春川桜子が退学して、二年が経った。

 それ以来いちども顔を合わせていない。

 公園のベンチに腰を下ろすと、サクラはもう散っていて、堂々とした葉桜の緑がダミー都市を背景にまぶしかった。

 僕は量子暗号回線を通して、秘密のサイトへアクセスする。

 君の新作が投稿されているのを僕は目にする。

 僕はちいさく笑う。

 いまもって僕には、そこに書かれているものごとを十分に理解することはできない。架空の人々に思いを馳せるということが、どういうことなのか、うまく把握できているとはいいがたい。いつか理解できる日がくるのだろうか? いつか僕は架空の人々に心を動かして、涙さえ流して、それを現実のこととして受けいれるようになる日が、来るのだろうか?

 わからない。

 わからないなりに僕の指は、きょうもまた君の作品をタップする。

 そこに展開される文字列を、必死で読み解こうとする。

 楽しもう、と僕は思う。それを完全に理解できるとは限らないけれど、君の作品を読むことを、楽しみつくしてやろうと僕は思う。

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葉桜の君に【企画参加作品】 あかいかわ @akaikawa

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