第10話 紙ひこうき

 はたして、いつまで飛ぶのか。

 紙ひこうきの行方を四六時中知る者はいない。

 だが、誰かに見られずとも飛ぶ。

 どこまでも飛んでいく。

 境を越え、世界を越えて。どこへでも。

 けれど、いずれその軌道は下降を始めた。

 まるで目的地に着陸するかのように、速度を落としてゆっくりと。

 ある女性の足元を新たな大陸と例えて、ようやく地に着く。

 紙ひこうきの状態は既に再起不能。どれほどの期間を旅していたのだろうか。

 送る、ということだけを意識して飛び続けていたのかその姿は片道の切符。紙くずのなれ果て。

 拾ってくれと紙ひこうきが言っている。

 役割を終えた紙はもう語ることがない。

 願っているのは紙ひこうきをつくった者なのかもしれない。

 女性は、前屈みになり、紙を拾う。

 クタクタでしわしわになってしまった紙を手に入れて、一度は捨てようと考えていた。

 しかし、紙に何か書かれていることに気づいた。

 開けてみる。

 消えぬようにボールペンではっきりと書かれた字に見入ってしまう。



 元気ですか?

 私は元気です。独りぼっちの世界ではありますが、なんとか生きています。

 元気よく、元気です。

 現在、引きこもりのろくでなし生活を送っています。度々、外出を試みるもうまくいきません。

 しかし、外に出なくとも人間は死ぬことはないようです。私は社会の歯車にはなれませんが、生命の歯車は回せるようです。

 最近は、自分を見つめ直している日々が続いています。

 あの時、ああしていればよかった。

 もし、この時自分は別の行動を移していたら?

 なんてくだらないことを考えたりしています。

 そんなことやっても無駄だってわかってるんだけどね。

 だって、人生にイフなんて都合のいい世界は存在しないし、生きているから後悔したりする。

 これを読んでいるあなたもそう思いませんか?

 なんて。

 多分、私は強くないんだと思います。過去を引きずって、縋って、また次の日を繰り返すのだと思います。

 乗り越えることは成長ですが、私はすぐには無理です。

 50メートル走を何度やっても8秒台切れないぐらい無理です。

 でもね、私はそれでも良いんだって。

 受け入れることができてきたんです。

 要するに。

 私は、なんやかんやで、適当に生きてますんで大丈夫ってことです。

 それだけを伝えたかった。

 それだけを送りたかった。

 ありがとう、って私はもう言えたから。

 だから、あなたもどうかお元気で。


                             by加美野かみの 未瑠みる

 


 追伸 そっちでもお酒はほどほどに

 

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ゆめみるかみ 宇津田 志納 @utudashinou

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