宮沢文庫
下手の横好き
第1話
「宮沢典久です。
宜しくお願いします」
その大きな声は、5月の麗かな日差しを浴びて、朝のホームルームでうとうとしていた私を起こすのに十分だった。
先生がその男子の簡単な紹介をしている。
どうやら転校生みたいだ。
何気なくその顔を見て、私は『あらっ』と思った。
見たことがある顔だったから。
そう、あれは確か3日前の日曜日だったよね。
その日はどうしても劇場で見たい映画があって、久し振りに近隣の市にある大きな商業施設まで足を運んだ。
人込みが大嫌いな私は、休日でも滅多に出歩かないが、お気に入りの小説が映画になると知って、渋々行くことにしたのだ。
その帰り道の、適度に混んでいた電車の中で、一人の男子が空いた直後の座席に鞄を放り投げた。
そこに座ろうとしていた人は驚き、見ていた私が眉を顰める中で、その少年は『済みません。その席譲って下さい』と、大きな声で言った後、車両の隅で苦しげに立っていた若い女性に声をかけ、そこに座らせた。
よく見ると、妊娠でもしているのか、少しお腹が膨らんでいて、額から脂汗を流している。
かなり苦しそうだった。
座れたことに少しほっとしたようなその女性に、鞄からウエットティッシュの袋を取り出して握らせ、女性が連絡用の携帯電話を持っていることを確認した彼は、席を(強制的に)譲って貰った男性に丁寧に頭を下げ、お礼を言うと、隣の車両に移って行った。
少しして、呆気に取られていた周囲の乗客の中から、一人のお婆さんがその女性に話しかけたのをきっかけに、車内の空気がその女性に対してずっと温かくなった。
ちょうど私の降りる駅に着いたので、私はそこで降りながら、先程の男子のことを考えた。
私と同じくらいの年に見えたから、まだ中学生よね?
それなのに、あれだけの気配りができるなんて、そんな人、マンガか小説の中にしかいないと思ってたわ。
母の迎えの車が見えたので、その時の私の思考はそこで途切れた。
「席は前園の隣を使いなさい」
先生が自分の苗字を呼んだので、意識を今へと切り替えた私に、彼が挨拶してくる。
「初めまして。
これから宜しく」
電車の中でも思ったけれど、その身に纏っている雰囲気が、クラスの男子とは大違いだ。
大人びた、知性と理性を感じさせる瞳。
変に自分を大きく見せようとする、子供じみた見栄を張らない、穏やかな物腰。
学生服の襟のホックまできちんと止めた、清潔で、隙のない着こなし。
私でなかったら、この瞬間にも彼に惚れてしまう女子は多いだろう。
「宜しく」
とりあえず、挨拶だけは返しておく。
あとは知らん振りして、授業の予習をした。
案の定、休み時間ごとに彼に話しかけるクラスメイト達。
隣の席の私まで巻き込まれそうで、面倒だけどその度に廊下に避難する。
まあ、転校生が最初、質問攻めに遭うのはお約束だしね。
暫くの辛抱だし。
廊下から、窓の外を見るのにも飽きたし、もう直ぐ予鈴だから自分の席に戻ろうとすると、自分の名前が聞こえてきたので、咄嗟に扉の陰に隠れる。
「前園?
やっぱ気になるよな?
かなり可愛いから、最初はみんな興味を持つしな。
でも無愛想で、取っ付きにくいから、その内誰もあまり話さなくなる。
あれで親が金持ちでなかったら、クラスから浮いてると思うぞ。
地元の名士で、祖父が国会議員だから、先生すらあまり強く言えないし、いじめに遭うことはないけどな」
随分好き勝手言ってくれるわね。
金持ちには金持ちの苦労があるのよ。
親の手前、あまり低俗なものを買えないから、マンガだって買わずにネットで見てるし、コンビニで駄菓子を買って、小説を読みながら貪ることもできないし、結構ストレス溜まるのよ。
予鈴が鳴ったので、知らん振りして自分の席に戻る。
「なんか居場所を取っちゃってるみたいでごめん」
「別に良いわ。
どうせ2、3日の間だろうし、あなたが悪い訳ではないでしょ」
礼儀には礼儀で、気配りには気配りで返す。
それが良識ある大人というものだ。
因みにもう立志式(昔の元服みたいなやつね)を迎えた私は大人。
何よ、文句あるの?
うちの学校には給食はない。
以前はあったらしいが、食物アレルギーの生徒に対する配慮や、それで何かあった時、責任を取れないという理由で廃止になり、各自、親の手作りのお弁当は勿論、コンビニのお弁当やパンを含めて、好きな物を好きなだけ食べている。
なので、何処かの小学校なんかでありそうな、先生に『給食を残さず食べろ』とか、『時間内にちゃんと食べ終えろ』なんて意味のない嫌がらせを受けることもなく、皆伸び伸びしている。
あれって一種のいじめよね?
食べる量も、好みも、その速さでさえ人それぞれ。
時間内に全部食べるのが偉いなんて、本当にそう思ってるのかしら。
早食い大会じゃあるまいし。
食べる場所も特に決められていない。
後片付けをきちんとすることを前提に、良識ある範囲内なら、何処でも良い。
これは私にとって、凄く都合が良かった。
何故なら、他に人の来ない場所で、静かに、ゆっくりと食事ができるから。
本を読みながら食べても、誰にも行儀が悪いなんて言われないからね。
この日も早々に教室を出て、本を片手に、校舎の3階の外れにある、日当たりの良い空き教室へとやって来た。
早速、お弁当を食べながら、読みかけの本を開く。
でもこの日は、初めて邪魔が入った。
扉を開ける音に視線をそちらに向けると、転校生が、少し申し訳なさそうに立っていた。
「ごめん。
邪魔しちゃったかな。
ここならあまり人が来ないと思ったんだけど。
何処か他に静かな所を知ってる?」
「さあ?
他は知らないわ。
図書室もこの時間は空いてるけど、飲食禁止だし。
・・静かな所でないと駄目なの?」
「昼休みの時間は、できれば少し勉強したいんだ」
「あなた、成績悪いの?
そうは見えないけど」
「成績は悪くはないけど、家でも色々やる事があるから、この時間を有効活用してるんだ」
「・・私に話しかけないなら、ここを使っても良いわよ」
彼ならその辺りの分別はあるだろう。
別に私の部屋じゃないから、本当はそんなこと言う権利もないけどね。
「ありがとう。
じゃあ、あっちの隅の机借りるね」
そう言うと、さっさとそこへ移動してお弁当を掻き込み、鞄から教科書を出して勉強し始めた。
私の方を見向きもしない。
最初は、私の跡をつけて来たのかとも考えたけど、どうやら違ったみたい。
昼休みが終わって、教室に帰る間際、『あの、これからもここを使わせて貰っても良いかな?』と言われるまでは、本当に一言も話しかけてこなかった。
「どうぞ」
悔しいけど、そう言うしかなかった。
「宮沢、ちょっと職員室まで来てくれ」
放課後、担任の先生に呼ばれた彼が教室を出て行く。
背が高く、如何にもスポーツマンらしい体格をした彼を、部活に勧誘しようと目をつけていたクラスメイトが、残念そうにしている。
私も今日は図書委員の当番なので、直ぐにそちらへ向かう。
この学校の図書室は、蔵書が充実していて、広さも他と比べて倍くらいある、私のお気に入りの場所。
でも最近は、本を読む習慣のない生徒が大半で、いたとしても、ライトノベルのような図書室には置いてないものを好む人ばかりなので、ほとんど利用者がいない。
1日で、一人も来ない日がざらにある。
もっとも、私にはその方が都合が良い。
誰にも邪魔されずに、好きなだけ本が読めるしね。
早速今日も、ここでしか読まない本(500ページ以上あるハードカバーの本は、か弱い女子中学生が借りて帰るには重過ぎると思うの)を取り出して読もうと、奥の書棚に取りに行った時、扉を開ける音がした。
「済みません、図書委員の方は居ませんか?」
声に聞き覚えがある。
またあいつ?
もしかして、本当にストーカー?
でも委員として、無視はできない。
「何ですか?」
思い切り不機嫌そうに返事をする。
「あれ、また君?
よく会うね」
白々しい。
出てきた私を見て、少し驚いた風に言う彼。
「知ってたんでしょ?」
「え?
いや、知らなかったよ。
担任の先生に、生徒は必ず何かの部活か委員会に入るようにと言われたから、図書委員を選んだら、あとの細かい事は委員に直接聴いてくれと言われて、ここに来たんだ」
「今日の当番が誰かも言ってなかったの?」
「ああ。
なんか忙しいみたいで、ろくに説明して貰えなかった」
「・・そう。
一応信じてあげる。
本来なら、ストーカーを疑うところだけどね」
「はあ?
いや、それは少し自意識過剰なんじゃ・・」
「何か言った?」
「いや。
それより説明を頼む」
「そうね。
時間の無駄だし、そうしましょう」
その日は説明だけすると、活動は次からということで帰って貰った。
それから数日は特に何もなかった。
相変わらず、お昼休みはあの空き教室に顔を出すけど、約束通り、一言も話しかけてこない。
本当に熱心に勉強している。
教室でも、余計なことは何も言ってこない。
他のクラスメイトとは普通に話をしてるし、時々だが、笑顔も見せる。
なのに私とは、ろくに目も合わさない。
何か釈然としないものを感じ始めていた時、それは起きた。
授業中、珍しく彼がよそ見をしていると思ったら、いきなり立ち上がって言った。
「先生、突然お腹が痛くなったので、保健室に行っても良いですか?
念のため、保健委員に付き添って貰いたいのですが」
板書で忙しかった先生は、びっくりして振り返り、訳が分らぬまま、お腹を押さえた彼を見て、曖昧に頷いた。
彼は直ぐに行動し、寧ろ彼女の方が具合が悪そうに見える保健委員を連れて、教室を出て行った。
「・・弁当の食い過ぎか?」
皆が呆気に取られている中で、先生が呟く。
途端に教室が、大きな笑いに包まれた。
彼が教室に戻って来たのは、休み時間になってからだった。
透かさず何人かの男子が冷やかす。
だが、彼が笑いながらも堂々と対峙しているせいで、直ぐに収まる。
『あれ、安西さんは?』
一緒に行ったはずの安西さんがまだ戻って来ない。
「ねえ、安西さんはどうしたの?」
普段なら気にもしないが、この所、彼に対して含むところがあった私は、疑問を口にした。
「彼女なら、保健室に行った
「あなたは手伝わなくて良かったの?」
「うん。
保健委員じゃないと駄目みたいだったから」
「よく彼女が保健委員だと知ってたわね」
「一応、クラスの委員は覚えてるから」
「じゃあ、私は何委員か言ってみて」
「図書委員。
この間、君から説明を受けたじゃないか」
「あれから顔を見せないから、忘れているのかと思ったわ」
「え?
僕の当番の日は、まだ先じゃなかったか?」
「あのね、図書委員は只でさえ人数がいないの。
おまけに一人居れば他は帰っても良いことになってるから、大体は私一人よ。
だからあなたも、別に自分が当番の日じゃなくても来ても良いのよ?」
「君、毎日当番やってるの?」
「ええ、家の用事がなければね」
「結構暇なんだね」
「失礼ね。
本が好きなだけよ!」
次の授業の予鈴が鳴ったので、とりあえず矛を収めた。
結局、安西さんは放課後まで帰って来なかった。
「私、今日も図書委員の仕事に行くけど、あなたはどうするの?」
「僕も行っても良いの?」
「何でそんな事を聞くの?」
「何でって、転校初日から、私に話しかけないでとか言われたし、ストーカー扱いもされたから、僕が嫌いなのかと」
「・・そんな事もあったわね。
別にあなたが嫌いという訳ではないわ。
興味が無かっただけ」
「つまり、今は興味を持ってくれたってこと?」
「そうね。
でも、ほんの少しよ」
「僕を認めてくれるだけでも嬉しいよ。
ありがとう。
少し遅くなるけど、後で行くね」
そう言って、直ぐに教室を出て行く。
何処に行くのかしら?
まあ、後で来るみたいだし、とりあえず私も移動しよう。
そう思って鞄に教科書を終っていると、安西さんが教室に戻って来た。
彼女と仲の良い子が話しかける。
「こんなに遅くまでどうしたの?
宮沢君を保健室まで案内しただけなんでしょ?」
安西さんは、教室に残っているのが数人の女子だけなのを確認すると、その子を教室の離れた場所まで連れて行って、小声で話し出した。
「あのね、本当は私の方が具合が悪くて、彼はそれに気付いて助けてくれただけなの」
「え?
大丈夫なの?」
「うん。
薬も飲んだし、今は大分落ち着いてきた」
「でも、それなら何で自分から先生に言って保健室に行かなかったの?」
「えっとね、理由が恥ずかしかったの。
それに初めての生理で、気が動転しちゃって、お腹も痛くなるし」
「初めて?
今頃?」
「ちょっと、声が大きい!
私、随分遅い方みたいで、お母さんも心配してたんだけど、まさか授業中にくるなんて思わなくて」
「そっかぁ、それは男子が居る場所では言いづらいよね。
彼、それにも気付いてたの?」
「・・うん。
ゆっくり歩いてたから、移動の途中で血が少し床に垂れちゃって。
彼がそれをティッシュで拭いてくれたの。
凄く恥ずかしかったけど、でも、とても嬉しかった。
嫌な顔一つしないで、『女の子ならみんなが通る道だと思うから』って言ってくれて」
「何それ、良い人過ぎ」
「だよね。
ここに戻ってきた時、宮沢君、何か言われてなかった?」
「男子から少し『長い便所だったな』とか、からかわれていたけど、彼が堂々としていたから直ぐに収まったよ」
「そう。
良かった。
後でお礼を言わないと」
「もしかして、惚れちゃった?」
「バカ、そんなんじゃないわよ」
そう言った安西さんの顔は、ほんのり赤かった気がする。
聞こえてない振りを装ってそれだけ聴くと、私は図書室に急いだ。
彼はまだ来ていなかった。
学校に居るはずだけど、一体何処に居るのだろう?
今日は1年の委員がまだ居たので、その子に留守番を頼んで探してみることにした。
校庭で、部活の勧誘でも受けているのかと思ったけれど、いない。
職員室も覗いてみたけれど、やはりいなかった。
ぐるっと校舎を1周して、いつもとは反対側の通路から戻ろうとした時、音楽室で、微かにピアノの音がするのに気が付いた。
まさかとは思ったけど、念のため確認しに行くと、そこにお目当ての彼が居た。
午後の穏やかな日差しを、レースのカーテンで遮り、少し薄暗い音楽室の中で、一人静かにグランドピアノを弾いている。
この曲、何だったかしら?
随分前の、有名なアニメの曲よね?
とても奇麗な旋律だけど、悲しい結末を予感させる、切ない曲。
・・上手だわ。
時々、自分なりのアレンジを加えて演奏してるし、一度も間違えないどころか、音に艶があって、それが更にこの曲を引き立てている。
音楽好きの両親に連れられて、年に何回かクラシックのコンサートを聴きに行くけど、そこでのピアノの演奏に、あまり引けを取らない気がする。
彼、一体何者なの?
ちょうど曲が終わりを迎えたので、思い切って扉を開ける。
「びっくりした。
前園さんか」
口ほど驚いていないのが丸分りで、なんか腹が立つ。
「私で悪かったわね。
図書室に来ないから探しちゃったわよ。
それより、あなたに聞きたい事があるの」
「いきなりだね。
何かな?」
「保健室に行く時、嘘を吐いて安西さんを連れて行ったでしょ?
どうして?」
「・・彼女から聞いたのかい?」
「いいえ。
ただ、帰って来た安西さんが友達に小声で話しているのが聞こえただけよ」
「・・大した理由はないよ。
彼女が具合が悪そうなのに偶々気付いたから、注意して彼女を見てたら、いつまでも保健室に行こうとしないから、もしかしてあまり人に言いたくない理由なんじゃないかと思っただけさ」
「彼女と親しい訳でもないのに、あなたが恥ずかしい思いをしてまで嘘を吐く必要があるの?」
私がそう言うと、彼は少し真面目な顔つきになった。
「僕が恥をかくくらいで済むなら、それで良いじゃないか。
・・僕らの年代は、まだ大人になりきれない人の方が多い。
言った本人にはあまり悪気はなくても、言われた人は凄く傷つくこともある。
あそこで安西さんに何かあったら、きっとクラスの男子は、ろくに考えもせずに彼女を傷つけるような言葉を言っただろう。
もしかしたら、それが原因でいじめが起きたり、彼女が学校に来なくなることだって有り得た」
一旦話を止め、レースのカーテンを開けて、窓越しに、校庭で部活に励む生徒達を見ながら言葉を続ける彼。
「父さんが言ってた。
学生時代の友達は、損得を考えずに付き合える、とても貴重な存在だと。
だからこそ僕は、今この時をみんなに楽しんで欲しい。
人を傷つけたり、怨んだりするネガティブな行為で、この時間を無駄にして欲しくない。
一人では解決するのが難しい事が起こっても、僕が手を差し延べてそれが解決できるなら、できる限りそうしたい。
我が儘だけど、僕の記憶の中では、みんなに笑っていて欲しいんだ」
後になって考えてみると、私の中に彼への想いが生まれたのは、この瞬間だったと言えるだろう。
私の曽祖父は国会議員で、祖父もまた同じ国会議員。
父は会社の社長だけれど、何れ祖父の跡を継ぐだろう。
みんなとても品格のある、立派な人だけれど、その立場上、目立つことはしても、自分にプラスにならないことはしない。
自分の評判を落としてまで、他人を助けることはしない。
したくても、今まで培ってきた彼らの立場やプライドが、それを許さないのかもしれない。
『僕が恥をかくくらいで済むなら、それで良いじゃないか』
自信を持ってそう断言できる人を、私は他に知らない。
常日頃から、『前園家に相応しい行動を取りなさい』と親に言われ続けている私には、彼はとても眩しく見えた。
「素敵な考えだと思うわ。
・・ねえ、ここに今、友達がいなくて寂しい思いをしている子が居るの。
あなたが手を差し延べてくれさえすれば解決できるのだけど、どう?」
面倒な人付き合いを避けるため、敢えて自分の周囲に張り巡らせていた心の壁を初めて取り払い、素直に微笑んでみる。
「君の笑顔、初めて見た。
いつもそんな風に笑っていたら、きっと君の周りは友達で溢れていると思うよ?」
「私はあなたが良いのよ。
・・駄目なの?」
「まさか。
喜んで。
こちらこそ宜しく」
そう言って、右手を差し出す彼。
体育の授業以外で初めて握った異性の手は、とても大きく、そして温かかった。
それからの私は、学校に行くのがとても楽しくなった。
昼休み、例の空き教室で、相変わらず離れた席に座ろうとした彼を、私の直ぐ前の机に座らせ、その机の向きを反転させてくっつけ、向かい合って食事を取る。
初めて見た彼のお弁当は、野菜の多い彩り豊かなもので、煮物の多い、どちらかといえば年配の方が好みそうなものだった。
「随分手が込んだおかずね。
お母様の手作り?」
「いや、うちは早くに母が亡くなったから、今は僕が作ってるんだ。
煮物が多いのは、作り置きができるからだよ」
「・・ごめんなさい」
「気にしないでよ。
もう大分前のことだし。
それに、僕より父さんの方がずっと辛いだろうしね」
「・・これ全部、あなたが作ってるの?
とても美味しそうだわ。
ねえ、どれか私のおかずと交換しない?」
「良いの?
じゃあ、そのコロッケ良いかな?
僕のは好きなの取って」
「じゃあ、私は里芋の煮物を貰うわね。
これ好きなの」
「それだけじゃあコロッケに見合わないよ。
良かったら卵焼きも試してみて。
自信作なんだ」
「そう?
ありがとう。
じゃあ遠慮なく」
そう言って、1切れ貰ってそれをお箸で半分に割り、口の中に入れる。
美味しい!
出汁が幾重にもきいていて、甘さと塩加減が絶妙だわ。
お店で出せるわよ、これ。
その余韻を味わってから、一口ペットボトルのお茶を飲み、今度は里芋の煮物を頬張る。
う~ん、最高!!
芋の煮具合がちょうど良く、歯ごたえを残しつつ、芯までしっかりと火が通っている。
何より、それにからめられた
「私の家の料理人として雇いたいくらいだわ」
「褒め過ぎだよ。
このコロッケだって美味しいよ」
「だってそれ、市販のやつだもの。
母は忙しいから、お弁当は名店のお惣菜を買ってきて詰めるだけだから。
・・ねえ、良かったら、これから毎日おかずの交換しない?」
「良いけど、そんなにレパートリーないよ?
せいぜい20種類だね」
「十分よ。
煮物が食べたいの。
私は母にお肉を入れて貰うから。
男の子って、お肉が好きでしょう?」
「うん。
・・ありがとう」
家での食事はほとんど母と二人きりで、仲が悪い訳ではないけど、お互いあまり話もしない。
親しい人との楽しい会話は、こんなにも食事を美味しくするのね。
6月末の定期試験。
3年生で、受験を意識し始めた人が多い教室で、静かにペンを走らせる。
本来なら中学受験をして、トップクラスの私立中学にも入れた私が公立の学校に居るのは、高校までは普通の学校で、普通の友達を作りなさいと言う父のせいだが、成績が悪いと無理やり家庭教師をつけさせられるので、家での勉強は欠かさない。
そのせいか、成績は悪くても学年で5番以内。
大体は1番だ。
『今回も楽勝ね』
そう考えながら隣の彼をちらっと見ると、答案を伏せて目を閉じている。
私でさえまだ終わってないのに。
もしかして、諦めてるのかしら。
そういえば、昼休みはいつも勉強していたし、今度教えてあげようかな。
この時の私は、愚かにも、そんなことを考えていた。
「期末試験の答案を返すから、名前を呼ばれたら取りに来なさい」
数日後、英語の先生の言葉に従い、答案を受け取る。
97点。
長文問題で1問、間違えていた。
「なお、平均点は48点。
最高は100点が一人。
最低は6点だ。
受験生の試験らしく、今回は入試問題を参考に作ったが、少し難しかったようだな。
まあ、100点がいたのには驚いたが」
先生がそう言うと、みんなが私の方を見る。
私は内心で屈辱に震えながら、満点を取った、そのたった一人に心当たりがあった。
「英語の答案を見せて」
昼休み、お弁当を食べに来た彼に、真っ先にそう告げる。
彼はばつが悪そうに鞄から答案を取り出し、見せてくれた。
やっぱり。
「まんまと
「人聞きが悪いこと言うなよ。
嘘を吐いた覚えなんてないぞ」
「悪くはないという言葉はね、良いとは聞こえないものよ。
それで、他の科目はどうなの?」
「悪くはないよ」
「・・今日は他にも数学と理科が返ってきてたわよね?
見・せ・て」
私の剣幕に、渋々見せてくれる彼。
「あなた、私を馬鹿にしてるの?
全部100点じゃない!
どこが『悪くはない』よ。
もう、これじゃ勉強を教えてあげようなんて考えていた私が馬鹿みたいじゃない!」
恥ずかしくて、つい声が大きくなってしまう。
「そんなこと思ってくれてたんだ。
ありがとう。
とても嬉しいよ」
「真面目な顔して言わないで。
・・恥ずかしいわ。
でも、そんなに成績良いのに、何でお昼休みまで勉強してるの?」
「父さんと二人暮らしで、父さんはとても忙しいから、僕が家事を全部こなしてるし、学校でも、放課後は母さんに習ったピアノの練習もしたいし、朝は身体を鍛えるために、雨の日以外は毎朝5キロ走ってるしね。
結構やる事沢山あって忙しいんだ」
「呆れた。
あなたって、もしかしてクリプトン星の出身?
大人になったら、私のお婿さんに貰ってあげようか?」
「考えとくよ」
結構本気で言ったのに、この時の彼は、何故か少し寂しそうに見えた。
夏が来て、私の嫌いなプールの授業が始まった。
人より少し胸の大きな私は、スクール水着を着てもその部分が目立つため、小学生の時に男子にからかわれて以来、プールの授業は全部見学にしている。
今年もそうして日陰からぼんやり眺めていたら、視線が一人の男子に釘づけになった。
まるで筋肉の鎧を纏っているような彼の姿。
でも、ボディビルダーのような見せるための筋肉ではなく、実用的とでもいうのだろうか、必要な所に必要な分だけ付いている、そんな感じ。
胸板が、文字通り板のように盛り上がり、腹筋は、見事な線を描いて割れている。
まるで、美術館にある彫像のような彼の姿を見て、初めて男性を美しいと感じた。
彼から目が離せない。
これでは、私の胸を見ていた男子と同じじゃない。
彼らの気持ちが少しは分ったわ。
私達の年頃なら、ある程度は仕方のないことなのね。
その日はずっと、彼の顔をあまりまともに見れなかった。
天高く、馬肥ゆる秋。
日本では、良い意味で使われることの多いこの時期に、我が校では体育祭がある。
最近では、差別と区別を勘違いした親からのクレームで、徒競走がなくなった学校もあるらしいけど、男女混合リレーは相変わらず体育祭の終盤を飾る花形競技だ。
頭の良い子はテストで、絵や楽器の上手な子はコンクールで、そして足の速い子は体育祭で活躍の場を作ってあげるべきなのに、一部の親のクレームで、何でも直ぐ中止にするのはどうかと思う。
学校なんて、社会に出る前に、世の中には色んな人がいて、自分の思い通りにならない事の方が多いということを学ぶ場所だと思うのだ。
勉強するだけなら、必要ない子もいるだろう。
そんなことを考えながら、リレー選手の集合場所で、アンカーの位置にいるはずの彼の姿を探す。
そのほとんどが陸上部員の中で、ただ一人だけの図書委員。
しかもアンカー。
体育の授業でリレー走者を選ぶ際、私が彼を推薦した時はちょっと迷惑そうな顔をしたけど、実際に走ってみると他の誰よりも速かった。
今日はどんな走りを見せてくれるだろう。
わくわくしながら彼の順番を待っていた時、彼にバトンを渡す役目の女子が、走行中にバトンを落としてしまった。
それまで2位を走っていたのに、みるみる内に抜かされて、バトンを拾って再び走り始めた時には、トップを走る女子とは30メートル以上の差がついていた。
泣きそうな顔で彼にバトンを渡す彼女。
アンカーだけは校庭1周の200メートルを走る。
他の誰もがもう無理だと思っているであろうそんな中で、私だけはある確信があった。
こういう時にこそ、彼はその真価を発揮するのだ。
その記憶の中に、みんなの笑顔だけを残すため、何より、失敗した子に自分自身を責めさせないために、彼は全力を尽くす人なのだ。
100メートルを走る時、その速さが速ければ速いほど、他と2秒も違えばその周囲は止まったように見える。
彼の100メートル走のタイムは11秒4。
この学校の陸上部員で1番速い男子でさえ12秒5。
200メートルを走れば単純計算でも2秒以上違う。
まして、彼は毎日5キロを平然と走るくらいのスタミナがある。
案の定、一人だけ、他とは次元の違う走りを見せた彼は、ゆうゆうと1位でゴールを駆け抜けた。
バトンを落とした子を見る。
さっきまで泣きそうだったのに、今は泣き笑いのような顔で、彼を褒め称える輪に加わっている。
『良かったね』
なんか、また一人、ライバルが増えた気がするけどね。
受験生という立場でなければ、その寒さ故、身も心も温かくしてくれる楽しい行事の多い冬。
毎年、バレンタインだけには縁がなかったけれど、今回は本命チョコを渡す相手がいる。
年の瀬も押し迫ったある日、彼と同じ高校に行きたい私は、それとなく彼に志望校を聴いてみた。
「第一志望?
・・実はまだ決めてないんだ」
「もう直ぐ1月だよ?
あなたなら何処だって入れるでしょ?」
「そんなことないけど、色々考えててさ。
次の面談までには決めるから」
「当たり前よ。
次が最終面談なんだから。
とにかく、決まったら直ぐに教えてよね?」
「・・ごめんね」
「謝るくらいなら早く決めて。
こちらにも都合があるんだから」
この時の会話が、彼との中学最後のものになるなんて、私は思いもしなかった。
冬休みに入り、お正月の恒例行事である、親族と祖父の後援会の方々の挨拶回りを無難に済ませた私は、彼に会うのを楽しみにして登校した休み明けのその日、担任の先生から信じられない言葉を聞かされた。
「皆に伝える事があります。
宮沢君は、お父さんのお仕事の都合で、卒業を
本当はもっと早くに分っていたのですが、受験間際の大事な時に、みんなに迷惑をかけたくないという当人の希望で、今まで黙っていました」
「ええっ!」
「嘘でしょう!?」
クラスのみんなが騒ぎ出す。
私も呆然として、暫く口もきけなかった。
そんなこと一言も言ってなかったのに。
他の人はともかく、私達二人は友達でしょう?
この学校で1番多くの時間を共に過ごしてきた仲間でしょう?
お昼にお弁当を分け合い、放課後に二人静かにピアノの音色に聴き入った、図書室で二人、同じ本を読んだ、掛け替えの無い人でしょう?
・・裏切り者。
その日は最後まで、一切の授業が頭に入らなかった。
放課後、このところ習慣になっていた音楽室への寄り道をせず、真っ直ぐに図書室に足を運ぶ。
この半年は、いつも1時間くらい遅れて来ていたから、1年の委員が顔を出したが、私の顔を見るなり、怯えたように帰って行った。
・・少し頭を冷やそう。
そう考えて、
本来は鍵が掛かっているのだけれど、少し前に錠前が壊れて、誰も寄り付かないことから、そのままになっていた。
彼が転校してくる前は、私のお気に入りの場所でもあったので、大体何処に何の本が並んでいるかは頭に入っている。
『あれ?
こんな表紙の新しい本なんて、ここにはないはずだけど』
古いぼろぼろの本の間に、一際新しい本が混ざっている。
不思議に思った私は、その本を手に取った。
『宮沢文庫』
本の表紙には、それしか書かれていない。
その最初のページを捲り、私はそこで動かなくなった。
『この本を見つけられた方に、先ず、お詫び致します。
勝手にこのような物を紛れ込ませて本当に申し訳ありません。
私は、この学校に転校して来て、1年も経たずに転校して行った男子生徒です。
親の仕事で子供の頃から転校を繰り返してきた私は、たとえ短い間でも、そこにいたことの証を残したくて、何時しか、このような本をこっそり残す癖がつきました。
因みにこれで6冊目です。
いつもなら、本の内容は、その土地や学校の良い所を書いたものなのですが、今回だけは、私にここでの素敵な時間を与えてくれた、一人の女子生徒について書きました。
もしこれを読まれている方に慈悲の心がございましたら、ここで本を閉じ、元の場所に終って下さい。
読んでしまわれた場合には、どうか直ぐに忘れて下さい。
とても恥ずかしいです。
宜しくお願い致します』
胸が早鐘を打つ。
指先が震える。
それでも私は、次のページを捲った。
『風薫る5月。
幾度となく繰り返してきた文句を口にして、指示された席に着く。
隣の女子にも型どおりの挨拶をしてから・・思わず見惚れてしまった。
長く艶やかな、美しい黒髪。
大きな瞳の虹彩はとても澄んでいて、きっと心の奇麗な人なんだろうな、なんて思いを抱かせる。
でもその後、弁当を食べる場所を探していて偶然会った時と、委員会が同じになり、そこに初めて行った時、よりによってストーカー扱いされて、少しへこんだ。
ちょっと腹が立ったし、自身のプライドもあったから、それからは余計なことは一切話しかけなかったら、何の気まぐれか、向こうから話しかけてくるようになった』
やっぱり、私に意地悪してたのね。
『僕達の関係が大きく変化したのは、とある女子生徒を助けた理由を彼女に知られてから。
僕には当たり前のことだったけど、彼女はその考えを素敵だと言ってくれた。
人の心の痛みの大きさは、外部からは分らない。
表情には出さなくても、凄く傷ついていることもあるのだ。
でも、自分の心なら分る。
ほんの
自分に嘘を吐きながら生きることの方が、ずっと辛いと思うのだ』
その通りだと思うわ。
でも、それを実行に移せる人の方が少ないのもまた事実。
だから、あなたは素敵なの。
『空き教室で、彼女と二人、おかずを交換しながら食べた弁当は、いつもよりずっと美味しかった。
僕らの年代が好きなおかずは、父さんの分も作る手前、あまり入れられなかったけれど、それを美味しいと喜んで食べてくれた。
代わりに貰った彼女のおかずは、僕が大好きな肉類のものばかりで、気を遣ってくれたことが、申し訳なくも、有難かった』
だって本当に煮物の味が絶品だったんだもの。
『転校してきて初めての定期試験では、彼女と一悶着あった。
小さい頃から本を読むのが好きだったし、マンガとかは引越しの邪魔になるから買わずに、その分、教科書や参考書ばかり読んでいたし、テストなんて出題者が聴きたい所を逆に予想して、どういう風に尋ねてくるかを考えて勉強すれば、そんなに悪い点は取らないものなのだ。
彼女が、お婿さんに貰ってあげようかと冗談を言った時は、本当にそうなればどんなに・・と、叶わぬ願いに悲しくなった。
父さんの仕事で各地を転々とする僕には、落ち着いて恋愛をする時間も資格もない。
付き合って直ぐ、転校するからさよならなんて、無責任なことはできないから』
冗談・・ね。
あの時も決して軽い気持ちで言った訳ではないけれど、今は本気よ。
それに、資格って何?
恋をするのに、お互いの気持ち以上のものなんて必要かしら?
今はまだ子供で、親の庇護下にあるから無理でも、大人になれば、自分の稼いだお金で互いの距離なんてどうとでもなるのよ。
そこで
あんまり私を
『夏が来て、料理があまり作り置きできなくなったり、洗濯物が増えたりで、家事が忙しくなる中、アイロンがけには特に気を配る。
薄着になる分、シャツの白さや細かな身だしなみは、他人を不快にさせないための重要なポイントだ。
彼女はいつも清潔で隙のない服装をしていたが、二人だけの時には何故か無防備になるので、時折、白いセーラーに浮かび上がるブラのラインが目に毒で、目の遣り場に困った。
体温が上昇するせいか、春には気づかなかった甘い香りも漂ってきて、普段男だけで暮らしている僕には、平気な顔をするのにかなりの労力が必要だった』
フフッ、良い気味よ。
私ばかりあなたにドキドキしていたなんて、不公平だもの。
甘い香り?
シャンプーかしら。
彼が気に入ってくれたのなら、再会するまで使い続けようかな。
『日差しが柔らかくなり、ピアノの音色が夕暮れに溶けて、本のページを捲る音が、舞い落ちる木の葉のそれと重なる秋。
体育祭でリレーを走った後、沢山の人から褒めて貰ったけれど、『ああなるって信じていたわ』という彼女からの一言が、1番嬉しかった。
バトンを落としてしまった子からもお礼を言われた。
バトンを受けた時の、あの泣き出しそうな彼女の顔を笑顔に変えられただけでも、毎朝走り込んでいる価値がある。
リレーは共に走ったみんなの勝利。
その記憶の中に、少しでも僕が居たという事実が残るなら、とても嬉しい』
あの子は絶対に忘れないと思うわ。
勿論、私もね。
あの勇姿は、私の心のアルバムに、しっかりと収録しておいたからね。
『様々な雪が、それぞれの思いを包み、まるで何もなかったかのように街を覆い尽くしてしまう冬。
今年の雪は、僕の心を映す名残のようだ。
彼女とだけは、別れたくない。
彼女だけには、僕を覚えていて欲しい。
今まで何回も転校してきたけれど、こんな気持ちを残していくことはなかった。
最後まで、転校する事を言えずにごめん。
口にしてしまったら、感情が堰を切ったように溢れてしまっただろうから。
・・君のことが好きです。
僕のピアノの音色に耳を傾け、時折、長い睫毛を震わせながら、物思いに耽る君が。
大好きな本を、普段は見せない様々な表情で楽しげに読む君が。
二人きりの時、急に無防備になって、僕をドキドキさせる君が。
もっと一緒に居たかった。
同じ高校に行きたかった。
もっと二人で色んな事をしてみたかった。
手を繋いで家まで帰ってみたかった。
・・今までありがとう。
僕の心の卒業写真に、初めてカラフルな色彩を添えてくれた人。
そんな君を、僕は大好きでした』
そこで文章は途切れている。
・・何過去形で言ってるのよ。
そんなに私が好きだったのなら、男らしく面と向かって口で言いなさいよ。
そうしたら、人生最高の笑顔で応えてあげたわよ。
今、涙が止まらないのは、その時に備えているだけだから。
大体ね、現代には、スマホという、とっても便利なものがあるのよ?
そういえば、彼がスマホをいじってるのを見たことないわね。
もしかして、持っていないのかしら。
今度確かめて、持っていなかったら私がプレゼントしよう。
どうやって確かめるのかって?
そんなの決まっているじゃない。
親の権力は、こういう時にこそ使うのよ?
彼の引越し先の住所を調べるくらい、訳無いわ。
まあ、そんなことをしなくても、『転校した彼に励ましの手紙を書きたい』とでも先生に言えば、教えてくれると思うけど、恋のライバル達(決して主観ではないはずよ)に真似されないよう気をつけないとね。
あ、この本は勿論没収よ。
他人に読ませる気はないわ。
これは私が将来、彼に結婚を迫るための大切な証拠品。
言っておくけど、絶対に、に・が・さ・な・い。
じゃあ、また会いましょうね、宮沢君。
大好きよ。
宮沢文庫 下手の横好き @Hetanoyokozuki
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