94時限目【新任教師(悪魔)と教え子の○○エル達】
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悪魔フォルネウスの真の姿が晒された! 漆黒の翼に禍々しく黒ずむ腕、赤く光る眼光、取り巻く瘴気! そして、決戦領域!
討つべき敵と対峙したフォルネウスの背中を、ロリエルは心配そうに見つめるのだった。
今回は神の視点! 最終決着だ!
◆◆◆◆◆
現場に駆けつけたメタトロンにサンダルフォン、ガブリエル母娘、ウリエル、ラファエル、そして神聖樹の力が弱まったことで先に進んできた教え子の○○エル達。
全員がそれを目の当たりにする。
アビス・フォルネウスの真の姿を。
ダルクフィールド、上位の悪魔以外展開することは到底かなわない強者の証。
保健室の幼女は彼の名を叫ぶ。
「な、なんて力だ!? フォルネウス!!」
教え子の○○エル達は唖然とする者、その名を呼ぶ者、震える者、涙を流す者、駆けつけようとするが瘴気により尻もちをつく者、と、様々である。
「うおおおぉぉぉっ!」
フォルネウスは一直線に神聖樹の本体へと飛ぶ。無数のけしかけられた枝をことごとく切り裂きながら、目にも留まらぬ速さで懐に入ると、本体に両腕を突き刺した。
瞬間、フォルネウスの身体に強烈な痛みがはしる。想いが流れ込む。今まで犠牲になった
フォルネウスは食いしばり更に腕を奥へ進めていく。背中の漆黒の翼が燃える、それも顧みず進む。
ラウルは身体を起こしその姿をどこか誇らしげな表情で眺めている。
「アビス。お前が選ぶ道がそうなのであれば、私はそれを見届けようではないか。世界より、ひとりの命を重んじるお前の優しさと強さこそ、王たる素質、器であると私は信じているぞ」
「ラウル様……このままじゃアビス様が……」
カルナは願うように、悪魔だが、そう、神に願うように両手を胸にあて目を閉じる。
その身体は小さく震えている。
「我が息子アビス! 見事やり遂げてみせよ!」
「親バカですね、ラウル様」
「言われるまでもっ……あり、ませんっ……ゔおおおお!!」
両腕が更に奥へ突き刺さる。
それと同時に神聖樹の叫びが響き渡った。
——
天議会、その暗闇で老人達が騒ついている。
『もはやこれまでか』『神聖樹の核が破壊されたいま、儂等は存在出来ぬ。おしまいじゃ』
『これが神に見捨てられた世界の末路、笑いたければ笑うがいい、ライナス……』
「貴方達はとうの昔に退場すべき存在だった。神聖樹の力を自らの養分とし生きながらえてきた貴方達は、神聖樹の寿命を察知しては次の手段に出た。
白天使の命を捧げ神聖樹の寿命を伸ばすという新たな手段に。
神聖樹は世界の核であり、それが枯れてしまえば天界はおろか、魔界すら巻き込む世界の終焉、ラグナロクが起きる。その先のことは、誰も知り得ないだろう」
『若造が知ったような口を……我々はずっと、神に仕えてきた。それこそ今のミカエルのように、純粋に、だが……神は我々を捨てたのだ。
だから、我々が神になった。
……そろそろ時間のようだ。残念だが、儂等は先にいくとしよう。ラグナロクを見届けられんのはいささか心残りだが致し方あるまい』
「さようなら、感謝している。貴方達があがいてくれたおかげで、私はかけがえのないモノを見つけることが出来たのだから。愛する妻とたった1人の、いや、2人の娘をね」
……老人達の光は消え果てた。
————
手を伸ばす。
手探りで、それこそあてもなく。そんなフォルネウスの手を小さな手が握った。
フォルネウスはそれを一思いに自分の方へ引き寄せた。すると、神聖樹の体内からマールの身体が排出された。
「……?」
瞳を瞬かせるマール。
「俺だマール! 迎えに来たぞ」
「……せ、ん、せ……? し、信じ……て、たっ……す」
神聖樹の本体に取り込まれていたマールは悪魔フォルネウスの胸に飛び込んだ。
マールの片手はもう1人の手を必死に握りしめていた。前白天使、ハニエルの手を。
命を切らさぬよう、ずっと手を繋いでいたのだ。それが出来たのも、器の力で取り込んだアルビナの力と大天使長ミカエルから奪った力のおかげだろう。
フォルネウスはそんな2人を神聖樹から遠ざけるように、
「ルシフェルさんっ! 2人を頼むっ!」
放り投げた!!!!
ルシフェルは咄嗟に2人を受け止めた。
「アビス! 君は……!?」
悪魔の背中が語る。
「コイツの声が聞こえたんだ……コイツはまだ完全には死んでない。放置は出来ない。
皆んな、出来るだけここから離れてくれ。コイツを破壊する……何が起きるかはわからない! しかし破壊しない限り、またアルビナ、いや今度は見境なく天使達を喰らうだろう」
悪魔力を拳に込めていく。
「だから俺がコイツを止める。世界が終わって、恨まれても構わない。それでも俺はコイツをぶん殴らないと気が済まないんだよ。
俺にはわかる。コイツは喰いたいだけだ。
それを利用して、誰かが至福を肥やしてたってところだ! 悪魔なめんなよ、樹!
俺の大事な教え子に手ぇ出したんだ! ぶっ飛ばされても文句は言わせん!!!!」
そして、フォルネウスは振り返る。
「いけ、アルミサエル、お前は面倒見がよくていつもクラスのお姉さん的存在だった。剣道大会での優勝は3年間の集大成だ、胸を張っていいぞ」
「アラエル、いつもニコニコしていて、それでいて皆んなのフォローを陰ながらしていたこと、俺はちゃんと見ていた」
「カマエルは……いつまで経ってもカマエルだな。だが、お前には将来性があるんだぜ? 時期大天使にもなれちまうんじゃないかってくらいにな。
お前の明るさにいつも助けられた」
「そんな顔するなって、サキエル。お前らしくないぞ? ○○本ばっかり見てないでちゃんと勉強しろよ? でもまぁ、一番びっくりしたのはお前が実は超絶美少女だったことだな。いまだにあの時のショックは忘れられないぜ」
「シャムシエルは……そうだな。これからきっと大きくなるさ色々と。だから今は待て。それともう少しシャキッとした方がいいぜ? 笑ったお前の顔の方が皆んな好きだからな」
「いつもいつも年上の先生を誘惑しやがって、ゼルエルよ。ま、まぁ、お前は本当に綺麗だ。
だが、安売りはするなよ。これからは逆に求められる立場になるだろうが、本当に自分が決めた人とだけ付き合えばいい。……ん? なんか親父みたいだな……」
「マトリエル、お前の情報処理技術はピカイチだ。これからの時代、きっと役に立つだろう。
お前の眼鏡を外した姿、今日はじめて見たわ。……意外と外した方が可愛いかもよ?」
「ラミエルにレミエル。お前らいつもニコイチだったな。2人とも絵が上手くて、工作も得意だった。イベントの時には世話になった。そろそろ語尾のエルエルは卒業するようにな」
更に、天使部へ言葉を送る。
「モコエルはいつもフワフワしていて周りを和ませてくれたな。卒業したら医療関係の高校に行きたいって言ってたよな。お前なら大丈夫。存在自体が癒しだからな」
「ふぇ〜、な、何を〜」
「クロエル、オドオドした性格はいつまで経ってもなおりそうにないな。でも俺はお前が誰よりも優しい天使だって知ってるぜ? あの時の大量の絆創膏、ありがとな。」
「は、恥ずかしいんですがっ……」プルプル
「ガブリエル2世、3年間にわたり噛み続けたで賞を授けるわ……だけどよ、それだけの幸せが後でついてくるんだよな?
俺は信じてるぜ? 立派な……母さんみたいになれよ? まずは背を伸ばすことからな」
「むむ〜なの〜……フォルネウス……無茶したら噛み付くの……だから絶対……うぅ」
「ロリエル、お前は白天使ということだけで辛い思いをしただろう。良く頑張ったな。
カフェのコーヒー、もう一杯飲みたかったな。あ、それとな、お前の心を開くのに色々と苦労したんだぜ?」
「また、飲みにくればいいから……そんな最期みたいな言い方……」
「マール、ありがとな。天使部の顧問にしてくれて。正直言って最初は心底めんどかったぜ。だがよ、お前らに触れているとさ、悪魔の俺が知らなかった世界が広がってな、逆に勉強した。
お前の笑顔の眩しさが俺を変えたんだ。
何も知らない世間知らずの悪魔に色んなことを教えてくれたんだ。ほんと、ありがとな」
「せん……せ……」
(じゃあな。この先、どうなるかわかんねーが、もし、生きていられたらその時は……)
「ここから離れろーー!! ミカエルとその他の大天使! 皆んなを頼む!」
「そ、その他とはなんなのだー!」
「くっ、しかし今はあの悪魔の言う通りに!」
暴走をはじめた神聖樹の枝がフォルネウスの身体を貫く。しかし、フォルネウスはそのまま本体に拳を突きつける。儀式の場が崩れ始める。
「ゔおおおおぉぉーーっ!!!!」
大天使達は教え子達を避難させる為力を解放する。フォルネウスのダルクフィールドが皆を外へ追い出していく。
全てを1人で背負う気だ。
「よぉ、仲良くやろうぜ? 神聖樹さんよ」
枝が悪魔を貫く。
「ぐあっ……熱烈、だな……俺を……取り込んで……どうする、つもりだ、くそったれが!」
更に、更に、何本もの枝がフォルネウスを襲う。血が噴き出す。
しかしそのまま、強烈な右ストレートを繰り出す。
強烈な打撃音が響くと共に、ダルクフィールドが消失、悪魔アビス・フォルネウスは神聖樹を破壊した。だが、それと同時に彼の意識も……
神聖樹は豪快に倒れた。瞬間、
世界が溶ける。
世界の終焉、ラグナロクが始まった。
マールの霞む視界に、血を流しながら倒れゆくフォルネウスに絡みつく神聖樹が映る。手を伸ばすが、届かない。
暗転。
◆◆◆◆◆
次回、エピローグ
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