93時限目【決戦領域】

 ◆◆◆◆◆

 遂に大天使長ミカエルの元へ辿り着いたフォルネウス! クラスの皆の協力を無駄には出来ない!

 しかし、ミカエルによりフォルネウスが悪魔だということが明かされてしまった! 怯えるロリエル、顔をしかめるフォルネウス、ルミナスを解放したミカエル!

 背に腹は変えられないぞフォルネウス! この相手は悪魔力ダルクの解放なしに渡り合えるような相手ではないのだ!

 いよいよラストバトル!

 久々のフォルネウス視点、いくぞ!

 ◆◆◆◆◆

 




「ロリエル! 危険だ、下がっていろ! ここは俺が!」


 俺は圧倒的な力を放つ大天使長の前に立つ。

 大天使長ミカエル、これは手加減してくれそうもないな。こうなった以上、俺がロリエルを守るほかないのだ。

 周囲が白い空間に変化していく……なるほど、決戦領域って訳か……こりゃぁやばいかもな。


 しかし、ロリエルの前で自らが悪魔だということを晒す訳にはいかない。いや、悩んでいる場合ではない……まさか自分達の先生が悪魔だなんて、そんな事実を突き付けられたら……くそっ、出来ねぇ! だからといって、コイツはノーマルで勝てる相手ではないぞ……


「そちらが動かないというのなら、こちらからいかせていただきます」


 ミカエルは目にも留まらぬ速さで俺の懐に入り、光輝く聖剣らしきものを召喚した。速い!

 間一髪で反応しそれを躱したがミカエルはすぐさま追い討ちを仕掛けてきた。俺の素早さではギリギリで躱すのが精一杯だ。


「いつまでも逃げられはしませんよ!」


 ミカエルの手のひらが俺を捉えた。激痛が全身にはしる! 痛ぇぇっ!!

 なんだよその攻撃!?


「くっそ……」


 体勢を整える暇がない!

 2発目が来る。次は、斬ってくる!


「しまっ……」


 確かに斬られた、そう思った瞬間だった。

 俺の前で光の聖剣を受け止めた男がいた。銀色の髪に同じく銀色の翼が眩しい男はミカエルの聖剣を弾き返す。


「お兄……ちゃん……?」


 お兄ちゃん? 男は振り返らずに言った。


「妹が世話になってるようで……この一件が片付いたら、君に謝罪しよう。どんな罰でも甘んじて受けよう。しかし、今は目の前のことを優先させてもらう!」


「……まさか、ロリエルの兄貴? あ、ああぁーーーーーー! お、思い出した! あの日、あの時、俺の前に現れた! お、俺の悪魔手帳デビルブック返せっ!」


「そうだ……君の人生をめちゃくちゃにした張本人だ」


「聞いてねー!!!!?」


 俺は立ち上がりロリエルの兄、確かルシフェルか、そのルシフェルの隣に並ぶ。


「ま、まぁ、別に俺はあんたを恨んでなんかいない。今となりゃ、感謝すらしてる……こんな充実した生活を送れているんだからな。

 魔界にいたままだと、わからなかったことだらけだった。積もる話があるが、それよりも、まずは目の前の大天使長さんだな!」


「ふっ……君は面白い悪魔だね。なんというか、天使的な悪魔というか」


 ルシフェルの言葉を俺はそのまま返してやる。


「そういうあんたも悪魔的だよな、天翔のくせにさ。……さ、どうするよ。あの姉さん、通す気はなさそうだぞ?」


 圧倒的な力を放つミカエルに隙を見せないようにルシフェルと打開策を練る。

 すると、聞き覚えのある声が俺の耳に飛び込んできた。いや、あり得ない!?


「ならば、私も力を貸すとしよう。久しぶりだな、銀翼の堕天翔、そして我が息子、アビスよ」


「父上!? 何故貴方が天界に!?」


 ど、どど、どゆこと!?


「なぁに、息子が何か大きなことをしでかそうとしていると聞いて興味が湧いてね。それに、彼女もうるさくてね」


 誰に聞いたんだっての! 父上の少し後ろに視線をやると、


「げっ、カルナ!?」


「げっ、じゃありませんよアビス様!」


 カルナは俺の姿を見て安心したような表情を浮かべた。そして何故か膨れてみせた。


「カルナまで……くそ、どうなってんだよ!?」


 俺が慌てていると、聖剣を握りなおしたミカエルが会話に割り込んできた。


「魔界の住人が3人も……もはやこの聖域への冒涜は許容の域を超えた! 許すまじ! お前達はまとめて屠る! はぁぁぁぁっ!」


 大天使長ミカエルが更に力を解放した。

 凄まじいまでの力の波動が嵐となり俺達に襲いかかってきた。


「むぅっ、これが天界一の力か! 確かに伊達ではないな! これでは大天使の肢体を凝視出来んではないかっ!! くっ、

 ならばこちらも! 銀翼! アビス! 奴は私達全員が束になっても勝てるような相手ではないぞ! なんとか一太刀いれることが出来ればもしくは……」


 父上は敵の力量を一瞬で把握して俺達に告げた。流石は父上だ、しかし、その父上がミカエルの強さを保証してしまったのもまた事実だが。


「父上!」


「アビス! お前はその子を守れ。大事な教え子、なのだろう?」


「俺も闘います!」


「ならん。お前にはお前のやることがある! 今は私に任せよ。打開策があるやも知れんしな! 銀翼よ、やれるな?」


 父上はルシフェルに言った。


「……勿論だ……! 足を引っ張るなよ!」


「威勢のいい奴だなー! 気に入ったぞ!」


 父上とルシフェルが肩を並べてミカエルと対峙している。俺はその姿に少しばかり嫉妬したが、今は父上の言う通りロリエルを守らないといけないか。


 銀翼の堕天翔ルシフェル、そしてソロモン72注の1人である父上、ラウル・フォルネウス、

 オマケ程度にサキュバスメイドのカルナ。いや、カルナに至っては逃げてくれた方がいいような。


 しかしそんな3人の攻撃を物ともしないミカエルは、次々とダメージを稼いでいく。

 徐々に蓄積されてきたダメージがルシフェルと父上を追い込んでいく。


「父上! やはり俺も!」


 俺は力を解放せんと立ち上がった。


「待て……ここは私に任せておけ。お前は、その子を守れ」


 父上は立ち上がり悪魔力ダルクの壁を張り巡らせた。しかし、ミカエルはその壁を一撃で砕き父上を吹き飛ばす。今まで俺が想像したこともない光景が目の前で起きている。

 あの壁は俺でも破壊したことがないぞ!?

 直撃を受けた父上は激しく地面を転げていく。あの父上ですら、この大天使長には敵わないってのか? カルナはそんな父上を庇うように立ち声を荒げる。


「だ、大天使だかなんだか知りませんがっ……こ、こここ、ここ、これ以上はっ……きゃぁっ!」


「カルナーー!!」


 カルナ弱っ!


 言葉を最後まで聞くこともなく大天使長の力がカルナを弾き飛ばしてしまった。カルナは風に舞う落ち葉の如く地面を転がりうつ伏せに倒れ動かなくなった。ルシフェルが必死に立ち上がったが結果は同じだった。


 ミカエルの力の前に、圧倒的な力の前に、なす術などないのだろうか。


「せん……せ……い……」


「くそ……くそっ! 大丈夫だロリエル、お前は俺が守る。そして帰って……皆んなで卒業する……勿論、マールも一緒にだ!」


「……うん……」


 く、ミカエルが迫ってくる……


「もはや勝敗は決しました。心苦しいのですが、この地を汚した者達に、神の鉄槌を下しましょう」


 とてつもなく強大な力がミカエルの周りに集まっていくのがわかる。決戦領域をそのまま収束しているように見える。現に周囲の景色が元に戻っていくのがわかる。

 目も眩むような真っ白に光る巨大な光の塊が俺達を含む全員の頭上で罪人を滅するときを待つ。

 あんなものを喰らえば、ひとたまりもないぞ。


「光よ、神の意志を継ぎし器の天使が命じる! この者達を永遠に滅せよ!」




「待って!」



「……な!?」


 ミカエルの動きが止まった?

 いや、それより、その声は。


「この世界に、神さまはもう……」


 そこにいたのはマナエルだった。今まで、何処にいたんだよ。


「……マナ……」


「ママ……この世界には神さまは既にいないよ。神の意志も、全て老人達が生きながらえる為の戯れ言。そう、聞いた」


「聞いた……? ライナス……彼が?」


 マナエルは首を縦に振る。


「神が存在しない? そんな、はずは……マナ、貴女は何を……」


「ママも気付いているはず。この世界は、とっくに神さまから見放されたって。昔話のように、神さまが降臨しないのも……もう、いないから……」


「……それなら……白天使とは……アルビナとは何の為に……世界の均衡は……」


「均衡が崩れる。それは確か。でも、これは逃れられない最後の審判、

 ラグナロクは起きます。ママ、もう無益な闘いはやめて……ラグナロクこそが、神の意思。自分達はそれを、甘んじて受けなければいけない」


「……マナ……そんな……嘘、です……」


 ミカエルが放つ力の渦が消えた。ひとまず助かったか? と、そんな思考を巡らせていると、神聖樹の枝がミカエルに伸びた。

 不意をつかれたミカエルは回避が間に合いそうにない。あの木、まさかミカエルまで取り込む気なのか? 


 周囲を見回す。誰も戦えそうにない。

 ロリエルに視線をやる。小さな身体は震えている。

 ごめん、ロリエル。俺は、悪魔だ。


 飛び込んだ。そして、枝を両断した。


「あ、あなた……は……」


「に、げろ……大天使長さん。コイツの狙いはあんただ! 黒幕はコイツか……たかだか木のくせに……そんなに死にたくないってかぁ? 返せよ……


 俺の教え子を、返せってんだよぉぉ!!」


 俺は叫んだ。力を解放するべく、獣の咆哮を彷彿とさせる声で力の限り叫んだ。

 身体を赤黒い瘴気が取り巻いていく。それは次第に大きく、激しく、渦巻いていく。


 背中からは真っ黒な漆黒の翼が生える。久々に出したな、翼。

 高揚感、開放感、力が漲る。

 恐らく、今の俺の姿は、悪魔そのものだろう。



「……先生……うそ……だよね……まさか本当に……?」


 悪魔力領域ダルクフィールド展開。

 辺りが黒く染まる。神聖樹の枝が俺目掛け伸びたが、それを素手で引き千切ってやる。


 そう、これが悪魔アビス・フォルネウス、俺の本当の姿。

 ロリエル、これがお前の、先生だ……!


 天界に来てはじめて力を解放した。


 大事な教え子を助ける為に、


 ただ、それだけの為に、


 ロリエルを守れるのなら、それでいい!

 マールを救えるのなら、俺は悪魔に戻ろう!


 そして言葉通り、根元から儀式をぶっ壊してやる!!









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