最終回【悪魔と天使】

 春。


 天の川中等女子学院では卒業式が行われていた。


 空にはちらほらと雲が流れている。


 それぞれ花束と卒業証書を大事そうに抱え校庭に出ては母校との別れを惜しむように振り返る。



 そこにアビス・フォルネウスの姿はない。



 マールは天の川中等女子学院を見上げる。

 3年間、お世話になったこの学校とも遂にさよならである。最後まであの人は帰って来なかった。


 あの日、あの時、世界が溶けた。


 そして気付けばそこに、日常があった。

 1人の存在だけが欠けた、そんな日常が。


 サハクィエルは空を見上げる。彼が悪魔でも構わない。だから帰ってきてと心から祈る。

 涙が頬をつたう。その時、


 校庭が騒めき出す。


 ふと前を向いた、その先に……黒い髪の、


 悪魔的風貌の男の姿があった。


 声が上がる。


 生徒達はその男の胸に我先にと飛び込んだ。勢いで倒れそうになりながらも皆の頭を優しく撫でてやった男は、ふとサハクィエルの方を向いた。


 彼女が我慢出来る筈もなく、すぐさま大きな果実をこれでもかと揺らしながら走り、飛び込んだ。

 悪魔の胸に飛び込む天使。泣きじゃくるサハクィエルの頭を生徒達と同じように優しく撫でてやる。



「遅くなってすみません。サハクィエル先生」



 アビス・フォルネウスは帰還した。あの日、神聖樹の最期の足掻きで取り込まれた筈だった。

 しかし彼は、それを打ち破り帰ってきたのだ。

 卒業式に間に合うように。正直、とんでもない男、否、漢である。




 こうして無事に旅立った○○エル達だった。







 そしてまた、フォルネウスの3年間が始まろうとしていた。教室には天使? それに悪魔? いやどっちでもない? といった男女が。


 校長が言っていた。


「これからは共学になるわ、フォルネウスちゃん。元天使も元悪魔も男も女もねん」


 ラグナロクの正体、それは、天界、魔界を1つの世界にまとめ、力を剥奪することだった。

 老人達はそれを恐れていたのだ。

 彼らはラグナロクを乗り越えることが出来ないくらいに生きていたからだ。


 そして天使の翼は消え、悪魔にも力がなくなった。人間、というと違うのかもしれないが。

 この先、何年、何百年、何千年の時を経て、いつか、人間になるのかも知れない。



 ☆☆☆☆☆



 数年の時が経過した。




 アビス・フォルネウスは相変わらず忙しく働いていた。勤勉な悪魔である。まぁ、今はもう悪魔ではないのだが。

 それはさておき、

 今年は新任の先生がこの学校にやってくる。

 フォルネウスが職員室で資料を整理していると扉が開いた。校長と共に入って来たのは、


 赤いリボンに綺麗な金色のロングヘア。

 そして青い大きな瞳をした天使だった。


 彼女は先生達の前で自己紹介をした。


 拍手が送られ、恥ずかしそうに笑顔を見せた新任教師は、あの頃と同じで、それはそれは、眩しかった。


 アビス・フォルネウスはまだ知らない。


 赤いリボンの新任教師の淡い恋心を。


 この後、怒涛の三角関係に巻き込まれるなんて夢にも思っていなかっただろう。

 全く、隅におけない奴め。





 


 ◆◆◆◆◆

 天界、魔界、互いに相容れない世界がひとつになった世界!

 元天使、元悪魔が共に暮らす世界。


 もしかしたら、君達の住む世界も、元は天界で、魔界だったのかも知れない。


 人間は、天使の一面も、悪魔の一面も持ち合わせているのだから。


 ◆◆◆◆◆






 ガブ!!


「ギャァァァァーーーーーー!!!!」




 おしまいっす!

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☆新任教師(悪魔)と教え子の○○エル達☆ カピバラ @kappivara

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