硬質で静謐な文章でつづられる、未開の惑星を舞台にした物語。SFですが、御伽噺みたいに幻想的な雰囲気も感じさせる作品です。
テラフォーミングの為に苗を植えた惑星──そこに調査に向かい取り残された主人公達。そして出会う主人公のみが見える少女……その正体に引き込まれました。 人の手により生み出された命が思惑を離れ変化することは現実にあることであり、その点を見事に絡めていますね。 巧みな文章とちりばめられた知識とSF好きには納得が行く作品ではないかと思います。 生命の強さ、人の多様性と短慮、そして命を繋ぐ意味……。ハッピーエンドやバッドエンドという枠を超えた結末は、不思議と心に刻まれました。私はこの作品、好きです。
手軽に読める長さと文体とSF作品です。しかしながら、その中に生物的なグロテスクさと美しさ、儚さといったものが濃縮されています。軽めな感じの起こしから一転、謎を盛りつつそれを抱えてラストに開花させる構成力には圧倒されるばかりでした。特に最後の一行の締めくくりがシンプルながらも、そこに至るまでに無駄のない積み重ねがあったからこそ素晴らしい。物悲しくもどこか救われるようなラストには、長編を読み切ったにも匹敵する充足感と爽快感があります。間違いなくこの作者様の作品の中で特に珠玉の短編です。
静謐で、淡々とそしてひっそりと終わる、だけれども、確かに美しい。そういう方向性のSF短編の王道を行く、綺麗な言葉の華でした。