食事の前の一杯 - ひととき -

宇佐美真里

食事の前の一杯 - ひととき -

メニューを見ながら、

ボクはビールをひとつオーダーした。

二人でつくテーブル。料理を待つ間の少しの時間…。

カノジョは普段アルコールを口にしない…。


グラスいっぱいのビールが、

泡を震わせながらテーブルに届く。

ボクの前に置かれるグラス。

「お先に…」とボク。

「どうぞ」とカノジョ。

一杯のビールを巡って交わされる短いやりとり。

いつも通りの「儀式」だ。


しばらくすると、カノジョは言った。

「ひと口いい?」同時にグラスに手を伸ばす。


「珍しいね…」とボク。

「たまに…ホントにたまに飲みたくなるの。

 でも、一杯は多過ぎる。チョットだけでいいの…」


「ゴクッ…ゴクッ…」と二回。

グラスのビールがゆっくりと喉元を過ぎていくのがわかる。

「ありがとう…。美味しい。たまに飲むとね…」

グラスをボクの方に戻しながら、カノジョは言った。


テーブルに肘をつき、再び会話を始める。

ほんの少しだけ目の周りを薄紅色に染めながら、

普段より、チョットだけ饒舌になるカノジョ。


こんな「たまに」なら、もっと多くてもいいのに…。


ビールの泡のラインをまたひとつ

グラスの低いところに作りながらボクは、そう思った。



-了-

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