳房が印象的な白い肌を持つ魚が……。


「ウソ」


 吊るされていたのは美香江だった。素っ裸にされて、足に枷をはめられ、大きな図体をした見た事の無いマスク姿の巨漢の二人に、巨大なブッチャー・ナイフのようなものを向けられていた。


「(とっとと済ませよう)」


「(こいつは上等なものだから、慎重にな)」


 マスクの二人が、手話でそんな会話をしていた。なにが上等なのだろうかと思った途端、ナイフが美香江の首を横に切り裂いた。


 ビチャビチャと音を立て、美香江の黒髪の先から、真っ赤な鮮血を垂れ流しながら、真下に置かれたタライに溜められていく。


「ヒュー」と、磯笛にもの似た呼吸音が、美香江のポッカリと空いた首元から発せられて、ビクンビクンと身体がのたうち回る。やがて、首元から血が出なくなると、美香江の首回りにナイフを入れ、綺麗に美香江の生首がトレイの上に置かれた。


 わたしは一体……。


 二人の男は手慣れた手つきで、首を失った美香江を解体していた。さながら、魚の吊るし切りか、家畜の屠殺のように、皮を剥ぎ、肝臓や胃袋、大腸、小腸、骨に付いた四肢の筋肉や、乳房、背骨の隙間にある筋ですら、ハンマーや斧を使って、余すことなく、瞬時に、粉々に、小さな美香江の肉体がただの肉塊にへと解体されている。


 何を見ているのだろうか。


 男の一人が、腸の先をつまみ、何かを取り出していた。あの時、舞亜が美香江を抱いていたときに、舞亜が摘まんでいたあの……金色の真珠玉が。


 それを見た瞬間、たまらなく我慢できなくなって、わたしは声を殺しながら、ゲロを吐き出した。それに、お腹が酷く痛む。生理でもないのに、どうして……。


 誰かがわたしの肩に手を置いた。


「ヒッ!」と、わたしが振り向くと、舞亜が「(静かに)」と、手話でわたしに黙るように促した。


「(舞亜、この船は一体何なの?)」


「(いいから……着いてきて)」


 舞亜がわたしの手を引っ張り、薄暗い船内を進んでいき、保健室のような誰もいない部屋に入ると、舞亜は内側から鍵をかける。


「もう喋ってもいいわよ」


「はあ……美香江が、そんな! ……はあ……なんで、こんな……はあ……はあ」


 腹痛が段々と酷くなる、吐き気も止まらず、わたしは部屋の隅にあったバケツへ送別会で食べていた海鮮料理を吐き出していた。


「待ってて……すぐに、鎮痛剤を用意するから」


 舞亜は棚を開け、慌てている様子で薬を探していた。酷い腹痛と、美香江がバラバラに解体されている惨状を目の当たりにしたせいか、現実感が剥離していて、果たして今が現実なのか夢なのか理解が追い付かない。


「美香江さんの処理を目撃した過度のストレスが引き金になっていて、理恵、あなた本来の身体が拒絶したんでしょうね。あなたのお腹にあるの違和感に気付いてしまったせいで」


 床へ横たわりながら、舞亜が今、言ったことを聞き捨てられなかった。  



「処理……の違和感……だって?」


 舞亜はこの状況を知っている。この腹痛の正体も、美香江がなんでバラバラにされているのかも。わたしは痛みを堪えながら、ゆっくりと起き上がり、出口のドアノブに手が伸びた。


「ごめんね、理恵」


 背後から舞亜の声が響いたのと同時に、ドアノブへ伸びた腕に注射針が刺されていて、舞亜がわたしを羽交い絞めにすると、透明の液体がゆっくりと、わたしの体内へと注入されている。


「舞亜の嘘つき……」


 目の前の景色が真っ白になり、意識が段々と遠のいていき、わたしは視線を舞亜の

顔を移してみると、舞亜は泣いていた。いつもの、ソラスズメのような蒼い瞳じゃなくて……。


「魚みたいな瞳……」。その瞳の奥底を覗きながら、わたしの意識が次第と遠のいていった。



「(いいから、二人だけにして)」


 目を覚ますと、舞亜がマスク姿の医者らしき人物に手話をしていて、そのまま医者を部屋から出ていかせていた。辺りを見渡してみると、歯医者のような椅子に拘束され、頭上に見た事の無い複数の照明器具のようなものがぶら下がっていた。麻酔でもかけられたのか、金縛りのように全身が動かせず、まぶただけをやっと動かせる状態だった。しかも、どうやらわたしは裸らしい。


「起きた? 理恵」


 舞亜がわたしが起きているのに気が付き、深呼吸をしてから「よし」と、顔を叩き、何かを決意したかのように振り返る。


「今から説明する事は現実の出来事じゃない。すべてが悪い夢だと思ってね。でも、これも全部、あなたのせいなんだからね理恵」


 わたしのせい? どうして?


「ここは真生研のラボ。時々、あなたたちカルチャードたちが不具合を起こすと、ここで再度、調整を施しているのよ」


 カルチャード? 養殖? わたしを? 調整? 舞亜は一体、何を言ってるんだろう。


「単刀直入に説明するとね、この島、嗚濾島にオロジョ、フナダマササギ……すべては我々があなたたちを養殖する為に作られた、我々が創り出した偽りの島なのよ。全ては……この為の」


 舞亜の爪と肉の間が先がパカッと割れ、中から細長いイソギンチャクの触手のようなものが、ニョロニョロと生えてきた。その触手が、わたしの股下にへ這い寄り、そのまま、アソコにへと挿入される。


「オロジョで配給されている食事には、厳格な栄養管理をしていてね、高濃度のジカルボン酸、つまりヒトの代謝の最終産物でもあるシュウ酸を体内で蓄積し易いような栄養バランスをしているの。それと同時に湿度や温度管理、テレビや音楽に、電話などの娯楽から外的要因によるストレスホルモンをコントロールしながら、理想的な結石を産みだしていくのよ。まるで養殖真珠のように徹底的な管理をね」


 麻酔だから分からないが、お腹から変な違和感が消えたと思うと、舞亜がわたしの目の前に、見覚えのある劈開クリベージが多い黄金色の真珠を目の前のトレイに置く。


「アントロポスライト。我々はこれをそう呼んでいる。人間石を意味する養殖した尿路結石をね、我々はこれを宝飾品として売っているの。実際の宝石のように、研磨、グレーディングもして鑑別書を作成してね」


 尿路結石を宝石にだって? 人間石? それじゃまるで、舞亜たちがまるで……人間じゃない言い方をしているよう。


「理恵あなたが産み出す結石は、コンスタントに最上位のグレーディングを産み出し続ける母人間なのよ……なぜなら」


 ヌルッとした舞亜の指先に、小さな砂粒のようなものがあった。まさか……それって。


「賢い理恵ならすぐ分かるよね、これが何なのか。養殖真珠同様、天然でここまで丸みをを帯びたアントロポスライトを作るには至難の業で、我々の種族は試行錯誤の結果、我々の持つ腸管上皮細胞の欠片を人間の尿管に挿入する事によって、このような完成された丸みの円を持つ真珠が産み出されるの。これはわたしの細胞片でもあって、理恵との相性はかなり良いの。異種なるクロストークよね、理恵とわたしとの……」



 そう言いながら、舞亜はわたしのアソコにその細胞片をゆっくりと入れている。ゲロでも吐ければ、今すぐ吐き出したい光景。


「フナダマササギはオークションや品評会のようなもので、あそこで落札され、選ばれた人間は可哀そうだけど、しかるべき処理をして出荷させてもらっているの。肉は食用、骨や皮は服に宝飾品や薬として、文字通り肉から骨の髄まで余すことなく、あなたたち人間がかつて家畜にやっていた行いを、同じことをね、処理しているの」


 ねえ……お願い舞亜。今すぐ、わたしを楽にしてよ。


「でもね理恵。わたしはあなたを決して手放さない。手放すもんですか。あなたが処理されるものなら、わたしも家族の前で思いっきり、自分の腹を切り裂いて、わたしの臓物をヤツらに投げつけてやるから」


 じゃあ……わたしは、舞亜の何なの? ペット? それとも所有物?


「今、理恵が座っている装置はね、脳内のメラニン凝集ホルモン産生神経……MCH神経を活発化させるものよ。MCH神経はレム睡眠中の記憶を消去する働きを持つ、元々は我々のような魚類たちから発見されていたもので、食欲を増進させる為の神経だと考えられていたんだけど、このMCH神経には、活性化させたり抑制する事によって、記憶力にも作用することが判明しているの」


 今、魚類って……舞亜たちのことを言っているのか。

 

「夢の記憶をすぐ忘れるのは何故なのか……それはね、レム睡眠中に活動するMCH神経の活動が、海馬における記憶を抑制しているからなの。この装置は、その記憶のの抑制を人工的に作用させる事によって、今わたしが理恵に言っている事も、処理された美香江さんの事も、悪い夢だったと、翌朝には、理恵はそう認識しているでしょうね……それが一番ストレスを与えずに、徹底的に管理された養殖真珠のように、丸みを帯びた安定したグレードのアントロポスライトを生産するあなたたちカルチャードに対する、最適な処理……でもね」


 照明器具から青い光が点滅している。舞亜の瞳のような、蒼い光が。


「でもね、理恵……これをあなたに説明するのは、これが初めてではないのよ。いい加減……理恵も……」


 蒼い瞳が目の前に現れたと思うと、舞亜の唇がわたしの唇と重なる。


「おやすみ理恵、あなたが再び目を開けたら夢が始まるから。また、一緒に踊ろうね理恵……おやすみ」


 青い光が段々と強くなっていく、意識が遠のき、舞亜の瞳の奥に吸い込まれそうだ。段々、だんだんと、わたしの意識が、だんだんと……舞亜の瞳にへ……段々と。



「舞亜!」


 目を開けると、舞亜の顔が目の前に現れていて、ビックリして思わずわたしは舞亜のおでこに、頭突きを喰らわせてしまった。


「イタタ……おはよう、理恵」


「ご、ごめん! 舞亜」


 昨日のフナダマササギの練習で堪えたのだろうか、目覚まし時計はとっくに鳴り止んでいた。


「……舞亜」


「なに理恵?」


 舞亜の顔を見て、何か言いたかったが、わたしはそれを思い出せない。妙な違和感だ。


「今、わたしにキスしようしたでしょ?」


 違う。


「はあ……そんな訳ないでしょ! とっととその寝ぼけた顔を洗って、練習しにいこうよ」


 舞亜はわたしの腕を無理矢理、引っ張りながら、洗面台の方へと誘導する。違う……わたしは、舞亜を……駄目だ。



 駄目だった。


 わたしはもう、その違和感に疑問を持たなくなっていた。人の腕のようなものにまとわりついた甲殻類の赤も、舞亜と一緒にタービダイトの上で踊った事も、スピネル色の夕陽も、冬の夜空に瞬く銀河も、フナダマササギも、美香江のわたしを蔑む笑い声も、バラバラにされる美香江も、故郷の母の声や、舞亜に抱かれた日でさえも、真夏に見た白昼夢のように、懐かしくて儚く、あっけないくらいに忘れてしまいそうだ。だって? そもそも、わたしは、わたしたちカルチャードたちは、真夏というものを知っているのだろうか。夏に過ごしていた記憶は確かにあるけど、この記憶でさえも、舞亜のような種族が作りだした幻なのだとしたら、わたしは……耐えられなかった。


 だから、わたしはこの白昼夢をこのノートに記していた。このノートに記している事が、あまりにもバカバカしいわたしの妄想なのだろうと、これを床下や洗面台の裏側に隠していて、あなたたちがこのノートを見つけようとも、この物語は、この記憶こそはわたしだけのモノなんだから。菓子の包み紙を捨てるかのように、そう簡単に処理なんてさせるものか。


 だんだんと眠くなってきた。今夜食べたものか、同じことしか言わない声だけの母親のせいかもしれないけど、予定日でもないのにお腹もズキズキと痛くなってくる。けれど、仮に今わたしのアソコに舞亜の核が埋め込まれていて、わたしの養分によって、舞亜とわたしの合成鉱物シンセティックが作られているのであれば、それはそれで悪くないのかもしれない。

 

 何を書いているんだろうわたしは、明日の学校も早い。同室の舞亜に気付かれる前にこのノートを隠さなければ、この記憶を忘れない為にもわたしは舞亜へあ――。



 ノートはここで終わっていた。理恵本人もこのノートそのものの存在を忘れていたらしく、ここに記された挿核から八世代の後、理恵のベッドの床下から、煤けたこのノートを発見した。


 かまどの炎に、わたしはヨモギの葉と一緒に、そのノートを放り込む。ジリジリと音を立てながら、紙とヨモギが焼ける匂いが小屋の中を充満させていた。


「ヨモギのいい匂い……なに燃やしてるの?」


 理恵がセミショートの髪を結び、魔除けが刺繍された潜水帽を被って、かまどの炎で暖を取る。


「ラブレター」


「えっ……マジで? ああっ!」


 理恵は慌ててノートの切れ端を拾おうとするが、炎はあっという間に、ノートを灰にした。


「ううっ……読んでみたかったのに……」


 理恵は恨めしそうに、煙を見つめていた。どうやら、処理の経過は順調に進んでいるようだ。


「冗談よ、ただの海岸に落ちていたゴミよ」


「ほんとにぃ?」


「ほんとよ」


 理恵の首に、わたしがあげた九ミリの花珠真珠がぶら下がっていた。わたしの首にぶら下がっているのは、理恵から貰った同じグレードの真珠玉だが、彼女は知らない。互いの首からぶら下がっているのが、理恵の尿路から摘出した漂白されたアントロポスライトだということに。



「バディチェックは完了、そんじゃ潜るよ」


 今日はフナドの実習だった。本来は、夫婦やバディなどで船で沖合に出て、片方が船頭をやり、もう片方が海に潜り漁をするが、わたしと理恵は、オロジョからの許可を得てプレダイブ・セーフティ・チェックを行ってから、一緒に海へ潜るので例外だった。


 東京都から南へ遥か九百キロ、亜熱帯の気候のおかげか海水温もあまり低くない嗚濾オロ島の冬の海は好きだった。海中のプランクトン量が減り始め、海の透明度が上がるだけではなく、キアンコウのような珍しい深海魚を見つける機会が多くなるからだ。


 そして、理恵の姿もハッキリと見える。


「(ねえ、さっきのは本当に冗談だったの?)」


 漁をしながら、唐突に理恵がわたしに水中手話で聞いてきた。わたしは、しばらく考えてから手を動かした。


「(違うの。本当はあなたに向けてのラブレターだったのよ)」


 ゴボッ! と、理恵はビックリしたのか、肺の空気を一気に吐き出して、苦しそうだ。


「(ごめんね、理恵。わたし、あなたに沢山の嘘をついているの)」


 その手話をやってから、苦しそうな理恵の唇に、わたしの肺の空気をほんの少しだけ送り出した。現在の水深は十メートルぐらいだろうか、海の中はわたしと理恵以外、魚一匹何も誰もいない。二人きりだった。


 わたしは強く願った。果てしなく、どこまでも青い海原にわたしと理恵をこのままの状態で漂わせ、潮流によってどうか、本当に誰もいない無人島にへと、流して欲しい思いながら、束の間の自由と幸福をわたしは享受していたかった。そう……二人きりで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その磯笛でわたしを呼んで 高橋末期 @takamaki-f4

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ