第11話 召喚術

地面に広がった血液が魔法陣を描き、そこから瘴気が溢れ出し、倒れている他のハグレ達を飲み込んでいく。

まだ息がある者たちばかりだったが瘴気に触れた途端に息を引き取っていった。

広がっていた瘴気が魔法陣に戻ると赤黒く光りだし、膨大な魔力が放出された後、魔物を形作った。


ヒュドラ

種族:ドラゴン

クラス:上位ドラゴン

スキル:ヴェノムブレス、ヴェノムアロー、ヴェノムウェーブ、超再生、毒無効


「さすが5人を生贄に捧げただけあって大物が出てきたな。」

「ヒュドラ...9つの首は1個ずつ切ってもまた生えてくるくらい再生力が高いです。あとは猛毒を備えているので浴びると数分で死に至るとされます。私は亜人さんたちを安全な場所に避難させますので少しだけ耐えていてもらえますか?」

「わかった。頼んだぞ。」

アリスが亜人たちを誘導していく。

俺は9つの頭を持つ毒龍と対峙する。

「がああああああっ!!!」

勢いよく毒のブレスが吐き出される。

ギリギリまで引き付けて避け、一気にヒュドラとの距離を詰める。

「くらえ!ハリケーンナックル!!」

グチャッ!という嫌な感触とともに9つの内の1つの首が吹き飛ぶ。

しかし、すぐに再生した。

「ちっ、これが超再生ってやつか。」

相手のスキル、超再生の回復力に驚く。

「これならどうだ。居合打ち!!」

間合いにあるうちの2つの首を吹き飛ばす。

しかし、次の瞬間には2つとも再生してしまった。

「化け物だな...。」

「ルクス様!避難完了です!」

そこでアリスが戻ってくる。

「アリス!お前の言う通り、全部の首を一気に切り落とさないとダメみたいだ!」

「分かりました!一度やってみますね!」

アリスが勢いよくヒュドラに向かって飛び込む。

「蹴散らせ!風塵乱舞!!」

無数の風の刃とアリスのダガーナイフ、鉄爪による連続攻撃。

だが、ヒュドラは俺たちの予想外の行動にでた。

8つの頭が中央の1つの頭を守るように丸まったのだ。

「そんなのありかよ...。」

もちろん、首が1本でも残っている限り8つの首はすぐに再生した。

そして中央の首はアリスの隙を見逃さなかった。

ヴェノムアロー、口から発射する猛毒の矢。

毒毒しい紫色の矢がアリスに向かって放たれる。

アリスを守るにはこれしかない。

「ドレイン!」

ヴェノムアローをドレインする。

その途端に体から力が抜けて悪寒が走る。

段々と体が動かなくなっていく。

「る、ルクス様!!」

アリスが駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫...だから...そいつに集中するんだ...。」

「っ!!メガウインド!!」

アリスが敵意剥き出しで魔法を使う。

俺は残る意識を治癒魔法に集中するが毒への治癒がほとんど効かない。

それほどまでにあの龍の毒は強烈なのか。

呼吸も段々と浅くなってきた。

「アンチドート!」

聞き慣れない声が聞こえて体がぽわぽわと暖かい光に包まれて楽になる。

解毒魔法か...?

「お兄ちゃん!さっきのお礼だよ!」

猫耳をした小柄な少女が俺に駆け寄ってきた。

「き、君は...さっきの?」

行商人らしき一行の中にいた少女だった。

「私が補助するからお姉ちゃんと一緒に頑張って!」

「わ、わかった!ハリケーンナックル!」

予想外の攻撃にヒュドラが怯む。

「ルクス様!?治ったんですか!?」

「あぁ、この子が治してくれたよ。」

「えへへ。応援しちゃうよ〜!精霊よ、彼の者たちに勇気を与えよ。バースト!」

体中に力が漲ってくる。

これが亜人族しか使えない補助魔法なのか。

「アリス、一気に畳み掛けるぞ!!」

「はい!!風塵乱舞!!」

「居合打ち!!」

アリスとの同時攻撃で8本の首を叩き潰す。

そこで俺が1つの策を講じる。

「ヒール!」

「えっ!?」

アリスが驚くのも無理もない。

俺がヒュドラに向かってヒールをかけたのだ。

「こいつの再生速度を抑え込むために、再生力より強い魔力でヒールをじっくりかけておく!アリス!トドメをさせ!」

「わ、わかりました!黒き鷹よ、風の刃となりて敵を断絶せよ。鷹爪刃!!」

アリスの刃から放たれた黒き風の刃が最後の首を撥ねる。

おびただしいほどの血しぶきを撒き散らしながらヒュドラは絶命した。

「ふぅ...。やっぱり毒物をドレインしたら死にかけるんだな...。」

「あの子が助けに来てくれてよかったです。」

俺とアリスは亜人の子を見る。

「えへへ。私も少しは役に立てたのかな?」

照れ笑いを浮かべながら可愛らしく飛び跳ねている。

「本当に助かったよ。君の名前は?」

「私はロッティ!マレット一座の踊り子なんだよ!」

「マレット一座?」

事情を聞くと、行商人らしき一団はマレット一座と呼ばれる言わばサーカス団のようなものだとのこと。

ミレイ共和国に一時帰国して帝国に向かう途中でハグレに襲われてしまい、絶体絶命の場面で俺たちが通りかかったようだ。

「この度は本当にありがとうございます。どうお詫びをしたらいいか...。」

団長と呼ばれている髭を蓄えてシルクハットを被った亜人が俺たちに深々と頭を下げる。

「お詫びなんていいですよ。ロッティに助けられたのは俺たちの方ですから。」

「えへへ。私も頑張ったんだよ!」

ロッティが胸を張る。

「私たちはしばらく帝国で公演がありますので帝国にお越しの際はいつでもお声かけ下さい。」

「そうさせてもらいます。じゃあ、俺たちはミレイ共和国にいきますので。」

「あ、少し待ってください。」

「?」

去ろうとした俺たちに団長がなにやら手紙を書いて渡す。

「獣人や亜人の中には人間を快く思わない者をおります。そんな時はこの手紙を見せてください。」

「紹介状のようなものですか?」

俺は手紙を受け取る。

俺とアリスには読めない文字だ。

「はい。では私達も先を急ぎます故...。本当にありがとうございました。」

一団が深々と頭を下げたのに釣られて俺達も頭を下げる。

「バイバイ!お兄ちゃん、お姉ちゃん!またねー!」

「またな!」

「バイバイ!」

ロッティとはまたどこかで会えそうな気がした。


ロッティたちと別れた場所から半日ほど歩いたところに集落があった。

木材で壁を作り、かやぶきの屋根で覆った家もあればレンガで作った家もある。

いずれにせよ、帝国よりもアルトリーよりも文明は遅れている様子だった。

「ルクス様。」

「あぁ。気づいているよ。」

俺の心眼によればこちらを見ている生物反応が5体ほどある。

心音から察するにかなりこちらに敵意をむきだしている。

「アリス、戦闘になるだろうけどなるべく傷つけない方向で行こう。」

「わかりました。手加減出来るかどうかは相手のレベル次第ですが。」

俺とアリスも武器に手をかけて歩みを進めた。

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