第22,5話 君のおかげ
「はぁ……」
私は和弥を部屋まで運んだ後、特にすることも無く、洗い終わった皿を片付けていた。
静かな部屋に、カシャン、カシャンと皿の重なる音が響いていく。ついさっき和弥がほとんど片付けてくれていたので、それも程なくして終わってしまった。
いつもならまだ2人で談笑をしている時間帯だが、今は私1人だ。とりあえず、ソファに身を預け、テレビをつけた。
テレビをつけると、ちょうど天気予報のニュースが流れていた。どうやら今度大型の台風が来るらしい。しかもこのままだと私たちが住んでいる地域に直撃する進路だそうだ。
一応気をつけようとは思ったが、直ぐに頭の意識は別の方へと働いていた。
もちろん、和弥のことだ。
「何かあったのかな……」
和弥は、考え事をしていたせいか私の言葉にどこか上の空だった。目の前で軽く手を振ってみたけど反応はなく、何度か大きなため息をついていた。
まぁ思春期だし、考え事をするぐらいならいいかと10分程度時間を置いてみたが、一向に和弥は我に返りそうになかった。
少しだけ不安になって顔を覗いてみると、今にも溢れそうなほどの涙が目元に溜まっていた。
それから再び何度か呼びかけてみたが、案の定反応はなかった。
そして、それからしばらくしてもう一度和弥の顔を覗いた時には、すぅすぅと寝息をたてながら眠ってしまっていた。目元は少し腫れ上がって、クマができていた。
バイトなどの疲れが溜まっていたのかもしれない。でも……それだけじゃない気がした。
言葉では言い表し難い、漠然とした不安のようなものを感じた。それも、私に相談できないような、不安。
……浮気かな? いやいや和弥に限ってそんなことはないはず。だって和弥私のこと好きだもん。うん、大丈夫!
でも、もし私にも相談できない悩みがあって、それが和弥を苦しめていたりしたら……嫌だな。
胸の中にモヤっとした霧のようなものが渦巻いていく。それはとても大きくて、冷たかった。
テレビでは、最近の政治関連の話題について取り上げられているようだったが、少しも内容が頭に入ってこなかった。まるで、過ぎ去ったら戻ってこない、ひと時の風のようだ。
和弥も、こんな感じだったのだろうか。
そういえば、リビングで考え事をするのは、初めて和弥の家に泊めてもらった時以来だろうか。あの頃は、とにかく不安で不安で、毎日が辛かったことを覚えている。
もちろん当時から和弥との日々は楽しかったが、どこか、心の奥底では笑えていないような違和感のようなものがあった。
「……でも、今は」
無意識に、言葉に出ていた。私は自分を
「今は、ちゃんと心から笑えてる。いつまでも過去のことからいつまでも目を背き続けることは出来ないけれど、それでも……」
私は彼の、和弥の力になりたい。理由は、これ以上ないほどに単純だ。
「───私は、和弥が大好きだから」
ガタンッ。
廊下から物音がしたような……。和弥が起きたのかもしれない。……まさか、聞かれてた?
慌てて廊下の扉を開けると、慌ただしい足音と共に和弥の部屋と扉が勢いよく閉まった。
「和弥、起きてるの?」
「……す、すやすや」
「……相変わらずわかりやすいなぁ」
私が軽く肩を小突いても、和弥は気付かぬフリをしたままだった。
少し恥ずかしい気持ちもあるが、それはお互い様だろう。和弥は何らかの理由で部屋を出た後、私が独り言で大好きなんて言っているのだから。
……なんか思い出しただけで恥ずかしくなってきた。忘れよう。
「何か悩みがあったら言ってね。私、いつでも相談に乗るから」
私は全く動揺を隠しきれていない和弥を
「『遠慮はしなくていい』って私に言ってくれたのは和弥だよ。それはもちろん、私にだって同じ」
あの日、君が言ってくれたあの一言で、私は救われた。頼っていいって心から思える、大切な人になった。だから、私も君にとって、そう思ってもらえるような人になりたい。
「……だから、私にだって、遠慮しなくていいんだよ?」
すぐ後で気づいたが、どうやら私は相当恥ずかしいことを言っていたらしい。私の頬が触らなくても分かるほどに熱くなっていた。
「……じ、じゃあおやすみ!」
和弥の返答を待つ余裕もなく、私は部屋から逃げるように出て行った。心臓の音がうるさいほどに鳴り響いている。……私が照れてどうするんだ。
「……うぅぅ」
私は恥ずかしさをこらえることが出来ず、和弥が誕生日にくれたぬいぐるみに顔を埋めた。
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