西から東へ

生玉神社を過ぎて3つ目の筋を左に曲がる。

コインパーキングでは寂しげにわたしのワーゲンゴルフは帰りを待ってくれている。

足早に精算機に小銭をぶち込み、フラップが降りたのを確認するや否や、

運転席へ乗り込みセルスターターを捻った。


高津から阪神高速にあがり、湊町で環状線へ合流。

中之島から11号池田線で豊中まで線形の良いストレートを気持ちよく流す。

名神から草津ジャンクションで新名神に入る。

ほぼ渋滞もなく信楽まで1時間弱もかからなかった。


インターを降りて最初の信号を右折すれば、つぎの信号の手前には指示どおりコンビニがあった。


そこで待ち合わすことになっていた。


女は、水色のムーヴラテに乗ってくるという。


”ラテ”をやたら強調してきたが、わたしには、ムーヴと、ムーヴラテの違いが

全くわからなかった。


わたしの愛車は、紺色のワーゲン、20年以上前の型で走行距離は15万キロ以上。


カーナビもなければ、エアバッグ、衝突回避ブレーキなど夢のまた夢。


さしづめ、ボロクソワーゲンというところか。


がその分シンプルで人”車”一体となって、わたしの意のままに走ってくれる。


ご機嫌を損ねることも最近は増えてきたが、またそこが何とも愛くるしい。


ムーヴラテが相方ではできない芸当だろうが、車とコミットしようなんておもわないひとが

好んで乗る車なのだろう。


どっちでもいい、考え方の違いだ。



約束の時間よりすこし早くつきすぎてしまったが、コンビニでトイレを借り、女子が好きそうな

飲み物を物色する。


場所柄か、これというのがないので妥協点としてトロピカーナのオレンジジュースを買い、

自分が飲むために、ビールを2本と酎ハイを3本買う。


店員は大学生のバイトだろうか、つり銭をわたしの掌に投げるように渡してくる。


わたしの掌は賽銭箱ではないのだが・・・。



表に出て思いっきり深呼吸すると、なんとなく空気が美味い気がした。


左のドアからドライバーズシートに潜り込み、すこしだけリクライニングを倒し、

どうするか迷って、ビールのプルタブを引いた。


ここで待ち合わせて、ランデブーで近くのパチンコ屋に行き、1台は車を置き相乗りするか


このコンビニに停めたままでも、3-4時間なら放置していても全然平気だと女は言っていたが

そのとおりなのだろう、わたしのほかに停まってる車は、あのバイト君が乗ってきたのであろう

軽トラが1台だけ。スペースは優に20台くらいはあるか。



入口に尻を向けるかたちで前向き駐車をしていたので、すぐそれとわかる、蒼白いヘッドランプが

バックミラーに注ぎ込んできた。


ミラーを覗き込むようにして念のため確認するとやはり、水色の軽四だった。


女はわたしの存在に気づいているのかどうかわからないが、店の雑誌コーナーの前あたりに頭から停めた。


わたしは荷物と、半分ほど飲んだビールを持ち、車を降り、一直線に女の車に向かう。


助手席の窓をコンコンとノックしてから腰を屈めて、笑顔をつくって車内を覗き込むようにして

女の顔を確かめてからノブを引いて、なるべくエレガントに見えるよう、細心の注意を払いながら

助手席に乗り込んだ。


「意外と広いんだね。」


車内の予想以上の広さに、おもわず言ってしまう。


「でしょ?」


笑いながら、


「はじめまして。」



ニッコリわたしのほうに向きなおりながら、微笑みかけてきた。


なかなかの美人だ。予想外の連続で動揺するのをおさえながら、


「あっ、はじめまして。本山です。」


言って笑い、ビールの缶を女のほうへ向け、乾杯の合図をする。



すかさず、トロピカーナのペットボトルを袋から出し、


「よかったら飲む?」


訊いてみた。



「あら、気が利くのね?飲んでいいの?」


潤んだ瞳、若干上目使い、


「いたただきまーす」


言いながらボトルを捻って開ける。


そのまま口に運ぶのかとおもいきや急に訝しげな表情で


「変なもの、入れてないよね?」


訊いてくる。



「今、開けるときカチッて鳴ったやん。」


それが5分前、購めたばかりであり純然たる


未開封であることを抗議の意味を込めて説き伏せる。


何も言わずに、潤んだ瞳をわたしのほうに10cmほど近づけて来て、


疑いの眼差しを投げかけたかとおもうとすっと後退して、窓にもたせかかる。


乾いた笑い声をあげ、ゴクリと喉を鳴らして一口飲んだ。


先刻来、実に表情の豊かな女だなとあらためて思う。


それにしても、ドライアイとは無縁なのか


ドライアイ対策で目薬が手放せないのかは定かではない。


ドライアイと無縁のほうなら羨ましい限りで、わたしのつぶらすぎる目は乾きつつある。


わたしも負けじと、半分残ったビールを一気に飲み干す。



「冷え冷え~美味しい~」


言って、右側のエアコンの吹き出し口のドリンクホルダーにおき、


前に向きなおりながら


「さ、行きますか?」


「行かれますか?」


おうじるわたしのほうを見ずに、女はセレクターレバーを引き、Rに入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの夏のかおり 外道禅太郎 @GoldenRM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ