第23話 向き合うべき過去
「そういえば、この前ちゃんと葉賀先輩に渡してくれたか?」
「あぁ。ちゃんと渡したよ」
昼休み、俺と田島はいつものように机を向かい合わせ昼食の用意をしていた。珍しく、今日は田島も自分で弁当を持参していた。
「……嫌がられてないといいんだが」
「普通に美味しそうに食べてたぞ」
「そいつはよかったぜ」
つい最近発覚したことなのだが、心愛さんは大の甘党で、とにかく甘いものには目が無いのだ。
田島からクッキーを誕プレで預かっていたことを伝えた際に、目を輝かせてこちらに走ってきて「どれどれ? 早く見せて!」と言われたぐらいだ。
……認めたくはないが、俺の渡したぬいぐるみより喜んでいた気がする。
「お前はあれで喜んでもらえたのか?」
「そりゃまぁ。毎日抱きついて寝てるよ」
「お前に?」
「とりあえず黙れ」
あれとは、猫のぬいぐるみのことだろう。色々とトラブルはあったものの、結果として渡すことが出来た。心愛さんも気に入ってくれたようで、「かずにゃ」と名付け、毎日可愛がっている。
その姿を見ていると、男ながらに母性をくすぐられてしまう。前にも言った気がするが、本当に可愛いとしか表すことが出来ない自分の語彙を恨むほどに可愛いのだ。
「まぁ、一応俺も協力はしたからな。多少感謝してくれてもいいんだぞ」
「感謝してるって。お前の助言がなかったら、センスの欠片もないアクセサリーを買ってたかもしれないからな」
「確かにな。てか、俺がアクセサリーを勧めたとして、お前はどんなの買うつもりだったんだ?」
田島は卵焼きにかぶりつくと、目を細め、俺を試すかのようにじっくりと見つめ始めた。
心愛さんが喜びそうなアクセサリーか……考えてみたものの、見当がつかなかった。しかし田島は返答を待っている。ここで答えないと言うのもガッカリされそうで妙に後味が悪いので、答えることにした。
女子高生が好きそうなアクセサリーと言えば……あ、あれだ。
「ハートのネックレスとか」
「……高校生でそのセンスか」
「そこまで言うか」
「なんだよハートのネックレスて。お前の頭は小学生か」
別に良くない? 女子ってハートとかのマーク好きそうだし、それのネックレスとかならもっと好きなもんじゃないのか?
「今お前、『女子ならハート好きそうだし』とか考えてただろ」
「……どうしてわかった」
「そんな顔してた」
「どんな顔だよ」
田島は水筒を取り出し、勢いよくそれを飲み干すと、首を横に振り、呆れた顔で俺を見た。
「お前、このままだと心愛さんに愛想つかされるんじゃね」
「……マジで?」
「あくまで予想だけどな。俺は恋愛見る専で、色んなやつの恋路に携わってきたから、何となく分かるんだ」
「いや今までも見る専だったのかよ」
田島が見る専なのは以前から知っていたが、俺よりも前に、何度も人の恋路に携わってきたのは初耳だ。
確かにそれなら、薄々感じていた、田島の観察力の高さに納得がいく。
「そこは置いといてだ。言い方は悪いかもしれないが、不釣り合いかもな、お前と先輩」
「……やっぱりそう見えるか?」
「す、すまん。流石に言い過ぎたな」
「いや……俺も薄々自覚してた」
「そうなのか」
「……あぁ」
俺と田島は、それ以降会話をしなかった。田島は気まづそうに何度も俺を見ているが、話題を出そうとはしない。恐らく俺が怒っているのだと思っているのだろう。
別に俺は怒っているわけではない。……自分に呆れている、という表現がしっくりくる。
昼休みをむかえた教室内は、喧騒や日常談で溢れていた。意識しなくても、他の人の会話が耳に入ってくる。
しかし、俺と田島のいる空間だけ、酷く静かだった。カチャン、と箸が弁当に当たる音だけが響いていた。
───
俺が心愛さんと一緒にいることを、誰も
……やはり向き合わないといけないのだろうか。
俺が唯一誰にも負けないと思える、あれに。
俺は、机の引き出しに入れていた入部届けを取り出した。そして、ボールペンで、こう書き込んだ。
───バスケ部入部希望 C組 月島和弥
〘あとがき〙
ども、室園ともえです。
今回からは、和弥の過去の1つ、「部活」についてを書いていこうかなと思っております。伏線ってやつですかね。
これからは月島と田島の絡みも増えます。同じ部活になるので。
話は逸れますが、今回はいつもより文字数を減らしてみたのですが、どうでしたか?
やはりもう少し展開を丁寧にした方がいいですかね?
厚手がましいかもしれませんが、意見を頂けると嬉しいです。
さて、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。よろしければフォローや感想、★レビュー等、お願いいたします。
それでは、また。
バイトの先輩が俺だけに甘すぎる件 室園ともえ @hu_haku
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